ミスをしない
気合いを入れたのはいいけど…結局僕も何度かミスをしてチームの全失点は僕。
次のサーブは野村さん。
「えーいっ」
さっきまで笑っていたのに、
打った瞬間だけちゃんと鋭い。
「うわっ」
意外と良いコース。
慌てて後ろへ下がる。
「隊長〜!」
「はいよ!」
ラケットを伸ばす。
ポンッ!!
ギリギリ当たった。
でも軌道が高い。
「あらっ」
やばい、これ打ち込まれる。
案の定、まーちゃんが待ってましたと言わんばかりに前へ出る。
変な構え。
「ちえええぇぇ!!」
変な甲高い叫び。
恥ずかしいからマジでやめて欲しい。
バシィッ!!
速い。
終わった――と思った瞬間。
「甘いです〜」
滝川さんが横から飛び込んだ。
パシッ!!
綺麗に返した。
しかもネット際に落ちる嫌らしいコース。
「ぬおっ!?」
今度はまーちゃんが反応出来ない。
ポトッ。
「ミタ隊、二機目撃墜です〜♪」
「くっ…!」
まーちゃんが悔しそうに膝をつく。
演技がデカい。
「どうやら死に際か…お屋形いまから逝くぞ…」
「ここは長篠じゃないよ?おやじって誰?」
「やかましい!!」
野村さんはもうラケットを持ったまま笑い崩れていた。
「無理っ…この空間うるさ過ぎる…河上君がこんなテンションなのも…無理…」
僕も笑ってしまう。
その時滝川さんが僕の袖をちょこんと引っ張った。
「……?」
顔を向けると、
滝川さんは少しだけ得意げな顔。
「隊長の援護、ちゃんと成功しました〜」
「……」
援護っていうか、滝川さんが拾ってくれてるから試合になってるだけだ。
「…ごめん」
思わず小さく漏れる。
「え〜?」
「いや、足引っ張ってるなって…」
すると滝川さんはきょとんとして、
それからふにゃっと笑った。
「そんな事ないです〜」
「いやあるでしょ…」
「ないです〜」
即答。
「でも失点全部僕…」
「初心者なんだから当たり前です〜」
「うっ」
正論。
滝川さんはラケットを肩に乗せながら当然みたいに続ける。
「滝川、勝ち負けより誰とペアかを重視しています〜」
「おお…」
「それに〜」
滝川さんが少しだけ身を寄せる。
「三田さん、ちゃんと前より返せています〜」
「…そう?」
「ですです〜」
嬉しそうに何度も頷く。
「さっきの援護も良かったですし〜」
「援護っていうか、事故みたいな返球だったけど」
滝川さんはふっと笑って、
小さな声で言った。
「…滝川今、幸せです〜」
「……っ」
その言葉は攻撃力が高いんじゃ。
僕はもう
「とにかくミスしない」
それしか考えてなかった。
まーちゃんのサーブ。
「三田、覚悟!」
「っ」
来た。
今度は落ち着いて見る。
シャトル。
ラケット。
タイミング。
「それっ!」
ポンッ!!
ちゃんと当たった。
しかも思ったより深い。
「おっ」
野村さんが後ろへ下がり構える。
「死ねぇ!三田ぁーー!!!」
パァン!!!!
暴言と共にスマッシュを打たれる。
速ッッッ!?
「うわぁ!?」
パンっ
見えてないけど出鱈目にラケットを振ると何か重いものがラケットに当たった。
「あれ…?」
シャトルはふわりとネットを越えて、落ちた。
「……」
数秒、
全員止まった。
「えっ…えっ??」
僕が一番驚いてる。
今の、僕の得点?
次の瞬間。
「三田さんんん〜!!!」
滝川さんが爆速で飛んできた。
「ナイスです〜〜〜!!!今の完全にダメかと思いました〜!」
「僕もそう思った!!」
肩をガシガシ揺さぶられる。
滝川さんのテンションが高過ぎる。
野村さんはラケット片手に崩れ落ちていた。
「嘘でしょ…今の返せるの…?」
まーちゃんは腕を組み、
神妙な顔で頷く。
「うむ…アレはまぐれだが…野村、貴様油断したな」
「河上君のせいで笑ってたんだって!!」
「うつけが!俺の責任ではない!!」
また騒がしくなる。
滝川さんが嬉しそうに僕を見る。
「隊長〜♪」
「な、何」
滝川さんは、
すっと僕に顔を寄せる。
そして。
「…チューしてもいいですか〜?」
小声。
「うへぇ!?」
反射的に変な声が漏れた。
「なんですかその声〜…」
「いやいやいや!!」
冗談なのか本気なのか、全然読めない。
滝川さんは僕の反応を見て楽しそうに目を細める。
「だって今の、かっこよかったですし〜…」
「だからってその発想になる!?」
「ご褒美です〜」
「システムがおかしいよ…」
相手コートでは野村さんとまーちゃんがまだ揉めている。
「大体河上君は表情が乏し過ぎるんだよ!」
「貴様が著し過ぎるのだ!!」
(お前らもう付き合えよ…)
どうやら聞こえてはいないらしい。
良かった…。
滝川さんは少しだけ首を傾げる。
「嫌ですか〜?」
「嫌とかじゃなくて…!」
言葉に詰まる。
滝川さんはそんな僕を見て、
ふふっと笑った。
「…冗談です〜」
「…本当に?」
「えへへ〜…でも〜嫌じゃないんですね〜?」
「えっ…それは…」
そして何事もなかったみたいに、ぱっと右手を出してくる。
「じゃあハイタッチで許してあげます〜」
「許すって、何目線…?」
ツッコミながら、結局。
パシッ。
軽く手を合わせる。
その瞬間。
滝川さんがまたすごく満足そうに笑った。
「隊長、初撃墜おめでとうございます〜♪」
「……」
なんかもう嬉しいやら恥ずかしいやらで、感情が忙しかった。
つづく




