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カラオケ




遂にくっ付いたまま校門を出る。




「…僕ら、恋人同士だと思われるよ?」


「違うんですか〜?」


「明らかに違い過ぎるでしょ、友達の距離じゃないよね」


「うーん…?」


(考える事じゃないぞー)


「これが〜恋心、なのでしょうか〜?」


ちょっとまた破壊力抜群の単語が現れた。


「…はい??」


「まだ日も浅い事は分かってるんですけど〜…三田さんの事を考えると胸が切なくて〜…」


(ちょっと待てえ!!!!)


心の中で最大火力のツッコミを入れる。



「三田さんは〜時間が〜とか会ったばっかり〜とか言いますけど〜」


「…言うよ、それは」


「それなら滝川のこの気持ちは嘘なんでしょうか〜?」


「それは…」


うん、滝川さんがちょっとおかしいよね、とは言えず…。


実際僕もよく分からない胸の内。


だけど自信を持って滝川さんと向き合えるか、僕がそれを受け止められる男か!と言ったら全然違う。


「そのうち僕の事なんてどうでも良くなるよ」



「!!」


腕に絡む力が一瞬、強くなったのを感じた。


(あ、またやっちゃった…)


僕は根っから捻くれている、どうしてこんな言い方しかできないのだろうか。


「いや、まあ、そういう可能性も無きにしも非ずと言うか…」


無理矢理言い訳をしたつもり、不完全過ぎる。


「…三田さん……」


滝川さんがあからさまな低い声で僕を呼ぶ。


「……はい」


何故僕は敬語なのだろう。


「滝川、カラオケの場所が分からないので〜教えてもらっても良いですか〜?」


「……」


(なんか、全然スルーされてる?)


「多分、何軒かありますよね〜?三田さんのオススメの場所を教えていただければ〜」


「…じゃあ案内するけど、その前に少し離れようか」


「えっ、無理です」


無理か。


「三田さんは〜何を歌うんですか〜?」


「まだ決めてない」


「そっか〜楽しみですね〜」


何事もなかったかのようににこやかだ。


僕のマイナス発言に対するスルースキルを身につけたのだろうか。


だけど



「あと、さっきの言葉、一生忘れませんから」



「うっ…」


ちゃんと聞いていたみたいだ。


しかも一生忘れないようだ。










結局滝川さんがくっ付いたままカラオケ部屋に通されてしまった。


(今どきカップルでもこんなにくっ付きっぱなしじゃないでしょ…知らないけど)


「わぁ〜!密室です〜!」


どこにテンション上がってるんだろう、この子は。


でも確かに密室、密着、逃げ道がない。


カラオケ、一人で、たまに行くくらい。


おそらくこの部屋も何回かは通された事がある、と思うけど、全然違う、異性と、密着しながらなんて。



「あっ!コップもらったのに飲み物がないです〜」


「あなたがムキになって部屋に入るからだよ…ドリンクバーをスルーするなんて前代未聞だよ…」


「…」


滝川さんはゆっくりと、僕に絡んでいた体を離す。


そしてゆっくりと滝川さんが立ち上がる。


久方ぶりに僕の利き腕が自由になる。


熱気が凄いし、むしろちょいと痺れてるし…腕全体を揉んであげる、可哀想に…。


「……何か不満でも〜?」


滝川さんはジト〜っとした目つきで僕を見る。


「不満っていうか…」


「なんか不満ありげに腕を触っていますけど〜」


「僕の腕が…可哀想だなって…」


「酷いです〜!」


「強いんだよ、力が」


「むむ…」


頬を膨らませてもそれは覆らないよ。



「滝川、飲み物淹れてきます〜何飲みますか〜?」


滝川さんはプラコップを持つ。


左手で器用に二つ持ち。



「いや…悪いよ、僕が行くよ…」


僕も立ち上がってみる。


「…三田さんは〜優しいですね〜」


「優しさっていうか…悪いし…」


「大丈夫です、滝川に任せてください〜」


そう言って背中を向けた。


「…逃げないでくださいね?」


「この状況で!?」


逆じゃない?汲みに行く人が逃げるんじゃない?


「いひひ〜」


妙な笑いと共にガチャりとドアを開けて出ていく。



「……」


(あれ、僕の飲み物のリクエストは…??)


まあ、お任せで良いか、でも滝川さん、僕に何飲むか聞いてきたよね…。何を汲んでくるんだろう。


「……」


滝川さんの残り香が漂う密室空間。


いや、しかし、なかなかどうして良い香りがする。


マスカットとか、そっち系の果物っぽい匂い。


正直、正直ちょっと頭が痺れるくらいには心地良い香り。




ソファーに置かれた滝川さんのリュックの鳳凰と目が合う。


「…奇抜だなぁ…」


優美ではある、でも全然可愛くはない。


なんか、葛飾北斎が90近い年齢の時に描いた絵だとか。


年齢も当時からしたら化け物なのに、想像上の生物をここまで生々しく描けるものなのか…。



(滝川さんのあの感じと全然合わないな…)


ああいう人はキャラモノで固めるでしょ(偏見)



ガチャりとドアが開き、滝川さんが現れた。


「お待たせしました〜」


「…おかえり〜」


薄々気づいてたけど、僕が比較的チビなのを差し引いても滝川さんちょっとだけ身長高いんだな。


羨まし〜。



「あちち…」


と言いながら僕の目の前にマグカップが置かれる。


香ばしい匂い。


そしてもう一つ、滝川さんが持つプラカップには透明な、水らしきものが入っている。



「…え?これ、コーンスープだよね?」


「はい〜三田さんにはコーンスープをお持ちしました〜」


「……」


マジかこの人。


「コーンスープも飲み放題なんて、凄いですね〜」


なんで目キラキラでニコニコ笑っているんだ。


コレは…ボケなのか?ツッコミ待ちか??


それなら…。


「バカタレ!!!」


「うええ〜!?」


滝川さんの肩がビクっとなる。


「カラオケで一番初めにこんなもん飲めるかー!!」


「え?えぇ〜?」


「ステーキハウスやないねんからーー!!汲み直してこいバカタレ!!」


「………」


滝川さんは口をすぼめて俯いている。


「…ごめんなさい〜…」


「………あれ?」


…違っていたのは一回目のリアクションでなんとなくわかっていた、けどなんか、止まらなかった。


配信者としての性かな?


「…じゃあお水あげます、コーンスープは滝川が責任をもって一気飲みしますので…」


「いやいや、待って待って…ボケだと思ってたから…」


「滝川、バカですけど〜ボケてないです〜…」


「ごめんごめん、ボケてると思ってたから勢いよくツッコんじゃった…」


「うう…怒られたと思っちゃいました…」


肩を落としている滝川さんを見て罪悪感が倍増する。


「…ホントごめんって…」


滝川さんが顔を上げる


「でも〜」


「?」


「亭主関白…?っぽくてドキッとしちゃいました〜」


「…はあ?」


「俺に着いて来い!俺の言う事は絶対だ〜言う事聞け〜!みたいな〜」


「そんな亭主、今の時代にそぐわないよ…モラハラじゃん…」


「滝川は良いですよ〜」


(良くねーだろ)


「あれ…?ところでもう一つのプラコップは?」


「あっ!ドリンクバーに置いてきちゃいました〜」


「……じゃあそのコップに自分で汲んでくる」


立ち上がる、がその瞬間に腕を掴まれる。


「あっ…ダメです!滝川が行きます〜」


「やだよ、どうせ変なもん汲んでくるんだから」


「お願いします〜!何飲むかだけ教えてください〜!」


「うん」


適当に返事をして半ば振り解く形でドアノブに手を掛ける。


「あ〜…!!」


滝川さんは喚いているが、知った事ではない。






「ふぅー…」


部屋を出てため息一つ



歌うかはわからないけど…歌う前からスタミナ切れ手前な気持ち。



ひょっとして僕は世の中で一番の急展開を経験したのではないだろうか。




状況も、展開も、話題性も正直美味し過ぎる、けど僕にはデカ過ぎて消化しきれない、胃がもたれる。



そんな状況のこの僕がコーンスープでほっと一息なんて、つけるわけがない。


僕はいつも爽○美茶なのだ。


炭酸だと途中でゲップ出ちゃうし。




ドリンクバーには可哀想に、ちゃんと僕のプラコップが置かれていた。


ぽつんと置かれた自分のコップにお茶を注ぐ。


その時。


「三田さ〜ん!!」


「!?」


振り向くと、廊下の向こうから滝川さんが小走りで来ていた。


「え、なんで来たの」


「……」


滝川さんは僕の前まで来ると、少しむっとした顔で言う。


「遅いです〜」


「一分も経ってないよ…」


「三田さん、逃げたのかと思いました〜」


「だからなんで逃亡前提なんだよ…カバンも部屋に置きっぱなしだしさ」


「だって〜三田さん、すぐどっか行っちゃいそうですし〜」


「そんな実績ないけど」


「…待ってる間、寂しかったです〜」


「一分で?」


「滝川にとっては長い一分です〜」


「重いなあ…」


「軽いより良いです〜」


(良くねーだろ)


そのまま、自然(?)に僕の腕へ絡む。


「ちょ、もう、良いから…」


「迎えに来ただけです〜」


「それなら尚更絡むなよ…」


通りすがりの客がこっちを見る。


終わっている。


「三田さんは何にしたんですか〜?」


「爽○美茶」


「地味です〜」


「水よりはマシだろ」


「一口ください〜」


「自分、水あるでしょ」


「それとこれとは別です〜」


「別じゃないよ」


「ケチ〜」


滝川さんは頬を膨らませる。


そして、ふっと笑う。


「でも〜逃げてないようで安心しました〜」


「なんだコイツ」


「えへへ〜」


何が嬉しいのか笑いながら、腕を引っ張る。


「戻りましょ〜密室です〜」


「その言い方やめて」




                    つづく


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