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首輪



教室に入る。


それでも少し早い時間の為、生徒もまばらだ。


まーちゃんは…


いた、けど野村さんがいる。

邪魔しちゃまずいなぁ。


この二人はいつもこんな感じだったのか、今まで知らなかった。



まーちゃんは席に座りながら、


相変わらず難しそうな歴史本を開いている。


そしてその隣では、


野村さんが机に頬杖をつきながら話を聞いていた。


「故に、信長包囲網というものは――」


「へぇ〜…」


「信玄の健康状態次第では歴史は大きく変わっていた」


「なるほどね」


普通に会話成立してる。


すごいな野村さん。


僕だったら三分で寝る。


「……」


なんか、


思ったより空気が柔らかい。


まーちゃんも、僕といる時よりちょっと喋りやすそうだし。


野村さんも楽しそう。


「…青春だ」


思わずボソッと漏れる。



「……」


「……」


二人と目が合う。


野村さんが手招きする。


恐る恐る近づく。


「あれ、三田くん、滝川さんは?」


なんでニヤニヤしているの。


「棄ててきた」


「最低」


野村さんが即答する。


まーちゃんも腕を組みながら頷いた。


「うむ、流石に女子を遺棄するのは感心せんな」


「冗談だってわかるやん!!」


「ふーん?」


野村さんがニヤニヤしている。


絶対面白がってる。


「野村、昨日三田がな、滝川にネックレスを」


「おい!!」


まーちゃん、余計な事を言おうとした。


「え?何何ネックレス?」


ほら、野村さんが食いついた。


「さて、僕は自分の席で自習でも…」


背中を向けようとするも野村さんに背中を張られる。


「自習なんかした事ないくせに!どうせ暇なくせに!…で?ネックレスがどうしたって?」


「……」


「昨日三田は滝川にネックレスを託されたらしい」


あー、言っちゃった。


「えっ!何それ〜メチャクチャ青春じゃん!」


「……」


野村さんの左手首を見る。


まーちゃんが贈ったとされる数珠。


「野村さんもまーちゃんに数珠貰って、大事につけてるじゃん」


「っ…!!」


野村さんの動きが止まる。


さっきまでニヤニヤしてた顔が、


一瞬で固まった。


「……」


「……」


教室の空気が変になる。


まーちゃんだけが状況を理解していない顔で腕を組んでいた。


「む?あれは野村の誕生日に…」


「河上君は黙ってて」


「何故だ…?」


野村さんが咳払いする。


「あー…えっと…」


珍しく歯切れが悪い。


耳が少し赤い。


うわ。


「いや、別に?これは普通にアクセ感覚っていうか…」


「言い訳?」


「三田君!!」


「いっっった!?」


脛を蹴られた。


理不尽。


「いやだって事実じゃん!」


「うるさい!」


「ふっ…」


まーちゃんが小さく笑う。


「野村、お前も存外分かりやすいな」


「河上君は黙って!!」


「だから、何故だ?」


本当に分かってない顔をしている。


この歴史バカ、女心に関してだけ戦国時代より遅れてる。


野村さんは顔を赤くしたまま、


数珠をカーディガンの袖の中へ隠した。


「…別に、大事とかじゃないし、河上君から貰ったから、なんとなく付けてるだけ!だから変な意味じゃないから!」


「うんうん」


僕は頷く。


ニヤニヤしながら。


「三田君なんか腹立つ」


「お互い様でしょ」


「……」


野村さんはむすっとした顔でそっぽを向く。


でも袖の中の数珠を指で触ってるの見えてるんだよなぁ。


今度はまーちゃんがボソッと呟いた。


「野村は先日こう言った


『すごく綺麗だし、大切にしてるよ、肌身離さないって決めたもん』…と」


「うわぁ…」


メチャクチャ乙女。


「河上君!!!!!!」


野村さんの絶叫が教室に響く。


顔真っ赤。


耳まで真っ赤。


「なんで言うの!?」


「事実を述べただけだ」


「言わなくて良い事ってあるでしょ!?」


「そういうものか?」


「そういうもの!!!」


まーちゃんは腕を組みながら真面目に考え始める。


「ふむ…難しいな」


「難しくないよ!!」


僕は腹を抱えて笑いそうになるのを堪える。


ダメだ、この二人面白過ぎる。


野村さんは肩で息をしながら、ギロッとこっちを見る。


「……笑ったら殺すから」


「いや、でも今のは…」


「殺すから」


怖。


「野村さん、結構重いタイプなんだね」


「っ…!!」


追撃。


「違うし!!」


「え、でも肌身離さないって」


「うるさい!!」


脛を蹴られた、本日二回目。


「なんで僕!?」


「三田君がニヤニヤしてるから!!」


理不尽過ぎる。


まーちゃんはそんなやり取りを見ながら、


ふっと小さく笑った。


「これまた先日、俺は野村に

それは貴様を一生縛る首輪ではない、外したければ、外すと良い、と言った」


「…河上君…?」


一気に野村さんの顔から血の気が引いたのが分かった。


「すると野村は『…良いよ、私を一生縛る首輪でも』と言った」


「うわあああああ!!!!!!」


野村さんは頭を抱えて絶叫した。


単純にうるさい。


けど


「なんだよ、野村さん激重じゃないか、よく人の事色々言えるね?」


「そうだ野村、貴様も三田や滝川の話を笑っていたではないか、コレに懲りたら身の丈に合わぬ事はしない事だ」


「…最悪…」


わかりやすく項垂れる。


うん、コレは暴露されたら恥ずかしい。


「河上君さぁ…」


「何だ」


「そういう事、普通言いふらさないんだよ…?」


「そうなのか?」


「そうだよ!!」


「ふむ…」


本当に今知ったみたいな顔をしている。


ダメだコイツ。


歴史以外の能力が壊滅してる。


でも。


そんなまーちゃんを見ながら、


野村さんは小さくため息を吐いた。


「…もういい」


「何故だ?」


「河上君に言っても仕方ないから」


「そうか」


「納得するな!」


朝から教室が騒がしい。



一生縛る首輪、か。


まーちゃんは絶対そんなつもりないだろうな。


野村さんの為にちゃんと選んだんだろうな。


数珠よりも僕の首にぶら下がっているモノの方がよほど首輪に近いのかな。


…まあ、滝川さんの事だからそんなに深く考えてないと思うけど。



ただ持っていて欲しいから持たせた、それだけの事だろう。


重い。


けどそれは受け取る側次第だろうな。


青春に近いような感じなのに、ソレとは程遠い。


重いワガママな感情の交差だな。




                     つづく

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