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人生がかかる



昼休み後、野村さんに一部始終を話す。


「…って事があったんだけど…」


野村さんは終始口を開けたまま固まっていた。


そして


「…三田君って…本当キモいね…」


「!?」


ド直球の悪口。


「普通さ、女の子にそんなん、言わせる?マジでキモいんだけど…」


「違うじゃん、滝川さんが勝手に言い出したんじゃん!」


「違うよ、三田君の察しが悪過ぎてそこまで言わされたんじゃん、普通その手前で察するでしょ!?」


「いや〜…」


「いや〜じゃなくて!」


はぁーとため息を吐かれる。


「男がそんな受け身でどうするのさ…マジで三田君ヘナチョコだわ…」


「多様性の時代に男が〜とかあまり言わないでよ」


「多様性って別に便利な言葉じゃないからね?」


一蹴。


「三田君がそんな終わってる感じなら絶縁した方が良いわ、こりゃ、滝川さん可哀想」


終わってる自覚は、ある。


だって滝川さん、本当に犬とか猫みたいで感情が分かりにくいんだもん、本能で動いている感じ。


滝川さんが言ってた「生物として〜」というのがまた説得力がある。


「なんでちゃんと返事してあげないの…?」


「返事…」


「滝川さん、あれだけ言って、今たぶんめちゃくちゃ不安だよ?」


「……」


その言葉で、昼休みの滝川さんの顔が浮かぶ。


真っ赤になって。


残機ゼロです〜…


とか言いながら…。


「……」


野村さんは最後にもう一回ため息を吐いた。


「ほんとヘナチョコだなぁ、三田君は…」


「ヘナチョコで良いです…」


「そこで、僕もだよって言ったら済んだ話なのに…マジでバカ、バカタレ!」


「バカタレで良いです…」


「開き直るな」


呆れ顔、と言うか心底軽蔑した顔。


「野村さん」


「んだよポンコツ」


グサッ。


「…僕、放課後、ちゃんと返事するよ」


「…ふーん」


疑惑の目。


「本気だよ、だから野村さんもさ…」


「え、私…?」


「野村さんもまーちゃんと幸せになってね」


「…何その死亡フラグみたいなクサいセリフ…」


「……」


「…分かってるよ…


…ありがと」








放課後。


終礼のチャイムが鳴っても、僕はしばらく席から動けなかった。


放心状態ってやつ。


スマホを開く。


通知ゼロ〜。


もう、アレだ。


…帰っちゃおう。


僕は席を立ち廊下に出る。


出た瞬間。


「…三田さん〜」


「っ」


声。


振り向く。


滝川さんがいた。


…でも、いつもと違う。


笑ってはいる。


笑ってはいるけど、ぎこちない。


目が泳いでるし、変にそわそわしてるし、いつもの押せ押せ感が薄い。


昼休みにあそこまで全部吐き出したのだ。


そりゃそうか。


「…お、お祝い会〜…どうします〜…?」


声もちょっと弱い。


「……」


僕は少し黙ってから


「…その前にちょっと話そ」


「っ……」


滝川さんの肩が跳ねる。


そこは見ないふりした。






――体育館裏。



初めて来たけど…本当に人気がないなぁ。



「……」


「……」


沈黙。


滝川さんはさっきからずっと落ち着かない。


指先をいじったり、スカートの端を摘んだり。


僕を見るたびに、すぐ逸らす。



「…あの…昼のさ」


「っ…はい〜…」


滝川さんが、


ぎゅっと肩を縮める。


「…あの時僕、ちゃんと返せなかった」


「……」


「ごめん」


滝川さんは、小さく首を横に振る。


「…三田さん、困ってましたし〜…」


「でも、滝川さんはちゃんと言ってくれた」


「……」


「だから、僕もちゃんと、ハッキリ言う」


自分でも、心臓の音が分かる。


「えっ…ちょっ…ちょっと待ってください」


滝川さんが手で止める。


ブルブルと震えている。


足も。


「…滝川さん?」


「…あの…滝川…心の準備が…」


呼吸が荒いのも分かる。


「大丈夫?ちょっと座れば…?」


「ごめんなさい、そうします…」


滝川さんはフラフラとその場に座り込む。


地面にタバコの吸い殻があったので慌てて蹴っ飛ばす。


「…具合悪い…?」


「…大丈夫です…でも…」


滝川さんは胸の辺りをぎゅっと押さえた。


「…ちょっとだけ…待ってください…」


声が震えている。


なんか、本当に限界っぽい。


「……」


僕もどうしたら良いのか分からずとりあえず近くの壁にもたれた。


沈黙。


滝川さんは、しばらく俯いたままだったけど、やがて小さく口を開いた。


「…三田さん…もし」


「…?」


「もし、ごめんなさいだったら…」


「……」


「その時は、滝川の事思いっきりブン殴ってください…」


「っ…」


「もういっそのことブッ殺してください…」


一点見つめでそのセリフ、それはギャグで言っているのか…?


僕はその顔を見てを胸の奥が変な感じになった。


多分この人、本気で怖がってる。


そこまで追い詰められてると思ってなくて。


急に申し訳なくなる。


「…いや、殺さないけど…っていうか、多分、滝川さんが思ってる事は言わないと思う…」


「それは…滝川、期待しても良いやつですか…?」

 

震えた声で、小さく呟いた。


「滝川さんに聞く準備があればね」


「っ……」


滝川さんは、


大きく深呼吸をした。


その呼吸ですら揺れている。


「…今の滝川、十両昇進がかかった一番の前の幕下力士くらい緊張しています…」


「全然違うだろ、幕下上位舐めんな」


「なんでそこツッコむんですか〜…」


「いや、あそこ人生懸かってるから」


「滝川も人生懸かってます〜…」


それ、一緒の話かな…?


「じゃあまあ…言うけど…」


滝川さんは震える腕で手を挙げる。


「いや、物言いかよ、待ったなし!」


滝川さんは、胸の辺りを押さえたまま恐る恐るこっちを見る。


「…もし三田さんが十両昇進がかかる言葉を滝川に言うのだとしたら…やめた方が良いです〜…」


「えっ…何?じゃあ僕何も言えないじゃん…」


「…注意喚起です、滝川、そうなったら三田さんの事しか考えられなくなるし、絶対離れたくないし…ヤキモチだっていっぱい妬いちゃうし…」


「それ…今までとあんまり変わらないじゃん」


「違います〜…!」


滝川さんがガバッと顔を上げた。


「今まではまだ滝川の片想いだから…ってブレーキがあったんです〜…!」


「だとしたらブレーキ壊れてない?」


「〜!!」


割と序盤から猪突猛進だったじゃん。


「でも、もし三田さんも同じだったら…」


滝川さんはまた視線を逸らす。


「滝川、多分もう無理です〜…」


「何が」


「ずっとベタベタします〜…」


「……」


「毎日好きって言います〜…」


「今とそんなに変わるかな?」


「今の三倍です〜…」


「赤い彗星?」


滝川さんは少しだけ笑った。


でもすぐまた不安そうな顔に戻る。


「だから〜…」


「……」


「三田さんが今から言おうとしてる事、多分滝川にとって、めちゃくちゃ重いんです〜…」


「……」


「十両どころか、横綱昇進くらいあります〜…」


「そんなにいきなり昇進できねーよ…」


「例え話です!だって人生変わりますもん〜…」


何でこんな時の例え話がいちいち相撲なんだよ…。


僕は大きく息を吸い込む


「…まあ、言うけど…」




                    つづく

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