表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/56

最寄駅




帰りの電車にて。



「自分で犬犬言ってるけど、君の方が身長高いじゃん…可愛がれるサイズじゃないじゃん…」


「そうですか〜?三田さんの方が大きくないですか〜?」


「アホか!!その差は歴然じゃねえか!!」


なんのフォローだよ。


「え〜?こうして座ってると同じくらいの目線ですよ〜?」


「…僕が短足なのいじってる??」


「違います〜!!そもそも普段からそんなに気にしてないですけど〜…」


「あっそ!」


(僕は思いっきり気にしてるべ!せめて170は欲しかったぞ!!)


「…なんか怒ってます〜?」


「怒ってねえよ!仮に怒ってたとしても僕のじ、人生になんの変化もねえよ!」


「噛むほど怒ってるじゃないですか〜…」


「噛んでない!」


「じ、人生ってなってました〜」


いちいちうるせえ。


うるせえ滝川さんは肩を揺らして笑っている。


「三田さん身長気にしてたんですね〜」


「男子高校生は割とみんな気にするんだよ!」


「へぇ〜…」


「君みたいに僕よりちょっと高い側には分からんだろ…」


「むっ!ちょっとですよ〜?」


「そのちょっとがデカいんだよ…」


「でも〜」


滝川さんはにこにこしながら僕の隣に肩を寄せる。


「三田さん、小さい感じしませんよ〜?」


「哀れみ?慰め?」


「違います〜なんか普通に、ちゃんと男の人って感じです〜」


「……」


急にそんな事言われても…反応に困る。


「あと〜」


「まだ何か?」


「このくらいの身長差、抱きつきやすいです〜♪」


ぎゅう。


「わっ!やめてよ電車ん中で〜」


「やめません〜♡」


目撃者多数、もうダメだ。




そうこうしている内に電車は減速し、僕の最寄り駅に到着しそうだ。


「……」


滝川さんは名残惜しさ全開の顔。


「…もっと一緒にいたいです〜…」


言葉にも出してきた。


…正直僕も同感だけどさ。


「そんな事言われても…どうせ明日も会うじゃん…」


「あっ!滝川、三田さんのお家の場所分からないです〜!!」


プシューー



電車のドアが開く。


抵抗する滝川さんの腕を無理矢理引き剥がして席を立つ。


「…位置情報送るから…じゃ、また明日」


滝川さんの、あ〜…という声が聞こえたが、振り返らない。


ホームに降りて少し背伸びをする。


「〜〜!!」


久しぶりに自由になれた気分。



「……」


見慣れた改札も何もかも今は違って見える。


彼女が出来て初の景色なのだから、と一瞬思ったけどそれはそれでメルヘンが過ぎる。



「へぇ〜…滝川、ここの駅で初めて降りました〜」


「えっ!?」


反射で振り返る。


そこにはまぎれもない滝川さん。


「……」


「……」


「なんで降りてんの!?」


「?」


滝川さんは不思議そうに首を傾げた。


「だって三田さんのお家、直接見て覚えたいです〜」


「位置情報送るっつったべ!?」


「下見は大事です〜…それに〜」


「それに?」


ガバッと僕の腕に絡みつく。


あ、短い自由だったな、僕の腕。


「…もっと一緒にいないと、恋人だって実感がなくなりそうで〜…


…ダメですか〜…?」


滝川さんが覗き込んでくる。


少しだけ不安そうな目。


「…ダメっつっても…もう降りちゃったんだべ?」


「はいっ」


「…しょうがないよな」


一瞬で表情が明るくなる。


「頑張って道順覚えます♪」


駅を出る。


地方駅特有の静かな夜。


なぁんもねえ。


「三田さん、毎日ここ歩いてるんですね〜」


「まあね」


「へぇ〜…」


滝川さんは珍しくきょろきょろしながら歩いている。


初めて来る場所だからか、ちょっとテンションが高い。


飼った事ないけど初コースを散歩する犬ってこんな感じなのか?


「なんもないでしょ」


「ありますよ〜」


「?」


「三田さんを感じます〜」


「感じるなよ」


「三田さんがどんな景色見ながら育ったのかな〜って、ちょっと分かる気がします〜」


「……」


なんか急に、変に詩人みたいな事を言う。


「別に大した場所じゃないよ」


「でも三田さんはここにいたんです〜」


「……」


滝川さんは僕の腕にくっついたまま、静かな景色を楽しそうに眺めている。


本当に犬の散歩みたいだ。


犬とは違う次元で素直に可愛い、とつくづく思う。


「?」


僕の視線に気づいた滝川さんが首を傾げる。


こういう一つ一つの仕草も、可愛い。


でも、この人が僕の初彼女なんだよな、今だに実感が持てない。


「どうしました〜?お家の場所忘れちゃったんですか〜?」


「……」


軽く拳骨でも喰らわそうかと思った、けど。


代わりにその頭を撫でた。


さら、さら。


「……っ」


滝川さんの肩がぴくっと跳ねる。


急に静かになった。


「……」


「……」


「…なんですか〜…急に〜」


声がちょっと小さい。


「いや」


撫でながら、自分でも少し考える。


「実感ないって思ってたけど」


「……」


「こういうの、自然にやってる時点で、もう彼女なんだなって」


「!!

み、三田さんがそんな事を…」


「事実だし」


「ズルいです〜…」


「なんでだよ」


「滝川ばっかりドキドキしてるみたいだったのに〜…」


「してるよ、普通に」


「っ……♡」


撫でられながら視線だけが忙しなく泳いでいる。


「……」


「……」


「……もっと撫でます〜?」


「図々しいな」


でも手は止めない。


やっぱりいつもの道なのに、全く別の場所みたいだ。




ふと、通りがけの自販機に目が行く。


(品揃えは変わらないか)


ぶぅぅん…と低く唸る蛍光灯。


その明かりに照らされた自販機。


「……っ」


黒っぽい影。


ぺた。


自販機のボタン付近に張り付く、小さい物。



カエル。




「ぅわっ!!」


反射だった。


気付いた時には滝川さんに抱きついていた。


「きゃっ♡」


「違う違う違う!!!」


「えっ♡えっ♡」


「違うから!!」


「三田さんから抱きついてきました〜♡」


「じゃなくて!!」


指を震わせながら自販機を指差す。


「…か、カエル……」


「?」


滝川さんがそっちを見る。


「…あ、本当です〜カエルさんいます〜」


平然としてる。


なんで???


「む、無理無理無理、近寄れない…」


「えぇ〜?小さいですよ〜?」


「サイズの問題じゃないんだって!!」


なんかもうあの張り付き方がダメ。


質感もダメ。


跳ねるのもダメ。


全部ダメ。


「三田さん、カエル苦手なんですか〜?」


「大嫌い…」


「へぇ〜…」


滝川さんはちょっと面白そうに僕を見る。



「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い…」


自販機に張り付いていてもアイツら何考えてるか分かんないし、跳ねるから、今にも飛びかかってくるんじゃないか、という不安でいっぱいで滝川さんに抱きついたままその場を動けない。


「ふふ〜♡」


僕の不安とは逆に滝川さんは満足そうに笑う。


(何笑っとるんや?)


「…滝川さん?」


「はい〜♡」


「なんで嬉しそうなの」


「だって〜…」


滝川さんは僕の背中に腕を回す。


ぎゅう。


「三田さんから抱きついてくれるなんて〜」


「仕方ないでしょ!!」


「でも可愛いです〜」


「男に可愛い言うな…!」


「怖がってる三田さん、レアです〜♪」


レアなんて言われても…


雷とカエルは無理。


本当に無理。


雷は怖いし、カエルは気持ち悪い。


「…まだいる?」


「います〜」


「うわぁぁ……」


「そんな嫌ですか〜?」


「嫌だよ!!」


滝川さんは、けらけら笑いながら僕の頭をぽんぽんする。


完全に立場が逆転してる。


「…チューしてくれたら追い払ってあげますけど〜?」


「い、嫌だ…!」


「なっ…!?」


「だってアイツらどこ跳ねていくか分かんないじゃん!!」


「あ〜…そういう事…」


滝川さんは一瞬ぽかんとしてからぷっと吹き出した。


「三田さん、怖がり方がガチです〜!」


「ガチだよ!!」


「チューが嫌なんじゃなくて、カエルが嫌なだけなんですね〜?」


「そうだよ!!」


「ふふふ〜♡」


滝川さん、めちゃくちゃ楽しそうだ。


「……」


「……三田さん」


「なに…」


「そんなにくっつかれると、滝川もちょっとドキドキします〜…♡」


「こっちは命懸けなんだよ…」


「カエルで死にません〜」


「精神が死ぬ」


滝川さんはまた笑う。


「じゃあ〜…せ〜ので走りましょう!」


「え」


「行きますよ〜?」


滝川さんが僕の手をぎゅっと握る。


「せーのっ!」


ダッ。


「うわぁぁぁ!!」


ほぼ半泣きで走る。


駅前の数メートルを全力疾走する高校生男女。


絵面が終わってる。


「はははっ♡」


滝川さんは楽しそうに笑いながら、


僕の手を引っ張る。


「もう大丈夫です〜!」


少し走ってようやく自販機から十分距離が離れた所で止まる。


「はぁっ…はぁっ…」


疲れた。


精神的に。


「三田さん、全力でした〜♡」


「当たり前だよ!気持ち悪い!!」


滝川さんの眉間にシワが寄る。


「…気持ち悪いって、滝川に言ってます〜?それともカエルさんに〜?」


「カエルさん!!!!」


つーかあんなモンに敬称つけるな。




                    つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ