カエルさん
カエル「さん」の恐怖で今度は僕が滝川さんのひっつき虫に成り果てている。
「滝川は嬉しいですけど〜…普段どうやって生活しているんですか〜?ほら、この辺田んぼとか、自然とか、いっぱいありますし〜カエルさんいっぱいいそいです〜…」
「ど田舎って言いたいんだべ??」
「違います違います〜…」
滝川さんはぶんぶん首を振る。
「でも本当に遭遇率高そうです〜」
「…夜道は端っこ見ないように歩く」
「対策それなんですか〜?」
「あと雨の日なんかヤバいからね…」
「雨の日ですか〜…?」
「マジでアイツら雨の日テンション高いんだって!!」
ぴょんぴょん出てくるんだ、しかも大量に。
大袈裟じゃない、本当に足の踏み場もないほどに…。
「ああ…ああ〜!!」
全身に悪寒が走り滝川さんに力強く抱きついてしまう。
「あ〜、もうっ三田さんったら〜♡」
滝川さんの甘い声とかもはやどうでも良い、この気持ち悪さをただちに払拭して欲しい。
「今日は滝川がいるので安心ですね〜♪」
「…マジでそう」
「おっ」
「カエルに関しては、頼りにしてる…」
「ふふ〜♡」
滝川さんが嬉しそうに胸を張る。
身長ちょっと高いからこういう時だけ妙に頼もしく見える。
「任せてください〜カエルさん出たら滝川が追い払います〜」
「だから敬称やめろって…」
「滝川には恩人ですよ〜?」
滝川さんはまた楽しそうに笑う。
人じゃねえし。
「でも〜」
「?」
「普段あんなにブレーキ役なのに、カエルさん一匹でべったりになるの、ギャップすごいです〜♡」
「……」
否定出来ない。
「…じゃあカエルさん常備しようかな〜…」
「え?えっ??」
なんか今、物凄くヤバい事呟かなかった??
「待って待って待って」
「はい〜?」
「何を常備する気??」
「カエルさんです〜♪」
「いやぁ!!!!」
声が裏返った。
滝川さんはけらけら笑っている。
「だって〜カエルさんひとつで三田さんいっぱい抱きついてくれますし〜♡」
「代償がデカ過ぎる!!」
「小さいカエルさんならポケットに入りますよ〜?」
「やめてやめて!!」
「え〜?」
滝川さんは本気で不思議そうな顔をする。
怖い。
この人マジでズレてる。
「想像してみてよ!!」
「はい〜?」
「君が『じゃーん♪』ってポケットからカエル出してくるんだよ!?最悪だろ!!」
「じゃーん♪」
「ぎゃあ!!!!」
滝川さんが差し出した手には何もなかった、エアーだった。
良かった。
心臓止まるかと思った。
「ふふ〜♡」
滝川さんは完全に味を占めている。
(この女…)
「いやぁ三田さんの弱点をまた一つ見つけちゃいました〜♪」
「…ごめんだけどそんな事した日にはぶん殴るからね!」
脅しじゃない、そんな事されたら僕は本気でやる。
「え?良いんですか〜!?」
「なんでぶん殴って欲しいみたいな言い方なんだよ…」
滝川さんはぱちぱち瞬きをしてから、
「だって〜…」
「言わなくて良い」
「三田さんに乱暴されるって、なんか特別感ありますし〜…♡」
「はい、ダメー!!」
反射的に軽く頭を叩いた。
ぺちん。
「きゃっきゃっ♡」
「喜ぶな!!」
なんでダメージ受けた側が嬉しそうなんだ。
ゲーコゲーコゲーコ
たまに
ゴロロロロ…
というカエルの大合唱が聞こえてきて
あ、周りには無数のカエルがいるんだな、と改めて身震いをしてしまう。
背筋がぞわっとした。
「……」
「…三田さん?」
「……」
滝川さんは最初こそ笑いを堪えていたけど途中から少しだけ困った顔になる。
「…そんなにダメなんですね〜」
「ダメ…」
「うぅ〜…」
滝川さんは少し考えてから、僕の手を握り直した。
「じゃあ〜」
「……?」
「カエルさんの話、もうやめます〜」
「……」
「当たり前だよ…こっちが本気で嫌がってんのに、茶化してくるし…マジ、二度としないでよ…」
自分でも思ったより強い声が出た。
「……」
滝川さんがぴたりと黙る。
さっきまでのふにゃふにゃした空気が少しだけ止まった。
「…ごめんなさい〜…」
しゅん。
握っていた手の力が、少し弱くなる。
「……」
「滝川、つい調子乗りました〜…」
「……」
「本当に嫌だったんですね〜…」
「嫌だって言ってるでしょ…」
「うぅ…」
滝川さんは目を伏せる。
ちょっと言い過ぎたかも、と思った。
でもあのポケットカエル宣言は普通に恐怖だった。
「嫌がってる人にしつこくするの、良くないですよね〜…」
「……分かってくれたなら良いよ」
「はい〜…」
少しだけ沈んだ声。
「あの〜…」
恐る恐るとう言葉がとてもよく似合う声色。
「何?」
「…滝川の事、嫌いになりました〜…?」
「……」
正直、あのテンションを続けられていたら、本気で嫌いになっていたと思う。
…とやんわり答えようと思った瞬間
「うえぇ〜…」
「あら?」
滝川さん、泣いちゃった。
ぼろっ。
大粒の涙。
「滝川、死んで詫びます〜許してください〜…!!」
「あっ…」
滝川さんは大きめな砂利の地面に、土下座をする勢いで両膝をついて項垂れた。
いや、コレは土下座だ。
「いや、そこまで責めてないって!」
「でも三田さん、今ちょっと間がありましだ〜…!!」
「そりゃ考えてたから!!」
「うわぁ〜!!いやだぁ〜!!!!」
田舎とはいえ、単純に声がうるさい。
滝川さんって何度か泣いてるけどここまで大号泣は初めてだ。
「捨てないでください〜…!!」
滝川さんはがばっと僕の足にしがみついてくる。
(死んで詫びるって言ってたじゃん…今度は命乞いか…)
顔びしょびしょのボロ泣き。
ここまで来ると究極に哀れだ。
「滝川が死んだら許してくれますか…!?」
「いやいやいやいや」
とにかく田舎の夜道で縋りつかれている、絵面が非常にまずい。
「とりあえず離れようか?ね?」
「いやだぁ〜!!!!」
「………チッ」
「嫌だ嫌だぁ!!なんでも言うこと聞きます〜許してくださ〜い…!!!!」
めんどくせえ…。
どうしよう、このまま許さないでおこうかな、マジで。
なんか、僕の性格が終わってるからか、こういう滝川さんを見ていると逆にまだちょっと意地悪したくなる。
つづく




