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君の名は…?



「うわ、女の匂いがする」


「!?」


教室に入った途端に男子生徒から、明らかに僕を見てそんな事を言い放たれた。


「羨ましい!!」


(羨ましいのかよ…)



無視して自席に着く、道中様々な方向から目線が刺さった。


なんなら「滝川」という単語がメチャクチャ聞こえてきた。


(分かっててもこの空気、いじめじゃないのか??)


「おかえり〜」


「……」


さっきの女子。


「いやーごめんね、滝川さんがあんなに嫉妬深いとは思わなくて〜退散させてもらったよ」


「…さっきも言ったけど、滝川さんとは昨日初めて喋ったんだからね…」


「それは君の中での常識、滝川さんには日数なんて関係ないでしょ」


「え〜…」


それっぽい事を言われているような気もするけど消化しきれないような…。


日数って結構大事かと…。


「実際三田君が滝川さんの事をどうも思ってないならその理論で通じるけど…違うもんね?」


「うっ…!」


「ね?昨日とか今日とか関係ないじゃん」


「じゃあ…」


「?」


「急に嫌いになったりもする訳だ」


ちょっと論破出来そうな気がして少し気分が高揚する。


なんともプライドの低い男だろう、僕は。


「今のところ全然大丈夫だと思うし、逆の事を考えている時点で三田君の方が入れ込んでそう」


「ううっ…」


僕は論を述べるべきじゃないな、と、あとこの女子には下手な事は言えないな、とつくづく思った。



授業が始まり、少しだけ教室内が静まる。



ところで



「君の名は…?」


小声で女子生徒に話しかける。


「へっ?映画?」


「じゃなくて、あなたの名前は?」


「は…?」


ロクに喋った事ないから名前なんて知らない。


「え?私の名前を聞いてる…?」


コクリ。


「嘘でしょ!?入学してニヶ月経ってんのに!?隣の席なのに!?何回も喋ったことあるのに!?」


「喋った事、あったっけ…?」


「うわ、キモっ!」


え、それは普通に悪口…。


女子はハァーーと、深く息を吐く。


「野村だよ、覚えた?」


「野村さんね」


「マジで私の名前知らなかったの?」


コクリ。


「マジで、記憶力どうなってるのさ〜…」


配信で頭がいっぱいだったからか、現実にあまり意識が向いていなかった弊害だろうな。


「下の名前は?」


「良いよ、どうせ忘れるんだから」


「克也?」


「マジ殺すよ」


「ごめんなさい…」


ふざけてみたけど、


野村さんは結構キレているのだろうか、メチャクチャ鋭い眼光で僕を睨んでいる。


(これは最初から僕が完全に悪い…)


彩葉いろは…覚えた?」


「変わった名前だね」


「マジでお前さ〜…」


呆れたように、額に手を当てる。


「今の流れでそれ言う?普通いい名前だねとかでしょ」


「いや、悪い意味じゃなくて…」


「フォローが下手!!」


ビシッと肩を叩かれる。



「…ごめん」


「ほんとだよ…」


野村さんはため息をつきながらもどこか呆れた笑いを浮かべている。


「まあ良いや、三田君って変人だけど結構面白いし」


「変人…」


「いや、良い意味で」


「野村さんもフォローが下手だね…」


野村さんはケタケタと笑う。


この人ーー。


会話しやすいな、と思った。


テンポが良い。


パワプロで言うとテンポ○


比較対象が滝川さんだけど…。


なんか自然に話せている気がする。



「えっ、なんで私のこと見つめてんの…?浮気?」


「あ、うん、少しだけね、喋ってたら欲が出てきちゃった」


勿論冗談だけど。


野村さんの感じなら


「あははっ…死ね!」


くらい言ってきそう。



でも


「うわっ、うわっ!」


「え」


野村さんは両手で顔を覆い、机に突っ伏した。


顔は分からないけど、髪の毛から少し見える耳が赤い。


(なんか、思ってた反応と違う…)


「…急に高熱…?」


野村さんは突っ伏したまま僕の脇腹を急にバシバシと殴って来る。


「ぐふっ、なんだ、元気なんじゃん、ぐふっ」


「うるさいっ!喋るなっ!」


余裕のないような声色。


あと、普通に脇腹は、効く。


ピタリと、殴る拳が止まった。



「…三田君、女の敵だよ」


「ひどい」


なぜ僕が殴られて、そんな事を言われなくちゃいけないのだろうか。


野村さんは顔を上げ、また深く息を吐く。


「もう、三田君とは絶交だから」


突然の絶交宣言…。


「大した関わりなかったけど、今までありがとうね」


「…いや、嘘だから、受け入れ早過ぎ」


嘘だったのか…。


「野村さん…嘘でもそんな事言うもんじゃないよ…」


「お前が言うな!お前が!!」


もはや周りの生徒達はクスクスと笑っている。


まるで盛り上がった配信のような、


正直とても心地が良い。


「…って言うか〜私なんかと喋ってないで滝川さんの相手してあげなよ…」


「滝川さん今いないもん」


「どうせ連絡来てるでしょ」


まさか、いくら滝川さんでもそんなに頻繁に…


スマホを見る。



「!!」



目を見開く。


「あはっ!わかりやす〜」



野村さんがニヤニヤしながら身を乗り出してくる。


「来てるんでしょ?」


「…来てる」


観念して答える。


「ほらね」


勝ち誇った顔。


「内容は?」


ジトーっとした目。


「…それはここでは申し上げられない…」


「今申し上げろ!」


バンッと机を叩かれる。


「ちょっと!授業中なんだけど!?」


「じゃあスマホ見てんじゃないよ!」


「あなたの言う通りだ」


「で?」


野村さんが顎でスマホを指す。


「なんて来てんの?」


「……」


少しだけ躊躇う。


でも、


「…見る?」


「見る」


即答。


そして食い気味。


「遠慮なさすぎるな…」


「いいから見せな」


半ば奪われるようにスマホを差し出す。


野村さんは画面を覗き込んで


「……」


固まる。


「……え」


もう一回見る。


スクロールする。


「……え?」


二回目。


「なにその反応」


「……三田君」


ゆっくり顔を上げる。


「なにこれ」


「なにって…」


「これ、普通じゃないよ」


「……」


やっぱりか。


「…分かってる」


小さく答える。


「滝川さんって、思ってたよりも、キてるね…」


「……」


言葉に詰まる。


「…まあでも」


野村さんはスマホを返しながら、ため息をつく。


「そりゃあの感じならこうなるか」


「……」


「むしろ三田君がそういう態度だから加速してる説ある」


「そういう態度…?」


「そ、女の敵みたいな」


「だからそれはどういう意味なの?嫌われるって事じゃん!」


「違う、無意識に女を意識させるって事」


「??」


無意識とか意識とか、一体なんの事だか。



「でも…滝川さんとはたまたま出会って…意識させる事なんて何もしてないし…」


「だから、それが無意識なんだって」


「滝川さんの事は可愛いと思ってたけど…僕の方が意識し過ぎて全然話出来てないし…」


「ん?私と喋ってる時の感じじゃないの?」


「全然違うよ…野村さんも可愛いと思ってるけど、意識してないから…」


「…コイツホントに…」


野村さんは頭を抱えて机に突っ伏す。


そろそろ先生に怒られるよ。


野村さんはしばらく机に突っ伏したまま、ピクリとも動かなかった。


「…野村さん?」


恐る恐る声をかける。


「…三田君さ」


低い声。


「うん」


「それ、今の発言、分かって言ってる?」


「え、なにが」


「私も可愛いと思ってるけど意識してないってやつ」



「何か問題でも?」


「……」


沈黙。


そしてゆっくり顔を上げる。


その顔は、


呆れ半分、諦め半分、ほんの少しだけ赤い。


「やはり女の敵だわ」


「またそれ!?」


「しかも無自覚タイプの一番タチ悪いやつ」


「いやいやいや、褒めてるじゃん今の流れ」


「褒めてねぇよ、可愛いけど意識してないってさ、女からしたらどういう意味か分かる?」


「え…そのままの意味じゃないの?」


「違うの、それ、お前は恋愛対象じゃないけど顔はいいよねって言ってるのと同じだから!」


「そこまでハッキリは言ってないけど…」


「思ってるんでしょ?」


「まあ…」



「…それを無意識で言うからタチ悪いって言ってんの!」


「……」


ちょっとだけ、考える。


(あれ…?)


「じゃあ僕、結構失礼な事言ってた?」


「今更気づいた?」


即答。


グサッとくる。


「失礼って言うか、無神経!」


グサッ…。


そんなに言うことないのに…。


でも…。


「でも野村さん、僕滝川さんとはこんなに楽しくテンポ良く会話出来ないよ?もし出会い方が違っていたら野村さんの事…」


途中で手で制される。


「三田君」


「はい?」


「もう、喋るな」


「……」


(なんで!?何故!?)


「…出会い方が違ってたら、それは私だってそうだよ」


野村さんは、ポツリと呟いた。




                    つづく

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