決戦
残すところあと一点。
「隊長〜!トドメです!!」
「よし!分かった!!」
で、空振り。
それを二回連続で達成した。
これ、普通に嫌われる案件。
僕はチラチラと滝川さんを見ている。
(幻滅される〜…)
という不安で胸がいっぱいだった。
結論から言うと滝川さんに変化はない、だけどそれが余計に不安を掻き立てる。
普通ちょっとはガッカリしない?
こんだけ花を持たせてもらって二連続空振りしてるんだけど。
「……」
マズい、非常にマズいぞ、これで負けようもんなら…と焦りが出始めた。
滝川さんが近づき、少しだけ顔を寄せてくる。
「三田さん〜」
「…なに」
(オメーふざけんなよ、次ミスったら殺すからな、とでも言われるのだろうか…)
「さっきから不安そうな顔して滝川の事チラチラ見てますけど〜?」
「っ……」
なんでバレた。
「三田さん三田さん」
今度は小声で。
今度こそ殺害予告をされるのだろうか?嫌だけど耳を近づける。
すると。
「滝川、ミスったくらいで別に嫌いになったりしませんよ〜?」
柔らかい声。
そのまま
「だって三田さんの事、大大大好きなので〜♡」
「ぐっ……!?」
心臓を直接殴られたみたいな衝撃。
思わず変な声が漏れる。
声が、吐息が、近い。
あと内容が重い。
「な、ななな…」
言葉が出てこない。
滝川さんは、そんな僕を見て満足そうに笑った。
「ふふっ〜♪不安そうな三田さんも良いです〜」
二連続空振りしたんだぞ!?
そりゃ当然不安にもなるさ。
でも。
滝川さんは本当に気にした様子もなく、
ラケットで僕の腕をちょん、と突いた。
(ラケットで突くな)
「だから大丈夫です〜」
(何が大丈夫なのか!?)
「……」
「次、決めちゃってください〜」
「……」
すると野村さんがラケットをブンブン振りながら
「なーにをイチャイチャしてるのさ、早く打ってよ〜!」
と、言いがかりをつけてくる。
まーちゃんも
「青春活劇は結構だが、今が戦の最中である事を忘れるな」
などとほざいている。
「うるさいな…」
そんなガヤを気にも留めない様子で滝川さんは
「さあ、あと一本です〜!
三田さんは鬼神です、幸運を祈ります」
と。
「鬼神」
その単語を聞いた瞬間、エースコンタクトZEROの画面が思い浮かぶ。
「……」
ただ一機で戦況をひっくり返す不死身のエース
鬼神。
やめろ。
僕にその単語は、効く。
めちゃくちゃテンション上がるだろ。
滝川さんはそんな僕を見てふふっと笑う。
気付けば、僕の口角は上がっていた。
滝川さんが鋭いサーブを打ち込む。
「これで堕ちないで下さいね〜?」
「ほざけ!」
まーちゃんが打ち返す。
まーちゃんも随分と上手くなったな、野村さんと特訓でもしたのかしら。
滝川さんが難なく返す
「三田さん、まだです、まだ出番じゃないです〜」
シャトルは野村さんの方へ真っ直ぐと飛んでいく。
「テンションだけじゃ…勝てないよっ!」
野村さんからの鋭い返球。
僕狙いだ。
これくらいなら…ギリギリ捉えられる…。
ラケットを伸ばす。
パシッ!!
「おっ!」
なんとか返った。
だけどメッチャ浅い。
すごく浮いた。
「もらったぁ!!」
まーちゃんが突っ込んでくる。
速い。
また打ち込まれる――
そう思った瞬間。
滝川さんが、僕の前へスッと滑り込んだ。
パシィッ!!
綺麗なカット。
ネット際へ、嫌らしく落ちる。
「ぬっ!?」
まーちゃんが慌てて飛び込む。
拾った。
だが体勢が崩れている。
シャトルが高く浮いた。
その瞬間滝川さんがちらっとこっちを見る。
「三田さ〜ん」
ニコッ。
「今です〜!!」
「っ…!」
来た。
今度こそ本当に、僕の番だ。
三度目の正直…!
構える。
「行けえええ!!!!」
スマッシュを、打ち込…
左足がもつれた。
「ええっ!?」
勢いよく転ぶ!?
「パアアァン!!!!」
快音は聞こえたが僕は前に転がった。
「痛い!」
体育館の床が地味に硬い。
ちゃんと痛い。
「…えっ」
「は?」
「……」
妙な静寂。
なんなの。
恐る恐る顔を上げる。
ポトッ。
向こう側のコートに、
シャトルが落ちていた。
「………」
入ってる?
「…うわぁ〜!!!」
滝川さんの絶叫。
次の瞬間、ドタドタドタッ!!
ものすごい勢いで駆け寄ってきた。
「三田さーーーーん!!!!」
「うわっ!?」
ガバァッ!!
滝川さんの胸が襲いかかってきた。
「やりましたやりましたやりました〜〜〜!!!」
「〜〜〜!!」
僕だって喋っているのに顔が埋まって音声になっていない。
「隊長撃墜成功です〜〜〜!!!」
しかも普通に力強い。
ぎゅうぎゅうされる。
「〜〜〜〜…!」
苦しすぎて息を吸うが、とてつもなく良い匂いがするだけで、普通に窒息してしまう。
「っっはぁ!!た、滝川さ…!」
やっと顔を引き剥がす。
滝川さんは死にそうな僕を至近距離で見つめていた。
目がキラキラしてる。
「転びながら撃墜するとか主人公です〜♡」
「じ、事故だから!!」
「でも決めました〜♪」
「……」
そう、決めた…らしい。
僕が。
その事実がじわじわ来る。
周囲では
「うわぁ…」
「青春してんなぁ…」
「眩し過ぎて見てらんねーよ…」
みたいな声まで聞こえてきた。
野村さんなんて、半笑いでラケットを肩に乗せている。
「三田君、もうそれ実質優勝でしょ」
「何がだよ…」
まーちゃんは腕を組み、重々しく頷いていた。
「うむ…見事な戦であった」
「体育だよ」
ツッコみながらも、笑ってしまう。
すると。
滝川さんがまたにへら〜っと笑った。
「隊長〜」
「…なに」
「本当に大好きです〜…」
「っ……!」
なんだコレ、勝ったのに僕が墜落した感じ、いや、撃墜か。
体育一つでこんなんなる、僕、いよいよもうダメかもしれない…。
つづく




