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カラオケのメニュー




「……」



「……」



無言の時間が流れる。





【やらかした】滝川さんは少し離れて座っている。



(僕が意気消沈するのは分かるけど、君は何故黙る!?いつもすごい多弁じゃん!)



さっきまでの勢いはどこへやら、


膝の上で指をもじもじさせ、チラチラとこっちを見ては目を逸らしている。


(反省してるのか…?)




そう言えば次は僕の番か、でもこのまま歌わずに素知らぬ顔していようかな。



その時、


ぐぅ〜〜……。


「……」


「……」


今度は別の意味で空気が止まった。


滝川さんが顔を真っ赤にしてお腹を押さえる。


「…今のは」


「うん」


「換気扇です〜」


「換気扇って腹減るんだ」


「違います〜…」


さらに小さくなる。


「…お昼、あんまり食べてなくて…」


「油揚げだけじゃそうだよね」


思わず天井を見る。


するとまた、


きゅるる…。


「……っ」


滝川さんが両手で顔を覆った。


「もう帰りたいです〜…」


「じゃあ帰ろうか」


「それは無理です〜…」


「……」


なんだコイツ。



滝川さんは顔を隠したまま指の隙間からこっちを見ている。


「…恥ずかしくて帰りたいです〜…でも帰るのは嫌です〜…」


「知らないよ」


「乙女心です〜」


「今の流れでその単語使うんだ」


また、ぐぅ…。


「…っっ」


肩が跳ねる。


「もう限界じゃん」


「違います〜、まだ戦えます〜」


「なにと」


「空腹と…羞恥心と…」


「知らないよ」


僕はため息をついて、


テーブルのタッチパネルを手前に引き寄せた。


「なんか頼もう」


メニューを開く。


「…え?」


「このままだと君、倒れるでしょ」


「三田さん…好きです〜」


「カラオケのシステムに言って」


滝川さんはもぞもぞと顔を上げ、


まだ赤い顔のまま画面を覗き込む。


「…ポテト、あります〜」


「あるね」


「唐揚げもあります〜」


「あるね」


「パフェも…」


「主食どこいった」


滝川さんは真剣な顔で悩み始める。


数秒後、


「…三田さんと半分こなら、全部いけます〜」


「え、僕も食べるの」


「えっ」


「えっ、じゃないよ」


「滝川、ここで夕飯済ませちゃいたいです!」


「なんで?家帰って食べないの?」


「今日滝川ママは夜勤なので〜そういう日は外で済ませちゃうことが多いです〜」


「ふーん…」


まあ、正直僕も帰っても一人だし、有り合わせのモノしか食べないからここで済ましちゃうのは良いんだけど…。


むしろ、


帰ってから適当に冷蔵庫を漁るよりはマシかもしれない。


「…じゃあ、僕も夕食ここで済ましちゃおうかな、滝川さんの奢りだし」


「……!」


滝川さんの顔がぱっと明るくなる。


「本当ですか〜!?」


タッチパネルを操作する。


「ポテト、唐揚げ…あとは?」


「ラーメンです〜」


「結構ゴツいね」


「三田さんは何食べるんですか〜?」


滝川さんは身を乗り出して、


僕の肩に顎を乗せる勢いで画面を覗き込んでくる。


「近い近い」


「共同作業です〜」


「注文で共同作業って何」


でも、


さっきまでブチ切れて泣いていた人が、


こうしてケロッとしているのを見ると、


少しだけ安心する自分もいた。


「…僕はうどんにしようかな」


「だけですか!?」


「そうだね」


「滝川のメニューも半分こしますから〜…あ!いちごパフェです〜これもお願いします〜」


「……」


結局、


ポテト、唐揚げ、ラーメン、うどん、そして食後用のパフェ。


普通にしっかりゴツい夕飯だった。


「これでいい?」


「完璧です〜」


注文ボタンを押す。


送信完了の画面が出ると、


滝川さんは満足そうに背もたれへ体を預けた。


そして数秒後、


「…三田さん」


「なに」


「お腹空きすぎて、さっき怒ったのもあります〜」


「嘘じゃん」


「えへへ〜」


「反省ゼロじゃん」


…でも、


その笑い声が戻ったことに、


少しほっとしている僕もいた。




滝川さんは天井を見上げ足をパタパタとさせている。



やっぱり不思議だ。


昼には「コレ」が素だと聞いたのに。


「…蒸し返すわけじゃないんだけど…滝川さんってブチ切れるといつもあんな感じなの…」


足がピタリ止まる。


「……」


数秒の沈黙。


さっきまでぱたぱたしていた足も、行儀よく揃えられている。


「…三田さん」


「なに」


「ブチ切れるって言い方、やめてほしいです〜」


「そこ?」


「乙女に使う単語じゃないです〜」


「乙女かぁ…」


「……」


むぅ、と頬を膨らませる。


でも、すぐに視線を落として、


指先でスカートの裾をいじり始めた。


「…滝川、基本的に怒らないです」


「そうなの…?」


「三田さん限定です〜」


「耳寄りじゃないなぁ」


「むぅ〜…」


とさらに膨れる。


「…でも」


少し間を置いて、


滝川さんはぽつりと続けた。


「滝川、あんなに怒るんだ〜って自分でもビックリです〜」


(僕もメチャクチャビックリしたぞ…)


「…まあ」


頭をかく。


「言い方は悪かったよ」


「かなり悪かったです〜意地悪でした〜!」


少しだけ元の調子に戻った声。


なんだかんだ、この切り替えの早さに救われている気もする。


こんな感じの人がブチギレるのはメチャクチャ怖いけど。




                    つづく

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