喜怒哀楽
ワガママ、か。
でもソレすら僕には厄介に感じられない自分が信じられない。
それによって周囲からは誤解を生んでいるのに。
この子なら、良い。
僕は今そんな気持ち。
良いのか悪いのかは全くわからない。
「…」
周囲を見れば通る生徒達が僕らの事を見ている、目立っている。
「三田さんには滝川だけを見て欲しいんです、コレが滝川のワガママその一です…」
薄々と垣間見えていたけど、この子って所謂独占欲が強いタイプの、分かりやすいメンヘラなのでは?
嫌じゃない、嫌じゃないけど先を考えると割と厄介と言うか、厄災というか…。
冷静に考えたらまだ僕は滝川さんの人となりをあまり知らない、それは滝川さんにしても同じ事。
ちょっとチヤホヤされたくらいで簡単に心が揺れ動く僕は結構チョロいのか、
「……」
滝川さんは僕の肩にピッタリとくっ付いている。
(いや、このチヤホヤはちょっとじゃない!!!!)
拒否はしない、しないにしても
「…近い」
「近いどころか〜くっ付いちゃっていますね?」
「……」
半歩ズレる。
だけど滝川さんは半歩体を寄せて元通りに。
「…なんでイジワルするんですか〜…?」
周りをちらっと見る。
明らかに何人かがこっちを見ている。
ヒソヒソ声。
視線。
全部が刺さる。
「見られてるから…」
「見られてたら、なんですか〜?」
「…普通は気にするでしょう…」
「滝川、普通じゃないですよ〜?」
それは、そう。
それ故に自然とこの関係も、僕が持っている感情も普通じゃないと、納得出来る。
それはそれで幻想のような、夢のようで、なんだかとても虚しいのだけれど。
「…滝川〜ずっとこのままでいたいです〜…」
「…それは、本心で言っているのかな……あっ」
思わず口に出してしまった。
「本心ですけど〜?」
滝川さんの体重が更に重く、肩を圧迫する。
踏ん張らないと倒れそうなくらいに。
「ちょっ…滝川さん、痛いし転んじゃう!」
「嫌な事言う三田さんは倒れちゃえば良いです〜」
「怖い怖い、怖いって!」
「本心かどうかなんて〜」
じっと見てくる。
逃げ場がない距離。
「三田さんが決める事じゃないです〜」
「……」
(そりゃそうだけど…)
だけど、素直に飲み込めない。
「…だってさ」
なんとか言い返す。
「現実的じゃないでしょ」
滝川さんはジトーっとした目つきで僕を見つめる。
もはや吸い込まれそうな、無機質な目。
「コレ、現実ですけど…配信の世界だと思いますか〜?」
「そういう事ではなく…」
「三田さんの声も、体温も、滝川、全身で感じています」
「うーん?なんで官能的な言葉を…」
「カンノウテキ…?ってなんですか〜?」
「……」
(知らないのかよ)
もう言葉が思いつかない。
諦めて一点を見つめる。
「滝川、バカだから難しい言葉分からないです〜」
「……」
「三田さーん…」
「……」
「三田さぁ〜ん…」
ヤバい、滝川さんの声が潤んでいる。
慌てて滝川さんを見ると
「あっ」
涙を溜めて、僕を恨めしそうに見ている。
「無視はやめてください〜…せめて返事だけでもして下さい〜…」
(だって返す言葉が思いつかなかったんだもん…)
なんて全て言えるわけもなく。
「…いや、無視じゃなくて」
慌てて言葉を探す。
でも、
「……」
滝川さんはじっとこっちを見たまま。
目に溜まった涙が、今にも落ちそうで。
「……っ」
これ、完全に僕が悪い流れだ。
(…えー…これ、100%僕が悪いのかなぁ〜?)
泣くなんて思わないし、泣いたもん勝ちみたいな感じじゃないのか、これは。
「その…なんて返せばいいか分からなくて」
正直に言うしかなかった。
「……」
一瞬の間。
「…それならそう言ってください〜…」
少しだけ拗ねた声で。
「……」
「また無視です〜…!」
そう言いながら、
袖を、きゅっと掴まれる。
「無視されるのはや〜です〜…!!」
「いや、読み込み中、ロード中!」
「三田さん、ゲームじゃないんですから〜…!」
少しだけ、表情が緩む。
「滝川さん、ちょっと面白いツッコミだったね」
「話を逸らさないで下さい〜…!」
滝川さん、ちょっとキレてるのかと思うほどには語気が強い。
これは、キレているのだろうか。
(あ、ダメだ)
しれっと流れを変えようとしたけど見事に弾き返されちゃった…。
根本は
「泣くような事じゃないだろ…めんどくさいなぁ…」
と思いつつも
ここは僕が折れないと収拾がつかなくなる。
「ごめん、返事します…」
「…ちゃんと謝ってくれたので許します〜」
(…許すとかじゃないじゃん…)
そして勿論、かなり時間が経過している。
(教室に戻ったらまた大変な事になるだろうな…どうしよう…)
「あ…じゃあ僕、教室戻らなきゃ」
滝川さんは一度僕の腕をグッと引き寄せた。
「えっ…ちょっ…!」
そしてゆっくりと、離れた。
「…またです〜…放課後、本当に楽しみにしていますから〜」
という言葉と共に、滝川さんは軽く手を振って自分の教室へ戻っていった。
「……」
その背中を、少しだけ見送る。
離れていくはずなのに、
さっきまで隣にあった体温がまだ残ってる気がした。
「…ふぅー」
小さく息を吐く。
一日に喜怒哀楽出しすぎなんだよなぁ…この人は。
つづく




