カラオケで儀式
「一旦整理しようか」
「整理…ですか…?」
「そう、整理
まず、僕達は、友達…なんだよね?」
これまでの関わり、というか滝川さんの行動を思い起こすと全然そうじゃないのは分かりきっているけど。
「友達……はい、そうだと、思います…」
(歯切れ悪いなぁ)
「だとしたら今日みたいにクラスの人と喋ってただけで変なヤキモチも妬かれる筋合いないからね」
「今日…三田さんにボディタッチしていたあの人…可愛かったです…滝川、あの人に三田さんが取られちゃうと思って…本気で苦しくて…」
その発言がもう友達のソレじゃねえじゃん。
「…三田さん、楽しそうでした…」
いや、楽しかったけどさ。
「正直ね、テンポが良くて、話やすかった」
「……」
「…仮にさ、野村さんと僕がそういう関係になっても、現状の滝川さんなら文句言う資格はないでしょ?」
「……」
滝川さんはため息を吐き
そして
滝川さんの目から大粒に見えるほど、ポタポタと涙が溢れ出す。
「わっ!?ちょっと!!滝川さん!?」
(また泣くの!!?)
「三田さんは…その人の方が良いんですね…?」
「違う!違うよ?あの人はあの人で別に好きな人がいるんだからね、僕も話やすいってだけでなんとも思ってないし…」
(あ、これ…割と面倒くさいかも…)
昨日の配信で誰かが
「地雷女」ってコメントしてたけど…やはり本当にその通りなのでは…?
実績は、ある。
…でも僕がこうやってあーでもこーでもないって言って、滝川さんが折れるなら、それはそれで自然なのかな。
「滝川、これからは三田さんの言う事ちゃんと聞きます…」
滝川さんは怒られた犬のようにしおらしく、小さくなっている。
「正しいかは分からないけどね」
「三田さんの言う事は全部正しいです…」
僕は絶対王政を作った覚えはない。
「そんなつもりはないけど…」
「三田さんは…どうしてそんなに大人なんですか…」
「年相応だと思うけど…」
滝川さんは首を振る。
「大人です、しっかりしています」
(まあ…君に比べたら多少は…)
「あれかな、配信で色んな人と関わっているからかな?」
良くも悪くも色んな関わりがあるし。
「その中には女性もいるんですもんね〜」
またこのパターンだよ。
「…含まれているけど…言っとくけど、滝川さんよりも前から関わりあるからね…」
「……」
滝川さんの表情が、
みるみる曇っていく。
「…何人ですか女性は」
「はあ?」
「何人ですか」
「圧が強いな……」
さっきまで言うこと聞きますモードだったのに、
嫉妬の火種だけは消えていないらしい。
「別にそんな大した人数じゃないよ」
「一人でもや〜です」
「知らないよ」
「滝川、今すごくや〜な気持ちです」
「知ったこっちゃないよ、そんな感情」
滝川さんはむぅっと頬を膨らませ、
ソファーの端で膝を抱えるように座り直した。
「…配信って怖いです」
「なんで」
「知らない女の人が、三田さんと喋ってるんですから…」
言葉にすればそうかもしれないけど…。
「知らない女の人って言い方やめなよ」
「滝川にとっては知らない女の人です」
「まあ、そうだけど……」
はぁ、と小さくため息をつく。
本当に忙しい感情の人だ。
「別にさ、恋愛とかそういうのじゃなくて、ただのリスナーさんとか、話し相手とかだよ」
「…でも、三田さんの声聞いて笑ってるんですよね」
「多分」
「無理です」
「そんな事言ったら昨日滝川さんが乱入した時だって他の人からしたら知らないヤベエ女だよ?
ってかどうすんの、今日も配信するけど、気まずいよ?」
「滝川も一緒に喋ります〜」
「あのさぁ〜…」
いや、でも昨日滝川さんがコラボに来た時のあの盛り上がり、あれはメチャクチャ美味しかったから…。
「それ…アリかもしれない」
あからさまに表情がパッと明るくなる。
「わぁ…本当ですか〜??」
「うん、今から配信しちゃっても良い?」
「あ、でもまだ三田さんの歌聴いてないです〜」
「そんなの配信でやれば良いじゃん」
「やーーーです!!滝川だけの特権です!歌ってから配信してください!」
なんだコイツ、堰を切ったようにワガママ言いやがる。
なんだか、色々と残念な気分。
人間、中身も大事なんだな…と。
「まあ、とりあえず、さ…こんな事になったけど…一旦水に流すって事で、一回儀式をしようか」
「儀式?
…仲直りのチューですか?」
「……」
こういうのはスルーしないと。
「とりあえず一回ゲンコツさせて、コレで一旦チャラで」
「ゲ、ゲンコツ…そんなに滝川にムカつきましたか…?」
「違うよ、ただの儀式だって」
「……」
滝川さんはおそるおそる頭を差し出してきた。
「…でも、三田さんがそれで許してくれるなら……」
(ここまで無抵抗だと余計に罪悪感があるなぁ…)
そして差し出された頭に、
ドアをノックをするが如く、コツン、と指で軽く小突いた。
柔らかくて、小さな感触。
「はい、終了」
「…あれ?」
「本気でやるわけないでしょ」
「……」
数秒固まり、
次の瞬間。
「や、優しいです〜……」
「いや普通だよ」
「滝川、今ちょっとキュンとしました〜」
すると滝川さんは、
自分の頭をさすりながらじりっと近づいてくる。
「じゃあ次は滝川の番です〜」
「何が」
「三田さんにも儀式します〜」
「えっ僕にも…?」
滝川さんはにこにこと笑いながら、
僕の目の前まで身を乗り出してくる。
「額出してください〜」
「えぇ…」
「早くです〜」
滝川さんは人差し指をグニャグニャと動かしている。
「…デコピン?」
「多分そうです〜」
「多分って何…」
嫌な予感しかしないまま、
自分の前髪を少し分ける。
滝川さんが右手を上げる。
人差し指を立て、
いかにもデコピンします、みたいな構え。
「ええ…怖いんだけど…」
「目閉じてないと危ないです〜潰しちゃうかもです〜」
「ヤダ!!怖い!!」
「怖がっている三田さん可愛いです〜」
クスクスと笑っているけど、そもそも僕も何か受ける必要はあったのか…。
「早く〜目を閉じて下さ〜い」
「ヤダなぁ…」
なんかの腹いせにメチャクチャ強いデコピンをされるのではないか…これならゲンコツの方が良い。
「……」
目を閉じて恐怖に怯える。
なんやかんやで言われるがままの僕。
「……」
目を閉じていても顔の前に何かがあるのは分かる。
(怖いなぁ…)
次の瞬間、
ちゅっ。
「……は?」
額に、濡れた、柔らかい感触。
一拍遅れて理解する。
驚いて目を開けると、
目の前に滝川さんの顔がある。
「…えっ、えっ…」
滝川さんはにへらっと笑った。
「…デコピンに見せかけてチューでした〜」
「な、なにしてんの!!?」
勢いよく後ろへ下がる。
滝川さんは口を押さえて横目で僕を見る。
「…これ〜…滝川もダメージ食らっちゃいました〜」
え、勝手にやっといて失礼過ぎない?
「…どういう意味…?僕のデコが汚いって事!?」
「違います〜…勢いでやっちゃいましたけど…滝川、初めてだったので…」
「勢いでやっちゃわないでよ…ていうか、また暴走したね?」
「暴走なんかじゃないです!儀式なので!コレは儀式ですっ!」
完全なる屁理屈。
いや、そもそも僕が儀式なんてやらなきゃそんな事には…。
この人、油断も隙もあったもんじゃない…。
つづく




