14話
分校の生徒たちの拠点。
少し奥にある東屋の真ん中で、湊は正座していた。
場違いだからと固辞したのだが、柏木と番場がここに座れと言って譲らなかったのだ。
その理由は、湊が提案した血抜きによって、劇的に食料問題が解決したからである。
実際、あそこで熊肉を解体した不良たちの驚きと喜びようは凄かった。
いままで食べた肉と様子がまるで違ったのだ。
食欲を根こそぎ奪うようなあのやばい匂いがほとんどしない。
綺麗な赤身と、それを囲う純白の脂身は、見ているだけで食欲がそそられた。
全員が、我慢できなくなった。
番場が薄切りにして火で炙ると、暴力的なまでに香ばしい匂いが辺りに漂いはじめた。
焼けた肉を一切れずつその場にいたメンバーに配る。
口に入れた途端、固まった。
こんなのは食べたことがなかった。
歯に当たる程度には弾力を感じるにもかかわらず、プチンと抵抗なく噛み切れて、甘い脂が溢れ出す。
たった一切れの肉を口にしただけだというのに、皆最初の一口で声を上げてからは無言だった。
噛み締めるように、名残惜しそうに味わっている。
やがて、食べ終えた番場がボソリと言った。
「やばいな、これは。殺し合いになるぞ」
功労者として端肉を多めに貰い、幸せそうに頬張っている湊以外の全員が揃って頷いた。
こんな経緯で、湊は卓の上座を用意されていた。
「おーし、揃ったかー?」
柏木が声を上げると、うっす、と野太い声が返ってくる。
ざっと見て、三十人近くいるだろう。
どう見ても、反社の集まりか、族の集会である。
警察官に職務質問でもされそうな一発アウトな絵面だった。
そんな連中の上座に座っているのだから、場違いには違いないが、何かに捧げる生贄、もしくは拉致られた人質として見れば異様なほどしっくりときた。
「よぉっ、柏木、なんでそいつがそこに座ってんだよ?」
周囲を取り囲むように座っていた不良の一人が言う。
ビクッと湊の身体が震える。
しかし、柏木は、にっと笑う。
「すぐに分かるぜ。ミナトンが何したか」
「はっ? こいつが? 何が出来んだよ」
不良が鼻で笑う。
だが、湊と一緒に番場のところへ向かった不良の一人が口を挟んだ。
「余計なこと言わねー方がいいぞ。後悔すんぞ」
「はっ。笑わせる。後悔させてみろよ。つーか何なんだこの集まりはよー。飯食うだけだろうが」
「その飯のことだろう」
番場が呆れて口を開く。
「どうせ、くっせー肉と気味悪ぃ野菜しかねーじゃねーか。柏木、テメーの持ってきた毒キノコ忘れてねーからな」
ここに一人被害者がいた。
「テメーが虚弱体質なだけだろうがよ。俺はなんともねーからな」
「出鱈目なテメーと一緒にすんじゃねー、死ぬとこだったんだぞ」
「悪ぃと思ってちゃんと隔離してやったろうが」
「ふざけんなよ。穴掘って放り込みやがって、そのまま土葬しようとしてただけだろ」
死ぬほど物騒な会話だった。
柏木が大したことねーと言っていたきのこは笑えないレベルだったらしい。
それなのに数日でケロッとしてるこの人も大概だなと湊は思う。
そんな言い合いの最中に、肉の焼けた暴力的な香りが漂ってきた。
不良たちがにわかに騒がしくなる。
「おいっ、なんだこれ」
「肉か?肉だよな?」
「嘘だろっ? ヘドロみてーな匂いがしねーぞ」
三人の不良が、大量に焼いた肉を木で出来た大判の皿の上に積んで持ってきた。
ドサッと東屋の前に置く。
柏木が立ち上がり、皆に向けて言う。
「好きなだけ食え、肉は大量にある。この調理方法を教えてくれたのがミナトンだ。後な、こいつを倒したのもそうだぞ」
「「「「「うおぉぉぉぉーーー」」」」」
たぶん、柏木の言葉は耳に入ってないだろう。
不良たちは、地鳴りのような雄叫びを上げて、一斉に肉に群がった。
血走った目で、奪い合いのようになりかけたが、肉は大量にあるので各々が用意した皿のようなものに取り分けている。
皆、手づかみで取っていたが、中には自作の箸のようなものを使って、取っている者もいた。
自分の場所へ戻った不良たちが、さっそく肉にかぶりついた。
「うおっ、なんだこれ?」
「信じらんねー、脂が溶けんぞ」
まだ皿を覗き込んでいた連中も、隣で食べる様子を見て、次々と肉を口へ運んだ。
柏木は一切れ食べるたび、湊に顔を向ける。
「ミナトン、これほんとやべーな」
番場も、肉を食べる合間に湊の肩をぽんぽんと叩いていた。
そこへ、湊が上座にいることに文句をつけていた不良がやってきた。
湊の前で足を止め、顔を覗き込む。
「日向だったよな」
「はっ、はい」
名前を聞かれて、湊が返事をすると、不良が頭を下げた。
「済まねー。マジで感動した」
「あっ、いえ、そんな」
湊が手を振って謙遜する。
「いや、マジですげーよ。松羽明臣だ。何かあったら言ってくれ」
「はい、日向湊です」
松羽はそう言うと自分の席に戻って行った。
それからも、肉を取りに来た不良たちが口々に礼を言っていく。
それを柏木たちは満足そうに見ていた。




