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地獄の体育



エナジードリンクを飲んだのに、普通に眠い。

過信はいかんな。



そう言えば今日の一時間目は…



うわ!体育だ…。



今の時期はバドミントンだったような?



前回はペアがいないテイで審判をやったり、体育館の隅に座ってりしてたな。



着替え、体育館へ向かう。



蒸し暑い。




体育館は湿気とワックスと体育館特有の、なんか変な匂い。



「うわ、もう暑い…」


「三田、既に顔色が終わっているぞ」


ジャージ姿のまーちゃん。


女子みたいに華奢だなぁ、僕も人の事言えないけど。


体育館には既に女子達も集まっている。


その中に。


「あっ」


いた。


滝川さんのジャージ姿。


…なんか普通に可愛いな。


いや、普通じゃないけど。


前回の体育の時もこの姿で確かにいたはずだが、僕の視界には入っていない、関わりがなかったしね。



そして体育教師が現れる。


「今日もバドミントンだね、前回と同じでダブルスの試合形式をやっていくんだけど…今日から可能な限り混合ダブルスで、つまり男女のペアでやってもらおうかな、と」


「「ええ…!」」


生徒達が声を上げる。


「可能な限り、だぞ?あとカップルでイチャイチャ禁止な」


失笑で溢れる。


(別に面白くねーし)


「じゃあ各自ペア作れ〜、余った奴はこっちで調整するから」


ザワザワと空気が動く。


(僕は一生余った奴で結構です!)


男子達が「誰とやる?」だの、


女子達が「え〜どうする〜?」だの、


体育館中が一気に騒がしくなる。


(うるさ…)


前回は気楽だった。


絶対イチャつくカップルいるじゃん。


すると。


「三田さ〜ん!」


来た。


当然のように。


滝川さんがラケットを持ってこちらへ歩いてくる。


周囲の視線もちょっと付いてきてる気がする。


「やりましょ〜」


「いや、滝川さん別のクラスだし…」


「……」


俯いた滝川さんが走り去る。


(体育の時くらい大人しくしてろ!)


と思いつつ少しの寂しさがあるのは事実。



滝川さん、体育教師に何かを話している。


「ペアがいないので〜」


みたいな話をしているのだろうか。


と、再びこちらに、笑顔で走ってきた。


「別のクラスでもOKだそうで〜」


「うわ…」


そんな事を聞きに行ったのか。


「いや、でも僕まーちゃんと組むから…」


「ギリギリ男子じゃないですか〜」


「いやいや、先生は可能な限りって言ってたよ」


滝川さんはある方向をちょいちょいと指差す。


「ん?」


指の方向を見ると


まーちゃんの隣に野村さんがいる。


「あの女狐〜!!!!」


「えっ」


野村さんがこっちを見る。


しまった。


「誰が女狐!?」


「いや違う、違くないけど違う!」


「何それ!?」


まーちゃんは腕を組みながら、


「三田、すまない、野村に捕捉されてしまった」


「マジで土下座案件だよ!!」


せめてまーちゃんと組んでやり過ごそうとしたのに。


滝川さんはきょとんとしている。


「女狐…?」


「気にしなくていいから」


「野村さん、狐なんですか〜?」


「違うわ!!」


野村さんがラケットを振り上げる。


怖い。


「三田さん〜…」


滝川さんは僕の袖を引っ張る。


「…分かったよ…組めばいいんでしょ…」


「はいっ〜♪」


嬉しそう。


なんでそんな尻尾振ってそうな声出せるんだ。


「犬じゃん」


「わんっ♪」


(くっっ…可愛い…!!!!)


「三田君さぁ」


野村さんがニヤニヤしながら口を開く。


「今、可愛いって顔してたよ」


(なんで分かったんだよ!?)


「してない」


「してた」


「してない」


「河上君」


「うむ、していたな」


「お前ら!?」


なんなんだコイツら。


まーちゃんなんて真顔で頷いてるし。


滝川さんはぽけーっとした顔で僕を見て、


それから。


「……?」


ほんの少しだけ目を細めた。


「三田さん、今滝川のこと可愛いって思いました〜?」


「思ってない」


「早めに否定されました〜…」


「いや、だって」


「だって〜?」


「……」


なんで僕が追い込まれてるんだ。


周囲でも何人かがニヤニヤしながら見てる。


見んな。


公開処刑じゃん。


先生がパンッと手を叩く。


「おいお前ら、イチャついてない試合始めろコラ」


「……」


泣きそう…。


体育館のあちこちからクスクス笑いが聞こえる。


なんなんだこの地獄。


「三田君、青春だねぇ〜」


野村さんがニヤニヤしている。


「黙れ女狐」


「まだ言う!?」


まーちゃんはシャトルを弄びながら、


「若人らしくて大変結構ではないか」


「お前も若いだろ…!」


すると、隣からクイクイと袖を引かれる。


「三田さ〜ん」


「ん?」


「滝川、バドミントン得意です〜」


「じゃ、一人で頑張って」


「むむ…」


不満顔で器用にラケットをクルクルと回している。


「じゃあサーブ行くよ〜」


野村さんが構える。


「やだなぁ…」



ポーン、と高〜くシャトルが打ち上がる。


これは…僕の取るべきシャトルじゃない。


滝川さんだ。


その瞬間。滝川さんは構える、そして


パァン!!


「あら」


滝川さんのスマッシュが、


野村さんの足元に突き刺さった。


「つよっ!?」


野村さんが完全に固まってる。


まーちゃんも少しだけ目を見開いた。


「ほう…」


滝川さんはラケットを肩に乗せ、ふふーん、と得意げ。


「言ったじゃないですか〜」


「いや、想像の三倍強い」


「滝川、バドミントン得意です〜」


「さっき聞いたよ」



すると野村さんが悔しそうにシャトルを拾う。


「もう一回!」


「熱くなるな、野村」


「河上君は黙って!」


再び野村さんのサーブ。


今度は低め。


滝川さんはそれも低めに打ち返す、まーちゃん狙いだ。


まーちゃんは冷静に打ち返す。


(空振れよ)


って、僕の方に来た!


慌ててラケットを出す。


カンッ。


変な音。


シャトルがふわっと高く浮いた。


「あっ、終わった」


ネットは越えたものの、完全にチャンスボール。


再びまーちゃんが前に出る。


動きは静かだけど妙に無駄がない。


「三田、甘い」


パシッ。


軽く打たれたシャトルが、


「うわっ!」


僕の頭に刺さる。


一点。


「ふっ」


まーちゃんがちょっとだけ得意げ。


腹立つ。


「今の完全に三田さん狙いでした〜」


「当然だ、剣術でも相手の急所を…」


「お前無修行だろーが!」


野村さんが笑ってる。


「三田君、足引っ張ってるじゃん」


「うるさいなぁ…」


すると。


隣で滝川さんが、


じーっと僕を見る。


「…三田さん」


「何」


「滝川が頑張るので〜」


「うん」


「三田さんは立ってるだけで良いですよ〜」


「それはそれで傷つくんだけど!?」


「滝川のカッコいいところだけ見てて下さい〜」


「…なら、そうしてもらえる?」



早く終われば良いのに。


                    つづく

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