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キーホルダー


結局こうなるならいつも通りの時間にしたら良かった、と若干思いつつも滝川さんと黄昏る。


と、そこに足音が近づいてくる。


二人くらいいそう。



「義元もただやられたのではない、服部小平太の膝を斬り撃退し、更に襲いかかってきた毛利新助とやり合い、親指を食いちぎっている」


「ん?」


なんだ、朝から物騒な話をしやがって。


でもこの口調、この声…絶対アイツだ。


「へえ〜、やられる大将って無能なイメージがあったけど、違うんだね〜」


女の声。


なんだ、女にこんなヤバい話をしているのか。


足音の主が姿を現した。


「…む、三田と滝川か」


「えっ?三田君!?なんでこんな時間に…」


あ、見つかっちゃった。



声の正体はまーちゃん(河上昌景)と野村さん。


「まーちゃん、朝からメチャクチャ物騒な話をしているね?」


「…まーちゃん…??」


野村さんが眉をひそめる。


「三田の奴が俺をそう呼ぶのだ」


「え?二人って、知り合いだったの?」


「知らなかったか?」


「知らないよ!河上君そういう話してくんないんだもん!」


野村さんって、まーちゃんと話してる時だけ声のトーンも口調も全然違うな、僕と話す時なんてもっと粗暴なのに…今はやけに丁寧に感じる。


「義元は決して無能などではない、東海道一の弓取りの名は伊達ではないほどの功績を…」


なんでまた歴史の話の続きをこのタイミングでぶち込んだんだ…メチャクチャだ。


まーちゃん、どうしても野村さんに歴史を語りたいのだろうか。


野村さんと目が合う。


(行きなさい)


僕はそう念じた。


通じたのか、野村さんはコクリと頷いた。


「……」


「河上君、今川家はその後どうなったの?」


「ほう」


まーちゃんの目が僅かに輝く。


分かりやすいなこの歴史バカ。


「ならば説明しよう、義元亡き後も家臣の岡部は…」


「うんうん」


野村さんは相槌を打ちながらまーちゃんの腕を引く。


まーちゃんが後ろ向きでこちらに手を振る。


(カッコつけやがって)


そのまま二人は歩いていく。


野村さんがちらっとだけこっちを見て、小さく親指を立てた。


(頑張れって事?何を?)


「……」


横を見る。


やけに静かな滝川さん。


鳳凰のリュックをぎゅっと抱きしめ俯いている。


へんたい山が変態みたいな顔をしてぶらぶら揺れていた。


「…滝川さん?」


「……」


「どうしたの」


「別に〜…」


別に、の声じゃない。


分かりやすく沈んでる。


滝川さんはむすーっとした顔のまま、


ペットボトルの水を飲む。


朝から水だけで生きてるのこの人?


「…三田さん」


「何」


「あの二人と仲良いんですね〜」


「普通だよ、クラスメイトだし」


「ふーん…」


絶対納得してない声。


「でも〜」


ちらっとこちらを見る。


「三田さん、さっきからずっとあの女の子こと見てました〜」


「人聞き悪いこと言うなよ!」


「滝川が隣にいながら〜」


「めんどくさっ!」


滝川さんは小さく唇を尖らせる。


そのまま、リュックのへんたい山を指で摘んだ。


「…でも」


「?」


「これは滝川だけのです〜」


「へんたい山が?」


「三田さんにもらったので〜」


「そんな独占欲出す対象じゃないだろソレ」


「…大事です…」


「あ、うん、好きにせい」


へんたい山なんて僕にとってはゴミだ、いや、全世界にとっても。


ゴミを捨てたようなものだ。


もう、高級感ある鳳凰リュックがマジで台無し。


この子、物の価値が分かっているのかな…?


滝川さんはへんたい山を指でぷにぷに押す。


変態みたいな顔がさらに腹立つ。


「…三田さん、これ、ずっと付けときますね〜」


「えぇ…」


「三田さんがくれたので〜」


「こんなゴミを…」


でも滝川さんは嬉しそうだった。


本当に、心の底から。


「……」


なんだろう。


ネックレス渡された時より気楽なはずなのに、


こっちの方が妙にくる。


「三田さんって〜滝川が喜びそうなもの、ちゃんと分かってますね〜」


「分かってないよ、そもそも僕これ嫌いだし」


「ええっ!?」


へんたい山ショックを受けるな。


「滝川は好きです〜」


「趣味終わってるよ」


「三田さんのなので〜」


「……」


それ、


もうへんたい山好きなんじゃなくて三田ブランドとして神格化してるだけじゃん。


だとしたらへんたい山なんてやだな。


「……ほら、そろそろ教室行くよ」


「は〜い」


滝川さんは立ち上がる。


鳳凰リュックとへんたい山。


組み合わせがカオス過ぎる。


でも本人だけはやたら幸せそうだった。


「へんたい山関連のイジりに逢っても知らないからね…」


「むっへんたい山は悪くないです〜」


何故へんたい山を庇うんだ。


「悪いよ、顔がもうアウトだよ」


「かわいいです〜」


「目ぇ腐ってんの?」


「三田さんに似てます〜」


「どこが!?」


ショックなんだけど。


滝川さんはくすくす笑う。


さっきまでの不機嫌が嘘みたいだ。


「もし誰かにバカにされたら〜」


「されたら?」


「滝川、戦います〜」


「へんたい山のために?」


「三田さんがくれたので〜」


重っ。


いや、へんたい山に命賭けるな。


僕たちは昇降口へ向かう。


すると、


前から女子グループが歩いてきた。


その内の一人が、


滝川さんのリュックを見てピタッと止まる。


「……えっ」


来た。そりゃそうだろう。柄も鳳凰だし。


「あのキーホルダー何…?」


ほら来た!!


滝川さんは一瞬だけその女子を見る。


そして、へんたい山をそっと持ち上げた。


「へんたい山です〜」


「!?」


「へ…へんたい山…?」


女子の一人、思いっきり困っている。


「この人が、三田さんがくれました〜可愛いですよね〜?」


やめろォ!!!!


女子達の視線が一斉にこっちへ向く。


「え…?」


「違うから!!間違えてゲットしただけだから!」


僕の顔はへんたい山のマグマのごとく真っ赤だった。



すると、


「…あっ」


別の女子が何かに気付いた顔をした。


「それってもしかして、好きな人から貰ったものなら何でも可愛いし、嬉しい的なやつ?」


「っ……」


僕の喉が変な音を出した。


やめなさい。


滝川さんは、数秒きょとんとして、


それから。


「…はい〜」


「コラ!!!!」


昇降口に僕の悲鳴が響いた。


女子達は「キャー!」だの「青春〜!」だの騒いでいる。


やかましい。


滝川さんはそんな周囲を気にする様子もなく、


へんたい山を揺らしながらにへ〜っと笑った。


「三田さん、顔真っ赤です〜」


「喋るな!」



                     つづく

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