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カラオケ2



部屋に戻った途端


「じゃあ、滝川、歌います〜」


「いきなり!?」


「いきなりです〜!三田さん、緊張されていると思うので〜」


「緊張っていうか…」


確かに緊張と不安とかのミックスメンタルだけど。




滝川さんはパネルを操作する。



「何歌うの?童謡とか?」


「歌いません〜!三田さんは一体滝川の事なんだと思っているんですか〜…」


「バカな子」


もうここまできたらそう思わざるを得ない。


「バカですけど〜…!」


「流石に歌う時は離れようか」


距離を取ろうとするが、ズイっと幅寄せをされる。


 「えっ…?ダメですよ?普通に」


顔を近づけられる。


コレは甘えている犬や猫の距離…


人間、ましてや女子にこの距離で近づかれたら身を逸らすのが定石。


「むむ…なーんで逃げるんですか〜…」


「危険だからだよ…」


「滝川は危険じゃありませんけども〜…」


「自覚ないのが一番危険なの」



滝川さんは不満そうに頬を膨らませながらも、タッチパネルをぽちぽち操作する。


「…よし、入りました〜」


「何の曲?」


「秘密です〜」


「曲名出るけどさ」


「あっ…」


『あなたを』


(知らない曲だなぁ…)



イントロが流れ始める。


静かなピアノ。


予想外にしっとりした導入。


「…え?」


童謡でもネタ曲でもない。


むしろ、かなり本格的なバラードの空気。


滝川さんはマイクを持ち、画面の歌詞を見つめる。


一瞬で、空気が変わった。



さっきまでコーンスープで怒られてしょんぼりしていた人と、同一人物に見えない。


前奏が終わる。


滝川さんが、ゆっくり息を吸う。


その隙に僕は瞬時に位置をずらすが、また幅寄せをされる。


そして肩を掴まれて無理矢理引き寄せられる。



『♪偶然なんかじゃなくて運命の出会い

初めて目が合った瞬間にあなたへと堕ちていく♪』


「おおっ!?」


思わず身を画面の方に乗り出す。


コイツ…上手いぞ…!?


『♪止められないこの気持ち♪』


なんか、ふにゃふにゃ感が微塵も感じられない。


「や〜です」とかそういう子供っぽい雰囲気がまるでない。


『♪時間なんて関係ない♪』


「……」


『♪ここが私の居場所だから♪』


声の振動が体を伝わってとてもむず痒いのはさておき、


なんだ?この歌詞。



そしてサビっぽいパートに入る。


『♪重い想いでも幸せな日々の思い出♪』


(韻踏んでる…むしろダジャレか?)


『♪虹色の道をあなたのそばで歩いていく♪』


(なんだかメチャクチャ身勝手な歌詞だなぁ…)


『♪私の物語には あなただけで良い♪』


「…………」


怖っ


そして重っ。


上手かったよ、歌は。



そして徐々に曲が消えていく。


「あれ?」


僕が首を傾げていると


「滝川、一番しか知らないのでストップしました〜」


満足そうに言う。


「歌える曲入れなよ…」


「雰囲気でイケると思いました〜」


「なら雰囲気で二番まで行けるでしょ…」


「あ〜そうでした〜」


この人、まるで緊張してない、息を吐くように歌を歌えるのか。


「えっ?滝川さん、歌い慣れてる…?」


「え〜?全然です、登下校中とか〜お風呂で口ずさむくらいで〜」


一瞬だけ滝川さんの入浴シーンを想像してしまったのは僕が年齢相応だからだろう。



「…歌詞はアレだけど、滝川さん歌上手いね、歌詞はアレだけど〜…」


「ええ!?本当ですか〜?やったー!!」


「うわっ!?」


衝撃が走る。


ガバッと勢いよく抱きつかれている。


(もうさぁ…この子さぁ…僕を殺す気なのかなぁ…)


今朝も事故とは言え電車内で抱きつかれるし…。


慣れない、慣れるわけない、いつか本当に心臓が止まるかも。


案外冷静でいられるのは滝川さんとのこの出来事を都合の良い「夢」として認識しているからだろうか。


違う、キャパを超えすぎて脳がバカになっているんだ。



「三田さーん、次は三田さんの番です〜」


「分かった、分かったから離れて…」


「え〜これは滝川じゃなくて、滝川の頭が勝手にやってる事ですよ〜」


「じゃあ滝川さんの意思じゃん…」


「違います〜」


「違くねーから!…離れないと嫌いだよ?」


「えっ…」


滝川さんの腕の力が弱くなる。


こういう言葉には露骨に反応するらしい。


(子供に諭すみたいな文言だけど…滝川さんに効果あるんだ…)


「……」


滝川さんは、しゅんと肩を落としている。


視線も下。


分かりやすいくらい落ち込んでいた。


「……ごめんなさい〜」


「いや、そこまで落ち込まなくても…」


「…滝川、嫌われたくないです〜…」


小さな声だった。


「……」


お楽しみの雰囲気に水を差すのは良くないけど



ここはハッキリと言った方がお互いの為だろう。



「…嫌われる要素なんて、いっぱいあるじゃん…」


「えっ…?」


「何かと強引だし、ちゃんと束縛してくるし…どれもコレも全部僕じゃなくても成立するじゃん…」


「……」


「今は良いよ、この先誰かを好きになっても同じ事するの?やめた方がいいよそんなの…」


「三田さん…」


滝川さんは俯いたまま


「滝川、強引でした…ヤキモチもいっぱい妬いちゃいました…ごめんなさい…でも…」


「でも…?」


「でも、滝川のこの先の事については色々言われるのは違うと思います…」


「……」


思ってもみなかった返しに、言葉が止まる。


滝川さんは俯いたまま、でも声だけははっきりしていた。


「三田さんに迷惑かけたなら、本当にごめんなさい…そこは滝川が悪いです…」


ぽつり、ぽつりと続ける。


「…滝川だって嫌って言われたらちゃんと考えます…嫌われたくないから…でも、この先誰かを〜なんて言って欲しくないです…三田さんといるこの瞬間瞬間が大事なので」


少しだけ顔を上げる。


「三田さん、滝川は三田さんから離れた方が良いですか…?」


「うん、僕はそうした方が良いと思う」


「………っ」


滝川さんはまた俯いて両手で顔を覆う。


肩が震えている。


「やっぱりこんなのおかしいよ…滝川さんはちゃんと考えた方が…」




「考えたよッッッ!!!」



「わっ!」


あまり声に僕は飛び跳ねてしまった。



悲痛な叫びじゃない、ハッキリとした怒号。


「変なんじゃないかって、早過ぎるんじゃないかって、考えたよ…!!」


指の隙間から、震えた声が漏れる。


「でも三田さんしか考えられないんだもん…!」


「……」


「あなたが優しくするから…!!勘違いしていたら滝川、バカみたいじゃない!!!!!!」


最後の一言が、部屋の壁に跳ね返る。


僕は何も言えなかった。


ただ、


自分が想像していたよりずっとこの子は真剣だったのだと分かってしまった。


軽いノリでも、


その場のテンションでもなく


ちゃんと悩んで、ちゃんと自分でもおかしいと思って、


それでもここに来ていた。


「……」 


喉が詰まる。


僕はまた知ったような顔で勝手に決めつけていたのかもしれない。




換気扇の音と、鼻を啜る音だけが聞こえる。


「…世の中も、人に対しても斜めに見たような男だよ、僕は…だからさ、コレに懲りたら…」


言い終わる前に滝川さんはバっと、僕の方を向いた、向いた、というよりかは涙に染まった目で、睨んでいた。


一瞬怯んだけど続けようとする


「懲りたら…その、僕の事なんか、一旦忘れて…」


だけど言葉が上手く出てこない。


「その、新しい出会いなんて…いくらでも…」


視界が揺れた。


「…!!!!」


バッと飛びかかられた。


何も抵抗出来なかった。


「ッッふざけんな!!!!」


再びの怒号、今度は至近距離で。

耳が痺れるほどの声量だった。


「懲りたら?忘れて?…新しい出会い…?何言ってんの!?」


両肩を掴まれる、物凄い力。


「えっ…!?ちょっ、ちょっと…」


抵抗する間も無く


「そんな簡単に切り替えられるわけないでしょ!!あなたは、いつもそうやって逃げ道みたいな事ばっか言う!!!!」


「……」


「自分を悪く言って、相手の為みたいに言って、勝手に終わらせようとする!!」


「…っ」


言い返せない。


図星だった。


「斜めに見てるのは勝手だけど!!」


肩を揺さぶられる。


「滝川の気持ちまで斜めに見るな!!!!」


「……」


何も言葉が出ない。


僕は、本当に


最低だ。


「…なんで」


ようやく絞り出した声は、


情けないほど弱かった。


「なんで、そこまで……」


滝川さんの手が、


ぴたりと止まる。


涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、


息を切らしながら、


僕を見る。


「…好きだからに決まってるでしょ」


その一言だけは、


さっきまでの怒鳴り声より、


ずっと強く胸に刺さった。




                   つづく

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