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アンチ異世界ヒーローズ  作者: 木戸健雄


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18/18

18話

 翌日の朝、不良たちの拠点で一泊した湊は、鼻歌交じりで自分たちの洞窟へ戻ってきた。

 丸一日ぶりである。

 湊が入り口にいた生徒に手を振ると、慌てて中に引っ込んでいってしまった。

 同じテンションで挨拶が返ってくるとまでは思っていなかったが、まさか無視されてすぐさま洞窟に引っ込んでしまうとは思わなかった。


「あっ……」


 湊は行き場のなくなった手をそっと引っ込める。


 しかし、その直後に数人の生徒が洞窟から飛び出してきた。

 周りを囲まれて、手にしていた葉っぱで包んだ肉をひったくられた。

 リュックも降ろされて、全身を隈無くチェックされる。

 食料の有無の確認と、お肉を回収しにきたのだろう。

 気持ちは分かるが、ショックだった。


「おいっ!なんともないのかよ?」

「ん?」


 湊は小首を傾げた。

 聞かれた意味が分からなかった。


「だから!暇つぶしにサンドバッグにされたとか、獣の前に放り出されて囮に使われたとか、そういうんだよ」


 中々に物騒な話である。

 湊は改めて柏木たち分校の生徒がどう思われているのかを認識した。


 そこに橋本がやってくる。


「皆、心配してたんだよ」


 送り込んだくせにとは言わなかった。


「怪我はないな」


 と言われて頷く。

 でも、嬉しい。


「皆にお土産あるよ」


 そう言って湊は地面に置かれた葉っぱで巻いた肉を指さした。


 湊が思ってたよりも、食料事情は切迫していた。

 橋本によると、肉はまったく取れていない。

 野草、山菜、木の実類を重点的に探して回っていた。

 今は収穫してきた物を、肌につけたり、舌に触れたり、軽く口に含んだりして食べられるかどうかをチェックしている段階だと言う。

 収穫物の半分はかなりヤバそうだった。

 だから、手持ちの食料が減っていっても、確認なしでは怖くて食べられなかったのだ。


 そんな中、湊が持ってきた肉は、全員が腹いっぱい食べても余るほどあった。


 まさに救世主。

「神様、仏様、湊様」状態である。


 洞窟に入ると、騒ぎを聞きつけた女子生徒たちも集まってきていた。

 大半の生徒が何か問題でもあったのかと不安そうな顔をしている。

 後ろにいた生徒が得意そうに肉を掲げて言う。


「今日はたっぷり肉食えるぞ」


 わぁーっと歓声が上がる。


 しかし、数人の男子生徒から盛大に突っ込みをうける。


「もぅてきたのは日向だろ」

「お前が得意そうにすんなよ」

「早く下に置けよ」


 項垂れて肉を置くと湊にペコッと頭を下げて引っ込む。


 湊としては柏木から、譲って貰ったというだけ。

 ちょっとは手伝ったけど、そんな感覚なので過分すぎる称賛を受けて少し気後れしてしまう、


 そこへ鏑木が来て湊に聞く。


「日向くん、お肉本当にいいの?」

「うん、皆に食べて欲しかったから大丈夫」


 湊が笑顔で頷くと、鏑木は目に涙を浮かべて深く頭を下げた。


 調理は、鏑木が呼びかけて立候補した数人に、お願いすることになった。

 焼くだけでも、数十人分ともなれば、結構な重労働である。

 湊も当然のように参加するつもりだったが、功労者は黙って座ってろと言われたのは嬉しかった。

 それと、何故か醤油を持っている生徒がいるらしく、お礼に湊の肉に使ってくれるらしい。

 湊は、柏木たちの分もないかと聞いてみたが、量はそんなにないとのことで、一人か二人分ならと言われた。

 しかし、醤油を巡って殴り合いになる絵しか思い浮かばなかったので、丁重にお断りしておいた。


 その後は不良たちと同じように切れ端を口にした調理班から歓喜の声があがってちょっとした騒ぎになり、湊に代わる代わる礼を言いにきたりした。

 橋本たちに、柏木たちとどう過ごしていたかや、彼らの拠点の素晴らしさを語っているうちに、あっという間に食事の用意が出来た。


 洞窟の中は学年集会を開く視聴覚室くらいの大きさがあって、男子生徒の寝床を除いて全員が座っても問題ないくらいの広さである。

 湊がこの洞窟に来て、全員がちゃんと揃っているところを見るのはこれが初めてだった。

 もちろん、担任の田所や竜崎たちはいないが、それでも少しうれしくなる。


 少しずつ、少しずつ環境を整えていって、みんなで協力出来るようになれば、なんとかやっていけるのではないかと思うのだ。

 事実、満面の笑みで食事をするみんなの様子を見ていると、そうなるように感じた。


 そんな温かい目でみんなのことを見ていると、少し慌ただしくなった一角があった。

 体調が悪い生徒たちがいる場所だ。

 食事をしてない、と言うより受けつけない生徒がいるのだ。

 三日も経つと顔色や体調に変化が出て、素人目にも具合が悪そうなのが見て取れる。

 特に酷いのは女子二名と男子一名である。

 いい状態ではなく、湊の持ってきた肉も受けつけなかったらしい。

 癒しの魔法が使える生徒と一緒に洞窟の外へ出ていった。


「大丈夫かな?」


 湊が言うと、橋本が首を振った。


「何も受けつけないんだってよ。食べなきゃどうしようもないんだけどな。持ってる奴から集めたゼリー系の飲料も飲みきったし、それからはなにも食ってねーんだよ」


 ゼリー系……飲料……。


 湊は少し考えて、ハッとなった。


「大丈夫……かな? いや、ちょっと、でも……」


 一人頭を悩ませる湊の様子に橋本が言う。


「何だよ。言ってみろよ。このままでも解決出来ねーし。回復魔法もそんなに効果ないってよ。ダメ元だろ」

「えーと、その……」


 もごもごと口ごもる湊を見て、橋本が苛立ったように言う。


「はっきり言えよ。委員長やみんなに伝えるかは俺らで決めればいいだろ」

「……怒らないでね」

「怒らねーよ」

「歩く人参がね」

「ぶっ飛ばすぞ」

「……」


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