13話
相澤たちの寝床に連れてこられて、開口一番こう言われた。
「魔法について洗いざらい話せ」
何を言われるのか戦々恐々としていたので、思わず拍子抜けしてしまった。
「えっ?」
「魔法だ、魔法。お前ら洞窟のとこで練習してただろ」
「あっ、はい」
「洞窟には近づかねーって約束させられたからな」
「だから、拉致った」
相澤が笑顔で付け加えた。
横の不良もうんうんと頷いている。
「洞窟からは誰も出てこねーしよ。大分待ったぜ」
「何言ってやがる。五分程度で戻ってきたじゃねーか」
「いーじゃねーか。すぐに見つかったんだからよ」
二人は1ミリも理解できない内容で小競り合いを始めた。
だが、そんな様子を見ながらも少しホッとする。
最悪、分校の生徒たちが普通科のなけなしの食料を奪い取りに来る可能性も考えていたのだ。
どうやらそうではないらしい。
「知ってること、さっさと吐け」
「おいっ、賢知、言い方があるだろ。まだ名乗ってもねーじゃねーか。俺は金井亮太だ。でっ、こっちは相澤賢知。後の3人は肉を処理しに行ってから後で紹介するわ、名前は?」
「田仲、浩史です」
「おしっ、たなでいいか?」
「はっ、はい」
日向といい、橋本といい、不良はなんであだ名をつけたがるのだろうと思ったが、二人に比べれば全然問題ないので余計なことは言わないようにした。
「魔法、使えるだろ?」
金井が確信を持ったように聞いてくる。
「洞窟の入り口のとこでお前たちが練習してるのを見かけたって言ったろ?」
田仲はコクリと頷く。
「こんな感じです」
そう言って、手のひらから小さな炎を浮かび上がらせた。
「マジか……」
「すげぇー」
二人は感嘆の声を上げる。
田仲のマネをして手のひらを上に向け、力を入れたが何も起こらない。
顔を真っ赤にしてぬぐぐぐぐとか言って唸っている。
そんな二人を見て、口を開く。
「あの、皆さんも魔法は使ってると思いますよ」
「なに?」
「あの、普通科のみんなと少し検証しただけで確信があるわけじゃないですけど」
「あれだろ、柏木とやりあった時の。あの喧嘩だろ」
金井が相澤を見ながら言う。
田仲も湊から聞いていた話だ。
確か、木が折れて、地面が抉れたとか。
あれをただの喧嘩で済ましてしまうのかと呆れてしまう。
「いや、でもよ、あれくれー、前から出来たろ」
相澤が納得いかないと口を挟む。
「できるわけねーだろ、ちょっと黙ってろ」
金井がぴしゃっと言う。
「あの、僕たちはあまり使えないんですよ」
「ん?」
「身体強化です。皆さんのように身体が頑丈になって攻撃の威力が上がったり、ダメージの無効化というか、痛みとかを感じないというか、そういうのを言うんですけど……」
田仲の語尾が尻すぼみになっていく。
最後に消え入りそうな声でポツリと言う。
「漫画とか小説だと……です……」
「マジか!聞いたか? 魔法使えるってよ。練習すりゃあ火もだせっかもな」
「おぉ、どうりで熊とかに襲われてもそこそこやれると思ったんだよ」
田仲は子どものようにはしゃぐ二人を見て、認識が少し変わった。
聞こえたのか、聞こえなかったのか分からないが、馬鹿にされない。
なんだか自分が彼らに対して先入観をもって対応していたことが恥ずかしくなる。
「これで出し抜きゃ、柏木を殺れんな」
前言撤回。
何も聞かなかったことにして、田仲は会話を続ける。
「あの、これも憶測ですけど、火や水、土とか一般的な属性ごとにも、人によっては使える使えないとかあるみたいです」
「殴り合いが得意とかそうじゃねーとかか?」
金井が言う。
田仲は、敢えてスルーする。
「はっ、はい、それと別にですね。現象に対しての理解というか、例えば何で火がつくのかとか。水は空気中にも水分があってとか。その理解してても人によっての解釈とかそういうのが、ちゃんと想像できてるかでも違いがあるみたいで……」
一息に話し続けたが、見ると二人とも固まっていた。
「あ、あの」
「何の呪文だそれ、何言ってんのかまったく理解できねー」
相澤が言う。
「俺もだ」
金井も頷いたが、少し考えて、また口を開いた。
「なぁ、なんで俺らはその身体強化?ってやつは使えんだ?」
田仲は、脳筋だからだと思いますよ、とは言えなかった。
「え、えーとですね。恐らく普段から身体を動かすことに慣れているからだと思います。ただ、僕も他のみんなも何回か使うと疲れてきたり、頭が痛くなったりしました。使い続けると少し慣れてきたので、多分マラソンとかの持久力に近いのかと思います」
大分オブラートに包んで伝えた。
「なるほどな」
金井が頷く。
その時、入り口付近に足音が近づいてきた。
肉の処理に行っていた三人が戻ってきたのだ。
「焼けたぞー」
「肉食わしてやっからよ」
「マジで火つけんのだりぃわ」
金井が、しゃべった順に大岩、石井、北、だと紹介する。
三人には、田仲だからタナな、と言う。
「おしっ、食いに行くぞ。出てすぐそこだ」
大岩が指さした場所にいくつか石のテーブルのような物があって、そこに葉っぱが敷いてある。
田仲は、えっ、さっきの奴、食べるの? と思ったが流石に言えなかった。
空腹だったが、それよりもあれを食べて大丈夫なんだろうか、という不安のほうが先に立つ。
田仲の生存本能が警鐘を鳴らしていた。
かなりガチめに。
だが、捌くの苦労したぜ、と嬉しそうに言われてしまえばもう腹を括るしかないと思う。
「剥いて焼くだけだろうが、偉そうに言うな」
相澤がそんな突っ込みを入れた。
──剥いて焼いただけ? あれを?
「たっぷり食えよ」
そう言って、田仲の目の前の葉の上に肉と尻尾の一部をドサッと置いた。
本当にたっぷりだった。
日常でこの量のステーキを出されたとしても、食べられるか分からない量だった。
表面は黒く焦げ、割れ目からは赤黒い肉が覗いている。
立ちのぼる湯気には、嗅いだことのない獣臭さが混じっていた。
箸なんて上等なものはなく、手づかみで口に運べと金井がジェスチャーで見せる。
恐る恐る手で肉の一部を掴んで、口に運んだ。
瞬間、凄まじい臭みが鼻腔を駆け巡る。
とても耐えられなくて思わずえづいた。
よく見るバラエティー番組で、現地の人から食事を提供された際に、一番やってはいけないことと言われていたことだ。
田仲の頬に冷や汗が流れる。
もう遅いかもしれないが、涙目で必死に飲み込んだ。
殴られるかもと思いながらも、感想を言おうと顔を上げる。
正面で相澤が「クソまじぃ」と言って肉を吐き出していた。
続けて金井が、大岩に言う。
「テメー、なんだこれ?味見してんのか?」
「するわけねーだろボケが。まずかったとしてもこれしかねーだろ」
大岩が睨み返して肉を指差す。
田仲はそのやり取りを見ながら、自分の目の前の肉に視線を戻す。
──そう、まずくてもこれしかない。
だったら生きるためにこれを食べる。
剥いて焼いただけでも……剥いて焼いただけ?
血抜きは……?




