表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/56

講釈



「滝川さん」


「あ、やっと喋りました〜」


良かった、無言の僕から勝手に言葉が聞こえていたんじゃなかったんだね、ちゃんと無言として認識してたんだね…良くもないけど。


「僕達幸せになりたいよね?」


「はい〜♡」


腕に頬をスリスリ…。


「だよね、でもその為には…今のままじゃ絶対ダメだって、分かる?」


「……?」


滝川さんがゆっくり顔を上げる。


本気で分かっていない顔。


「…何がですか〜?」


「何がって…」


言葉を選ぶ。


かなり慎重に。


ここでミスると多分この人極端な方向に解釈する。


「その…価値観というか…」


「価値感〜?」


「恋人だからって、全部になっちゃダメっていうか…」


「全部?」


「依存し過ぎると危ないって事」


「……」


滝川さんはぱちぱち瞬きをしたあと、少しだけ眉を下げた。


「…滝川、依存してます〜?」


「してるでしょ…」


「…でも〜」


「うん」


「好きな人の事いっぱい考えるのって、そんな変ですか〜?」


「変ではないけど、度合いがね…」


「……」


「滝川さん、さっき三田さんより大事なもの無いって言ってたじゃん」


「はい〜」


「それは嬉しい、嬉しいけど普通に危ない」


「……」


「恋人って、人生の、生きることの全部じゃないと思う」


そう言った瞬間。


滝川さんの表情がほんの少しだけ曇った。


「…じゃあ」


「?」


「三田さんは、滝川が人生の全部じゃないんですか〜?」


「そりゃそうだよ!?」


「……」


滝川さんは視線を落としたまま小さく


「そっか〜…」と呟く。


空気が急に重くなる。


「いや違くて!そういう意味じゃなくて!」


「……」


「えっと…恋人の為に生きるんじゃなくて…まず大前提は生きる事!生きる上でのスパイスとしての恋人っていう事で…」


滝川さんは俯いたまま僕の腕をぎゅうっと抱き締める。


さっきより強い。


「…滝川は」


「……」


「三田さんが居なくなったら、かなり嫌です〜…」


「いや、そりゃ恋人なら誰でもそうでしょ」


「でも三田さんは、滝川が居なくなっても人生は続くんですよね〜?」


「……」


「滝川、そこまで整理出来る気しないです〜…」


「ん〜………!」


僕は思わず額を押さえた。


これ、説得とか理屈じゃない。


根本の感覚が違う。


滝川さんは、恋愛を人生の一部じゃなくて、


人生そのものとして捉えている。


だから全部が極端なんだ。


考え方の種類が違う。


「…滝川さん」


「はい〜」


「それ、マジで、かなり危ない考え方だからね…?」


「……」


「相手に全部預けちゃうと、後で絶対苦しくなる」


「…でも〜」


「うん」


「好きって、そういう事じゃないんですか〜?」


「違う!!」


思わず強めに返す。


すると滝川さんは、少しだけ肩を揺らした。


「……」


「あ、ごめん…」


「…別にです〜」


でも。


声がちょっと小さい。


「…滝川、よく分かんないです〜…」


「……」


「だって滝川、三田さんの事考えてる時が、一番幸せなんですもん〜…」


「……」


「それを減らすって、幸せ減らしてくださいって言われてるみたいです〜…」


「減らせとは言ってないって!」


「じゃあどうすれば良いんですか〜…」


涙目で、困ったみたいに見上げてくる。


「…滝川さん」


「はい〜…」


「例えばさ」


「……?」


「僕が、今日は一人でいたいって言ったら?」


滝川さんはぴたりと止まった。


「……」


かなり真面目に考えている。


でも。


「…無理です〜」


「即答だな…」


「でも我慢します〜…」


「……」


「多分」


「多分!?」


滝川さんはむぅ〜っと眉を下げた。


「だって寂しいですし〜…」


「……」


「なんで一人になりたいんですか〜?」


「いや、一人の時間欲しい時もあるでしょ…」


「滝川と居ると休まらないですか〜…?」


(ある意味ね)


「そういう意味じゃなくて!」


「じゃあなんですか〜…」


本当に分かってない。


責めてる訳じゃない。


純粋に理解出来てない顔。


「……」


僕は頭を抱えそうになる。


「恋人でも、一人の時間って普通必要なんだって…」


「…でも〜」


「うん」


「滝川は、好きな人とはずっと一緒にいたいです〜…」


「それが独りよがりのワガママなんだって!限度があるの!」


「……」


滝川さんは少しだけ俯いた。


そして小さい声で言う。


「…じゃあ滝川、一緒にいたいって思うの我慢しなきゃダメですか〜…?」


「我慢というか、調整…」


「調整……」


その単語を飲み込めてない顔。


「……」


これは価値観の違いとかじゃない。


滝川さんの中には恋人と距離を取るって発想自体が皆無なんだ。


好きなら一緒。


好きなら近く。


好きなら優先。


そこに疑問がない。


「…三田さん」


「…なに」


「滝川、重いですか〜?」


「……」


聞き方が妙に静かだった。


ふざけてもない。


甘えてもない。


少しだけ不安そうで。


だから誤魔化せなかった。


「…かなり」


「……」


滝川さんは数秒黙ってから、


へにゃっと笑った。


でも目だけ全然笑ってなかった。


「…やっぱり、そうですよね〜…」


滝川さんは笑ったまま俯いた。


「……」


僕は何を言えば正解なのか分からない。


すると滝川さんは僕の腕を抱えたままぽつりと言った。


「…でも滝川、多分」


「?」


「軽い恋愛とか無理です〜…」


「…軽い恋愛…?」


「友達の延長線みたいなやつとか〜…」


(それ、僕が滝川さんに求めていたやつ…)


「……」


「週一で会って満足〜、みたいなのとか〜…」


「……」


「無理です〜…絶対」


断言。


その声だけはやたらハッキリしていた。


「……」


「だって好きなのに、なんで離れるんですか〜?」


「……」


「好きなのに、なんで優先しないんですか〜?」


「……」


「好きなのに、なんで我慢するんですか〜?」


矢継ぎ早。


責めてる訳じゃない。


純粋な疑問として言ってる。


だから重い。


「…滝川さん」


「はい〜」


「それ全部やると、いつか相手が潰れる」


「……」


「恋愛って、相手の生活も尊重しないとダメなんだよ」


「……」


滝川さんはしばらく黙っていた。


やがて。


「…じゃあ」


「?」


「滝川が、三田さん最優先なのはダメなんですか〜?」


「…ダメとかじゃなくて、危ない」


「……」


「もし僕と何かあった時、滝川さんぶっ壊れるでしょ」


その瞬間。


滝川さんの腕にぐっと力が入った。


「…ぶっ壊れます〜…」


声がちょっとだけ震えてる。


「でも滝川さんの人生は滝川さんのものだから」


「……」


「僕が全部背負える訳じゃないし、背負っちゃダメなんだよ」


滝川さんは黙って聞いていた。


数秒後。


ぽつり。


「…三田さんって」


「うん」


「人生何周かしてるみたいです〜…」


「まだ一周もしてないよ…」


「でもなんか〜…」


滝川さんは僕の腕にくっついたまま、


不思議そうに僕を見る。


「達観してます〜」


滝川さんの口から達観なんて言葉が出た事に少しびっくりした。


「してないよ…ビビってるだけ」


「……?」


「滝川さん、普通に危ねーんだもん」


「うぅ〜…」


ちょっと傷付いた声。



普通に考えたら僕達


「好きです、付き合ってください」


「よろしくお願いします」


の流れがない。


色々段階を飛ばしての交際だ。


「付き合っているのに心が離れていくみたいでモヤモヤします〜…このままじゃ滝川、死んじゃいます〜…!!」


ほら、こんな様子だ。


                     つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ