そして劣等感
滝川さんは9月29日生まれ、犬派…と。
初っ端に知るべき(?)情報を今更知った。
僕がいない時は校内や教室で何をしているのかも気になる。
「って事で、お願い!野村さん!」
「えー、やだよ、自分で調べなよ!」
「教室を覗くだけでも良いから!」
「だから自分で行きなって!」
「頼むよ、僕が行ったらなんか、変な感じになっちゃうから!お願い!」
「知らないよ」
「こんなに頼んでるんだよ!?」
野村さんなら隣のクラスに知り合いがいるだろうから、と見込んでのことだけど、すっごい断ってくる。
「三田君さー、なんでそんなに気になるの?」
ニヤけている。
「なんでって…知らないよりは知ってた方が…」
「そっか〜、滝川さんの事で頭がいっぱいか〜」
100%否定は出来ないのについつい
「違うよ?違うからね?観察みたいなもんだからね?」
こう、言ってしまう、言わざるを得ない。
「遠隔ストーカーじゃん」
「野村さん」
「好きな人の事はやっぱ知りたいのかな?」
「野村さん」
「僕だけの滝川さん…もっと知りたいよーって?」
「野村!!」
「なんか必死だから様子だけ見に行ってあげる」
野村さんはカラカラと笑いながら席を立つ。
なんやかんやで行ってくれるんだ、優しい。
…滝川さんの事だから居眠りをしているのだろうか、それとも窓を眺めているのだろうか、いや、きっとスマホと睨めっこだろうなぁ。
「……」
気付けば、普通に滝川さんの日常を想像していた。
危ない危ない。
これじゃ野村さんにからかわれても文句言えない。
でも!!気になるものは気になる。
僕がいない時教室ではどんな感じなんだろうって。
今まで僕に対して距離感がおかしい人って認識が強過ぎて、それ以外をあまり知らない。
知ってはいるけど、「あまり」知らない。
友達はいないとか言ってたけど、果たしてそれは本当なんだろうか?
実際幼馴染の※朱凛ちゃん(※ep.5 目撃者を参照)も居たわけだし。
男子相手でもあんな感じなのか?
授業中はちゃんとしてるのか?(してないと思う)
犬みたいに懐く相手は他にもいるのか?
「……」
なんか、考えれば考えるほど気になってきた。
それから数分後。
野村さんが戻ってきた。
「お待たせ〜!」
「…どうだった?」
席に座るなり、野村さんは妙にニヤニヤしている。
…嫌な予感しかしない。
「…何その顔」
「いや〜?」
「何さ…」
「滝川さん、男子にメッチャ絡まれてた」
「え?」
野村さんがそれをピンポイントで目撃したの?
思わず聞き返す。
「一緒帰ろとか連絡先教えてとか」
「…へぇ」
別におかしくない。
滝川さん、普通に可愛いし。
むしろ自然だ。
自然なんだけど…なんか嫌だ。
胸がゾワゾワする。
「でね〜」
野村さんはもはやニヤニヤを隠そうともしない。
「滝川さん、普通に断ってた」
「……」
「しかも結構ハッキリ」
へぇ。
「なんか、困ります、って」
「へぇ〜…」
なんで僕が微妙に安心してるんだ。
意味分からん。
「でさ、その後なんだけど」
「ええっ…まだあるの…」
再びのゾワゾワ。
「男子があまりにもしつこかったんだね、そういうのやめてくださいっ!!ってハッキリ言ってたよ」
「………」
安心しているのか?僕は。
「んでさ、何人かに聞いたんだけど、滝川さんほぼ毎日そういうのがあるみたいで、先輩が言い寄って来たりね」
「すごいなぁ…」
俗に言う学校一モテる人、みたいな。
「まあ分かるけどね〜」
野村さんは頬杖をつく。
「可愛いもんね〜」
「……」
それは本当にそう。
あの感じの人が距離近かったら勘違いする。
絶対する。
「でも意外だったな〜」
「何が」
「ちゃんと断るんだ、って」
「……」
まあ、そこはなんとなく分かる。
滝川さん、押しには弱そうに見えて変なところでハッキリしてるから。
普段ふにゃふにゃしてるくせに、芯だけ妙に強い。
「……」
というか。
毎日?
毎日あんな感じなの?
「三田君?」
「何」
「顔怖い」
「えっ」
「なんか、滝川さんに近付く男許せないみたいな顔してる」
「してない!!」
即否定。
野村さんはニヤニヤしている。
「でもさぁ〜」
「……」
「三田君、ちょっと安心してない?」
「……」
図星過ぎて、
一瞬言葉が止まった。
「いや、そんな…」
「してるじゃん」
「違うって」
「だってさ、滝川さんが他の男子にホイホイついてったら嫌でしょ?」
「…それは」
嫌だ!!と思ってしまった。
「どうだった?成果はあった?」
「……」
モテる事は知ってたから成果があるかと言われたら正直別に…。
「…なーんか不満げだなぁ…だから自分で見に行けってあれほど…」
「いや、ごめん、ありがとう」
野村さんは「はいはい」と肩をすくめる。
わかってたけど滝川さんは僕なんかとは比べ物にならないくらい格上、野村さんも。
やっぱり格下は格下なりに細々と生きなきゃな、って思う。
滝川さんの事を知れば知るほど劣等感が湧いてきてしまう気がして、少し億劫になっている僕がいる。
つづく




