滝川の求めるもの
授業後、今だにテンションが高いままの滝川さんは
「放課後は三田さん決勝打おめでとう会をしましょ〜!!」
などと口走った。
「たかだか授業の一環じゃん…」
「そんなの気の持ちようです〜!ね〜?良いでしょ〜?三田さ〜ん?」
甘えたような声と上目遣い。
直視したらなんでも言うこと聞いちゃいそう、慌てて床を見る。
滝川さんは、僕が露骨に視線を逸らしたのを見て、
ふふ〜っと笑った。
「どうして滝川の目を見てくれないんですか〜?」
「……」
コイツ、絶対自分が可愛いって分かっててやってるだろ…犬猫みたいな奴だな…。
「でも〜お祝いはしたいです〜」
「授業の一環だって…ってかなんだかんだで三田さんを帰る間際まで拘束する算段でしょ…」
「はい!」
即答かい。
全く隠す気がない。
「だって三田さんと一緒にいたいですし〜♪」
えへへ〜っと笑いながら僕の横を歩く。
「今日は隊長が大活躍でしたから〜」
「いいとこ取りだし、そもそも転んだだけだよ…」
「でも決めました〜」
「事故だけど…」
「結果オーライです〜♪」
なんか、この人と話してると反論する気力がどんどん削られていく。
肯定botみたい。
滝川さんはそんな僕を見て、また少しだけ目を細めた。
「じゃあ放課後、楽しみにしてますね〜♡」
「だからまだ行くって言ってな――」
「やった〜♪」
「人の話を聞け!!」
「はぁーーーっ…」
何度目かの深いため息。
隣の野村さんは
「お疲れ〜!いや〜大活躍だったね〜」
と半笑いだ。
「何がおかしいの…」
「まぐれとは言え、最後決めたね〜」
イヤミかよ。
「まぐれなのはわかってるよ…」
「いや〜でも滝川さんテンション爆上がりだったね」
「……」
「抱きつかれてたし」
「…忘れて」
「無理無理、周りもめっちゃ見てたから」
「……」
野村さんは僕の絶望顔を見て肩を震わせる。
「三田君さぁ」
「…なにさ」
「もうマジで付き合えば?」
「だから!!」
しかし。
野村さんはニヤニヤしたまま、頬杖をついた。
「だってもう、手遅れでしょ、ダメでしょ」
「……」
「しかも三田君も満更じゃないし」
「……」
反論。
したい、したいけど。
「もう、ここまで来たら腹括るしかないんじゃないの?」
「………」
やっぱり、そうなるのかな。
そういう道しかないのかな。
現時点でエースコンタクトの話題がキッカケで「良い友達」にはなれているんだけどな。
でも滝川さんはハナから僕の事を友達だとは思っていない。
滝川さんは僕に好き好き言うけど、結局どうなりたいのだろうか?
付き合いたい?
もっと一緒にいたい?
それとも、今のこの距離感が楽しいだけ?
全然分からない。
これ、本人に聞いたらどうなるのだろうか。
良い予感はしないけど…
聞いてみないと始まらない。
それだけはハッキリと分かった。
昼休み
「三田さ〜ん♡」
滝川さんは変わらず、いや、テンションはまだ高いままか。
「……」
単刀直入に聞くべきか、回りくどく聞くべきなのか。
すると滝川さんが僕の顔をじーっと覗き込んできた。
「三田さん〜…?」
「っ…」
近い。
「…なんか難しい顔してます〜」
「…してない」
嘘。
「してます〜」
しているのだろう。
「どうしました〜?」
「……」
聞くか、聞いてくるのか?
でも。
もしここで変な空気になったら…。
僕が黙っていると、滝川さんは少しだけ首を傾げた。
「三田さん?」
黙っていてもどうせ変な空気にはなるのだろう。
「…滝川さんってさ」
「はい〜?」
もう、言うしかない。
胸に詰まりがあるみたいに、苦しい。
「…僕と、どうなりたいの?」
言った。
言ってしまった。
その瞬間。
滝川さんがぴたりと動きを止めた。
「……」
いつものふにゃふにゃした空気が一瞬だけ消える。
中庭の景色がやけに遠く感じた。
滝川さんはぱちぱちと目を瞬かせる。
「……」
やばい。
やっぱ重かった?
早まった?
撤回したい。
今ならまだ『いや、変な意味じゃなくて!』とか言えば――
「……えへへ」
「……?」
滝川さんは少しだけ照れたみたいに笑った。
でもその笑い方はいつもの軽い感じとちょっと違う。
「三田さん〜」
「…なに」
「それ、滝川に聞いちゃいます〜?」
「聞いちゃった…」
もう後戻り出来ない。
滝川さんは少しだけ視線を泳がせる。
珍しい。
「…滝川は〜」
「……」
「三田さんといっぱい一緒にいたいです〜」
「……」
「もっと仲良くなりたいです〜…ゲームもしたいですし〜…」
「…うん」
「いっぱい笑ってほしいですし〜」
「……」
僕そんなに笑わないもんな。
「あと〜」
そこで一回、滝川さんは僕を見る。
真正面から。
逃げ場がないくらい真っ直ぐ。
「滝川の事、ちゃんと好きになってほしいです〜」
「……」
そっか、そうだったのか。
「まだあります〜」
「えっ」
まだあるのか、言い切ったと思ったんだけど。
滝川さんはもじもじと指を絡め始めた。
「その〜…全部はハッキリと言えないんですが〜…」
目が泳いでいる。
「ん?」
何?何?ハッキリ言えない事って、何…?
滝川さんはちらっと周囲を見た。
中庭。
何組かの女子がいる。
それを確認してから少しだけ声を小さくする。
「滝川は〜…人間として、女として〜…その〜…」
何を言おうとしているんだろうか。
意を決したみたいに僕を見る。
「生物として三田さんを求めています…」
「……ん?」
言った直後に顔を伏せた。
「うぅ〜…恥ずかしいです〜…」
「いや…あの…」
恥ずかしいとか言われても全然意味がわからないんだけど。
「えっと…つまり…」
「……」
「どういう意味…?」
恐る恐る聞く。
滝川さんは顔を伏せたままもごもご言った。
「…そのままの意味です〜…」
「いやそのままが分からないんだって!」
「うぅ〜〜…」
唸るなよ、そういう機械かよ。
一方僕は脳内が混乱で溶けかけていた。
なんだ?
生物として求めるって。
滝川さんはそんな僕をちらっと見て、
「…伝わりました〜?」
なんて聞いてくるけども。
「ごめん、全然伝わってない…」
「なぁんでですか〜…」
だって分かんないんだもん。
「だから〜…睡眠欲とか…食欲とか、あるじゃないですか〜…」
「あるけど…」
急に三大欲求の話をされてももっと分かんねーよ。
「だから〜…それと同じように〜…三田さんを〜…」
「うん」
「…全部言わなきゃダメですか〜…??滝川、恥ずかし過ぎて死にそうです〜…」
「だって滝川さん、何言ってんのか分かんないんだもん!」
「あうぅ〜…」
顔を覆い、足をバタつかせている。
顔面強打したみたいなリアクション。
「…もう、良いです〜…これ以上は勘弁です…」
「はあ!?何でだよ!ふざけんなよ!」
「だって〜…気持ち悪いって思われたくないです〜…」
「ハッキリ言われないとモヤモヤするんだけど!」
「ハッキリ言えないから困ってるんです〜…」
「何で!!」
思わず声が大きくなる。
滝川さんは真っ赤な顔のまま僕をちらっと見る。
「…三田さん、鈍感です〜…」
「違う、君の言い回しが悪い!」
「普通ここまで言ったら察します〜…」
「察さない!」
「っ〜〜〜〜……!」
滝川さんは再び顔を覆った。
うわ、耳まで真っ赤。
「うぅ〜〜〜……」
「なんで唸るのさ…」
「だって三田さんが全部言わせようとするからです〜…!」
「だって分かんないんだもん!」
「分かってます絶対〜!!」
「分かってないって!!」
割とモヤモヤからのイライラしている自覚はある。
滝川さんは数秒うんうん唸った後、観念したみたいに肩を落とした。
「…じゃあ、これなら分かりやすいと思います〜…」
「また例え話?」
「…三田さんと、もっとくっつきたいですし〜…手とか繋ぎたいですし〜…」
「……」
「…チューも、いっぱいしたいです〜…
その先も、したいです…」
チラりと僕を見る。
「…滝川は、三田さんと、そうなりたい、です…はい…」
数秒、目が合うけど滝川さんは先にパッと逸らした。
「…お分かりいただけたでしょうか〜…」
「ごめん、全く分かんない!」
「なぁんでですかぁ!!?」
滝川さんがガバッと顔を上げる。
涙目。
「今のは分かるでしょ普通〜!!」
「何よ?その先って!?曖昧過ぎるだろ!!」
「うぅ〜〜〜〜!!」
滝川さんは僕を涙目で睨みつける。
「じゃあ逆に聞きますけど〜!!」
「な、何…」
「チューしたいって言われて、その先もしたいって言われて、なんで分からないんですか〜!?」
「いや、だって……!」
言葉に詰まる。
滝川さんはぷるぷる震えながら続けた。
「滝川は〜…!」
「うん」
「当然三田さんの彼女になりたいですし〜…」
「うんうん」
「…何ですかその相槌は〜…」
「そこは分かってるの、その先が分かんないの」
「そこばっかり〜…」
滝川さんは「ふぅーーーー」と深めな息を吐いた。
「…滝川、残機ゼロです…」
「なるほど…?」
…よく考えたら。
コレって普通に告白では?
つづく




