17話
白磁の鎧が真っ赤に変わっている。
鎧から抜いたのだろう、胸の真ん中にあった宝石を手にしていた。
アライマンが片手をあげると手に大きな炎の塊ができた。
「二人もろとも焼け死ねっ!」
アライマンの絶叫とともに炎の塊が二人を襲う。
振り返ろうとした大上を、カールが力いっぱい突き飛ばした。
首輪が明滅して魔素が逆流する。
全身に酷い痛みが走った。
しかし、狙い通りに大上は炎の直撃から外れた場所に尻をついた。
「おいっ!カール!」
すぐに立ち上がろうとした大上を見てカールが笑った。
直後に炎の塊がカールを直撃した。
「かあぁぁーるぅぅぅぅ、舐めた真似をしてくれたな。仕方ない、お前だけでも良しとしよう」
「くそっ、しっかりしろ!カール」
大上がカールに駆け寄り、上着をかけて火を消そうとする。
「はははははは、無駄だ。この鎧はアーティファクトだよ。アーティファクト。カールはじわじわと嬲るように炎に焼かれて死ぬのだよ。決して消えない炎だ。己の罪を噛みしめながら逝くといい」
「ぶっ殺すぞ、てめえ」
「下賤の者よ己の無力さを思い知れ。私はここから去らせてもらうよ」
顔は血でぐちゃぐちゃ、真っ赤な鎧がさらに不気味さを際立たせていたが、アライマンは満面の笑みを浮かべていた。
笑いながら地面に宝玉を落とし、足で踏みつけて割った。
散らばった破片が光り、薄い線を出して破片同士が繋がっていく。
すべてつながると、アライマンは満足そうに言った。
「このお礼は必ずさせてもらう。いずれかなら……ぐっ、はっ」
アライマンが言い終わる前に大上は折った剣を投げつけた。
剣先がアライマンの腹を横から貫いた。
そして、アライマンは短い悲鳴を上げて魔法陣の光が消えると同時に姿を消した。
急いでカールを見ると黒い炎が全身に纏わりついていた。
燃えると言うより燻ってるように見える。
「くそっ、カール生きてるか?返事しろ」
声をかけても、カールから返事はなかった。
大上は急いで自分の荷物を拾い、中からペットボトルを取り出した。
事前に多く持ってきたのでまだまるまる1本のペットボトルに湧き水が入っている。
急いでカールのとこへ戻ってペットボトルの水を全身に隈無くかけた。
すると、おかしなことが起こった。
「ん?」
大上は首を傾げる。
アライマンは決して消えないと言っていた火がすぐに消えたからだ。
まー、悪い方に転んだ訳では無いのでどうでもいいか、と大上はカールの様子を見る。
息はあるが呼吸が荒い。
何かないかと荷物を漁ってみてもろくな物がなかった。
出てきたのは、食べかけの肉と怪しげな人参もどき。
食わせていいものかと少し悩む。
しかし、こんなものしかない。
とりあえず、口元に運んで見て判断しようと考えた。
最悪、どれくらい体力が持つか分からないが、拠点に連れて行って様子を見る事も考えないといけないだろう。
肉を細かくして口に運んだが噛もうとしない。
人参を石で細かくして水に少し混ぜて口に流した。
すると、ぽわっとカールの口もとが光った。
ごくっと喉が動いて、カールが目を開けた。
「お、おおが、み……どの?」
「カール!驚かせやがって」
「ア、ライマン……は?」
「何か、変な石を砕いて消えていったぞ。折れた剣を横っ腹に突き刺してやったけどな」
「ふはっ、流石で、す」
「いいから喋んな。ほらっゆっくり飲め」
大上はカールの口もとに人参モドキを飲ませた。
そして、また口元がぽわっと光る。
すると、カールが起き上がった。
「おい、大丈夫かよ」
「なんです?これは?」
「さあ?」
「さあ?って、そもそもアライマンが出した炎はアーティファクトによるものですよ。どうやってあの炎を消したんですか?そもそも始めの燃え方からしておかしい……一体なにが……」
カールが考えを巡らせていると、首元でガチャンと、音がした。
大上が首輪をはずしたのだ。
「元気になったんなら何でもいいだろ。その人参モドキもやるよ」
「人参モドキ?なんですか、これ?」
「カールも見たことねーのか。森の中に生えてんだよ。抜くとよ、すげー声で鳴きやがるんだよ」
「鳴く?」
「で、走って逃げる」
「鳴いて走って逃げる?」
「そうそう、気ぃ抜いてっと気絶するからな。初めて見たときはぶっ倒れた仲間の上に座って煽りまくりやがったからな」
「まさか……」
「生だとよ、悲鳴あげるし、クソ苦ーし、ムカついてこの水の中に沈めたら、酔っぱらいみたいになって動かなくなんだよ。
でよ、これ食うとあんま腹へんねーし怪我も早く治ったりすんだよ。」
「まさか……マンドラゴラと酔いどれの水……ありえない」
その後、大騒ぎするカールから事情を聞いてもピンとこなかった。
ヤキモキしているカールに大上は、今度お前んとこにたくさん持っててやるからと言って宥めようとしたが、里の仲間たちを全員奴隷にするつもりですか?と本気か冗談か分からないことを言われて、拒否られてしまった。
そこで二人は笑い合い、固く握手をしてそこから別の道を戻って行った。




