信頼
「も〜…なんで滝川の事好きになったんですか〜…放っておいたら良かったのに〜…」
嘆きに近い愚痴。
「ねぇ〜三田さん…なんで滝川と付き合ったんですか〜なんでチューさせてくれたんですか〜?本当は嫌なんですか〜…??」
気づけばまた涙目。
初めは、珍しい派手なリュックを背負った白肌の、お人形さんみたいな女の子がいる、と思った。
僕がスマホを落として、滝川さんがそれを拾ってくれた、マトモに顔を見た、メチャクチャ可愛いと思った。
それからとんとん拍子に関係が進んでいった。
可愛い女の子に振り回されて、悪い気がするはずがない。
バドミントンを教えてくれたり、雷にビビってる僕を守ってくれたり、エースコンタクトの話で盛り上がったり…
そんな子から「好き」とか「生物として求めている」とか言われて…
そんなの答えは一つしかないじゃないか。
「わかってると思うけど、ありのままの滝川さんを受け入れる、なんて事は出来ないけど…」
一呼吸。
「放っておけば良かった、は違うよ」
「……」
「好きになったのは、ちゃんと滝川さんのせいだし、多分それはあなた(滝川さん)の努力だよ」
「……っ」
その瞬間。
僕の肩にグッと顔を埋めた。
「むりです〜〜〜〜…」
「何が」
「三田さんがそんなんだから…滝川がおかしくなっちゃうんです〜…無責任です〜」
「え…僕のせいなの…?」
この期に及んで他責かよ。
「三田さんのせいです〜…三田さんだからこうなっているんです!!なのに三田さん、ずーっと滝川が普通におかしいみたいな言い方してくるから…!」
そして小さい声でぼそっと言う。
「三田さんじゃなかったら、ここまでなってないです〜…」
「……」
「三田さん、なんやかんやで優しいですし〜、ちゃんと話聞くし〜、ツッコんでくれるし〜、変な所で真面目ですし〜…」
「変な所でって何」
「あと滝川の事、ちょっと面倒臭そうに扱うのに、ちゃんと見捨てないですし〜…」
「……」
「だから安心しちゃったんです〜…」
「……」
「この人なら、滝川の全部見ても離れないかもって、勝手に思っちゃったんです〜…」
「……」
「そしたら、なんかもう止まんなくなりました〜…」
「…滝川さん」
「はい〜…」
「世界はそれを他責と依存と呼ぶんだぜ…」
「うぅ〜〜〜……」
また傷付いた声。
「三田さんが悪いです〜…」
「なんで」
「だって〜…」
滝川さんは涙目のまま僕を見上げた。
「もっと好きになって良いんだって思うじゃないですか〜…」
「思うのは勝手だけど言葉にしないし、行動には示さないんだよ…」
「じゃあ…分かりました」
「おっ?」
「滝川、三田さんの言う事なんでも聞きます〜言う通りにします〜」
台無しだ。
何がわかったというのだろうか…。
「ねえ…それじゃロボットじゃん…」
「ロボットです〜…」
「違うでしょ!!」
滝川さんは涙目のまま僕を見ている。
「だって〜…」
「……」
「滝川、自分じゃ加減分かんないですし〜…」
「……」
「三田さんが嫌って思ったら従った方が良いんだなって〜…」
「それは違うって!」
「うぅ…」
滝川さんは、ちょっと怯んだみたいに肩を縮めた。
「恋人って上下関係じゃないでしょ」
「滝川、家来でも良いです〜…」
「ダメだろ」
「だって滝川、犬ですし〜…」
「違うじゃん」
「くぅ〜ん…」
犬みたい、捨てられた、可哀想な。
「犬だって100飼い主の言いなりじゃないでしょ」
「わんっわんっ!」
「ん?」
スリスリ…。
「くぅ〜ん…」
よし、考えすぎてついに頭がぶっ壊れたんだな?
滝川さんは嬉しそうに僕に顔を近づけ、
ペロっ
「うわっ!?アホか!顔舐めは本当に犬なんだよ!!」
「…だから犬だって言ってんだろ〜が!!!!!」
「!?」
なんでブチギレてんの…。
滝川さんはものすごい力で僕の肩を掴んでいる。
「滝川は〜!!」
「う、うん…」
「犬で良いです!!」
「はあ…?」
「いや、犬が良いです!!
だから一生可愛がってください!!!!」
話が振り出しどころか、完全なギャグになってしまった。
ギャグではないのか、だってこの人、本気で言っているんだもん。
「わんッッッ!!!!!!」
叫び、咆哮。
「うるさい!!!」
滝川さんは興奮した犬みたいに僕の肩を掴んだままキラッキラした目で僕を見ている。
「可愛がってください〜!!!!」
「やめろ!!」
「散歩も行きます〜!!」
「知らないよ!!」
この前も同じような事言ってたな。
滝川さんは、はぁっ、はぁっと息を切らしながら急に僕の胸元に顔を埋めた。
「……」
「…三田さん、滝川、本当に重いですよ〜…?」
「さっきから嫌というほど理解してる」
「でも」
ぎゅううう。
「三田さんなら、ちゃんと飼ってくれる気がするんです〜…」
「恋人は飼育じゃねえんだよ…」
「へへ〜♡」
頬を擦り寄せてくる大型犬。
しかもかなり情緒不安定なタイプ。
「……」
でもこんなめちゃくちゃな事言ってるのに、滝川さんの声には妙に安心したい感じが滲んでいた。
なんて身勝手な。
「撫でてください〜!!!!」
ああ、勝手だ。
「……」
大型犬の頭をとりあえずわしゃわしゃと撫でた。
「〜♪」
マジでこの犬…いや、この人、今までどうやって生きてきたんだ…。
「犬なら待てが出来るんだけどな〜…」
「!!」
滝川犬の耳がピクリと動いた
ように見えた。
「出来ますけど〜?」
「本当かよ…」
「滝川、頑張りますよ〜…?ちゃんと我慢する、です!」
「……」
「三田さんが嫌がる事、なるべく減らします〜…」
その言葉は思ったより真面目だった。
「…本当に?」
「はい〜」
「学校でいきなりキスとかしない?」
「……」
「今、間があったね?」
「ないですないです!!」
「嘘こくんじゃないよ…あとこういう犬プレイみたいなのも学校じゃダメだよ」
「きゃん!!」
小型犬の鳴き声だそれは。
「プレイじゃないです〜本気でやってます〜!」
「んだこのバカ犬…」
「わん!!」
…やっばこれ、ダメかも。
「滝川、三田さんにワンちゃん扱いされるの、本気で楽しいし、大好きです〜…♡」
「終わってるなぁ…」
「わふ〜♡」
ダメだこのバカ犬。
しかも本人が一番楽しそうなのが厄介だ。
「……」
滝川さんは僕の腕に頬を擦りつけながら、完全にご機嫌モードに入っている。
「三田さんの犬です〜…」
「違う」
「飼い犬です〜…」
「違うって」
「首輪も付けれます〜…」
「付けない!」
「え〜…」
本当に残念そうな顔するな。
「……」
でも。
その反応で分かってしまう。
この人、物凄く危ない性癖の持ち主だ。
「…滝川さん」
「はいっ♡」
「冗談抜きで聞くけど」
「……?」
「自分の事、軽く扱い過ぎじゃない?」
「……」
滝川さんはきょとんとした。
「…軽く?」
「犬で良いとか、言う事なんでも聞くとか」
「……」
「そういうの、相手によっては普通に壊されるよ」
その瞬間。
滝川さんは少しだけ黙った。
「……」
「…でも」
「?」
「三田さんは壊さないじゃないですか〜」
「……」
「だから安心なんです〜」
「…滝川さん」
「はい〜」
「僕、聖人じゃないからね」
「……?」
「今はこうやって話してるけど、余裕無い時もあるし、イライラする日もあるし、ずっと優しく出来る保証なんてない」
「……」
「だから、三田さんなら大丈夫だけで全部預けるのは危ない」
滝川さんはしばらく僕を見つめていた。
そして。
「…でも」
「でもでもうるさいな!?」
「三田さん、ちゃんとそういう事言ってくれるから好きなんです〜…」
「流石にね…」
「危ないよ〜って止めてくれるから〜…」
滝川さんはふにゃっと笑った。
でもその目は妙に真っ直ぐだった。
「正直に話してくれるから大好きです〜」
「出まかせかもしれないよ」
「それは絶対ないです!!」
なんで断言出来る?
実際出まかせじゃないけど、対三田に対する信用が高すぎる。
つづく




