三田、歌います
突如として
「三田さん!夕飯が届く間に一曲お願いします〜」
などと言うものだから。
「え〜…」
40%くらいは歌う気でいた、でも色々でやる気が削がれていた。
そもそも下手ではないとは思いたいが…歌はそんなに得意ではない。
普通に緊張する。
あとは
「古い曲ばっか歌うから…全然楽しくないと思うよ…」
「構いません!」
構いません、か。
さて困ったな。
タッチパネルを前に、指が止まる。
「……」
何を入れようか。
無難にいくか、ネタに走るか、そもそも歌わないという選択肢も…。
「三田さん〜早くです〜」
横から顔を覗き込まれる。
距離が近い。
(うるさいなぁ…)
「滝川、待てないです〜」
「知ってる」
知りたくなかったけど。
画面をスクロールする。
ランキング、最新曲、アニメ、ボカロ
どれもピンとこない。
(やっぱり浮くよな…)
頭の中に浮かぶのは昔よく聴いていた曲ばかり。
今の高校生がカラオケで歌うような曲じゃない。
でも不慣れな曲を歌うよりは…
「…これでいいや」
中町貴造の雨列車
半ば投げるように送信ボタンを押す。
「おっ、入りました〜!」
パチパチと拍手するが、反応する余裕がない。
「期待してます〜」
「アカン」
イントロが流れる。
ギターの音。
少し古めの、でも耳に馴染むメロディ。
「…へえ」
滝川さんが小さく呟く。
「こういうの歌うんですね〜」
「悪かったね」
「悪くないです〜」
むしろ少しだけ興味深そうな顔。
爽○美茶を一口飲み込みマイクを持つ。
手のひらがじんわり汗ばむ。
(…なんか、余計緊張する…)
配信ならもっと気楽に歌えるのに。
やけに意識してしまう。
前奏が終わる。
♪古びた駅のベンチに 置き去りの季節
錆びたレールのきしみが 記憶を連れてくる
言いかけた言葉だけ ポケットに残して
君の背中を 見送るだけの 帰り道
踏切の音が やけに長くて
心の奥を 締めつける
降りしきる雨に 咽び泣いた日々を重ねて
また歩き出す 今では遠き日々よ
やがて晴れるだろう そう言い聞かせながら
閉じ込めた想いだけ 今も鳴り響く♪
静かに聴いていてくれているなぁとチラッと滝川さんを見ると明らかにポロポロと涙を流しているではないか。
「ええっ!!??」
僕の驚きの声にエコーがかかる。
「ちょっ、なんで泣いてるの!?」
二番は始まっているが、それより滝川さんが泣いてる意味がわからないので演奏を停止する。
「この歌詞と〜…三田さんの歌声〜…刺さります〜…」
「え〜?」
嬉しさと照れで情けない声が出る。
いやいや、滝川さん、泣く事はないだろう。
鼻をすすりながら
「なんかこう…じわ〜ってきて…止まらないです〜…」
(それあなたの涙の感想じゃん…)
「…歌ってる側としてはさ、そのリアクション困るんだけど…」
「ごめんなさい〜…」
「いや謝らなくていいけど」
むしろ褒められてる側なんだけど、
反応が重い。
「そんなに刺さる?」
「刺さります〜…なんか…優しいのに寂しい感じがして…」
「……」
「切ないです〜…失われた青春です〜…」
(そんな分析できるタイプだったのか、この人…)
滝川さんは袖で目元を拭きながら、まだ少し潤んだままこっちを見る。
「滝川、青春は失いたくないです〜」
「皆そうだよね」
「なので〜三田さんの言う事ならなんでも聞きます〜」
涙目で親指を立てられましても。
「正直〜…二人きりになれる場所ならホテルでも公園でもどこでも良かったんです〜…カラオケがこんなに良い場所だったなんて〜…」
(なんか一箇所だけヤバい場所言ってた?)
「お願いします!もう一曲だけお願いします〜!」
「嫌だ、歌ってる最中に店員さん来たら気まずいもん」
アレは経験しないと分からないが、非常ーーーーに恥ずかしいのだ。
「そんな事言わないで下さい〜!」
「ほら、ワガママ言うともっとお腹空いちゃうよ」
「うぅ…」
しょんぼりしながら腹を押さえる。
「超絶イジワルです〜…!」
もう静かにしとけ。
(…なんか、滝川さんに対して自然に対応出来ている自分がいる…)
野村さんと話す時のように、ちゃんと素で、思ったことをハッキリと、コレは成長なのか?
コンコン!
突然のノック音に体が強張る。
ガチャりとドアが開き、トレーを持った店員のお姉さんが現れる。
「失礼しまーす!お先にうどんと、ラーメンになりますね〜!唐揚げ、フライドポテト、パフェの方もお持ちしますのでお待ちくださいね〜!」
ラーメンとうどんが滝川さん側に置かれる。
くう、いい匂い。
全部彼女が食べると思われてるのかな…。
「では失礼しまーす!」
ドアが閉まる。
滝川さんは目を輝かせると思いきや、嫌な目つきで僕を見ている。
「…何さ?」
「あのお姉さん、可愛かったですね…」
またそういうのか、うるさいなぁ…。
「うん、そうだね」
「あっ!うんって言いました〜!言いました〜!」
「…」
うるさい…なんなんだこの女…。
「ああいうタイプが好みなんですね〜!」
めんどくせぇ…。
「うん、じゃあ、そう」
「あぁ〜…!!あう〜…!!」
項垂れる。
「早くラーメン食べなさいよ…もはやうどんも食べて良いよ…」
「もうっ!滝川はそんなに食べられません…!」
と、うどんを僕の方へと移動させる。
出汁のいい香り…。
コンコン
「失礼しまーす!フライドポテトと〜唐揚げと〜いちごパフェになりまーす」
フライドポテトと唐揚げは滝川さんの方に、パフェは僕の方に…。
「ご注文はお揃いでしょうか?」
「はい」
「では〜ごゆっくりどうぞ〜!」
ドアが閉まる。
ふむ、確かに可愛い店員さんだ。
派手な銀髪のウルフカット、一見するとちょいと怖いけど…声も態度も素晴らしい!
ジトーーーー
視線を感じる。
「…三田さん、滝川も髪切ろうかな〜」
自分の二つ結びをふわふわと持ち上げる。
「ふーん、そうすれば?」
「……」
滝川さんは自分の髪を指でくるくるしながら、
ちらっと僕を見る。
「…止めないんですか〜?」
「なんで止めるの」
「似合わなくなるかもですよ〜?」
「じゃあやめたら?」
「……」
むぅっと頬を膨らませる。
(めんどくさ……)
「三田さん的には〜今の滝川の方が良いですか〜?」
「どっちでもいい」
「雑です〜!!」
「だって髪型で人の評価そんな変わらないでしょ」
「じゃあ滝川が坊主とか角刈りだったらどう思いますか?」
なんでそんな極端に硬派な髪型を例に出した?
想像すると…
「面白いと思う」
「……」
ぷく〜っと、頬を膨らませる。
風船じゃないんだから。
「それより、早く食べようよ」
「…なんで滝川の方に全部…」
「滝川さんなら全部食べられると思われてるんだね」
「滝川はお相撲さんじゃないです〜…!」
「滝川関」
「十両以上の関取じゃないです〜」
(詳しいんだよな)
そう言って唐揚げ、フライドポテトを中央へ移動させる。
二人で手を合わせてそれぞれ食べ始める。
ラーメンを啜った滝川さんは
「うーん…美味しいです〜」
幸せそうな表情を浮かべる。
そうそう、こういう所のラーメンとかって、ザ・平凡だからこそ一番美味いんだよ。
滝川さんはれんげを持ちまたこちらを見ている。
「何?」
「うどん、美味しそうですね、汁だけ一口ください」
「…」
滝川さんは容赦なくうどんにれんげを沈める。
「あー!僕のうどんをラーメンの汁で汚すんじゃねー!」
「どっちも美味しいから問題ないです〜」
そしてれんげの出汁を啜る。
「うーん、コレも美味しいです〜」
「チッ」
「舌打ちはや〜です〜!!」
「いや普通にショックなんだけど」
「美味しさは共有した方が幸せです〜」
「その理屈で人のうどん汚すな」
うどんの表面に浮く、うっすらしたラーメンの油。
(……まあ別に食えないわけじゃないけど)
「ほら三田さんもラーメンどうぞです〜」
「えっ」
れんげを差し出される。
「はい、あーんです〜」
「えっ、いらない」
「早くです〜!!」
「……」
「は!や!く!!です〜!!」
うるさいので仕方なく一口だけ啜る。
割と熱めでビックリした。
「ふふふ〜…三田さんと間接キ…」
「うるさい!!」
つづく




