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殺気



なんとかギリギリの精神力でスマホを見ずに授業をやり切った。


ただし授業内容はほとんど頭には入っていない。


「ふぅーーーーーーー!!!」


力強く息を吐き理科室を出る。


「いやぁ、前途多難だねー」


何故か隣の席の女子が着いてくる。


「……」


無視。


「無視すんなよー!」


パシンと肩を叩かれる。


ていうかこの人、今までロクに喋った事ないじゃん。


「なんで着いて来るの…」


「まーまー、たまには良いじゃん」


と僕の隣を歩き始める。


「で?どうなの、滝川さんは」


ビクッ


もはや「滝川」という単語に体が硬直してしまう。


「どうって…?」


「滝川さんとの進捗だよ!」


「何も変化ないよ…」



「ふーーん、でも三田君、分かりやすいんだよね」


「……」


「嬉しいの、顔に出すぎ」


我慢してたんだ、でもそれを上回るのだから、どうしようもないじゃないか。


「……うるさい」


「図星じゃん」


くすっと笑われる。


「……」


ぐうの音も出ないとはまさにこの事。



「まあでもさ」


少しだけトーンが落ちる。


「いいんじゃないの?」


「…なにが」


「楽しそうじゃん」


「………まあ」


否定は、出来るわけがない。


不安はとうに越えて、楽しさは確かに見出している、と言うか、幸福だ。



「素直になれってー!」


また肩をパシンと叩かれる。


いちいち叩かないと会話出来ないのかこの人は。


そう思っていた刹那ーー


「!?」


ゾワッと全身に寒気が走った。


(え?何これ…)


なんだか分からないまま前を見ると



廊下の向こう側に滝川さんが立っていた。


「……」


こっちを見てる。


まっすぐ。


その視線が、


ゆっくりと――


僕の隣にいる女子へ、移る。


「……」


一瞬。


ほんの一瞬だけ。


滝川さんの目がカッと見開かれる。


(えっ…!?怖ッ…)



でもすぐに、



ふにゃっとした、いつもの笑顔に戻る。


「…お疲れ様です〜…」


「うん…」


ぎこちなく返す。


なんとなく、なんとなくだけどこの寒気の正体は滝川さんが原因なのではないかと思った。



「三田さん、授業どうでした〜?」


「…まあ、普通、かな」


「…そうですかー」


「………」


なんだか寒気が止まらない、これは恐怖なのか。



隣の女子を見る


目が合った。


声には出さずに


『やばそう』



と口だけ動かして


「じゃ、また」


とその場を離れていった。



なんだか分からないけどコレは正解だと思う。



滝川さんは細めた目で女子を追っていた。



目で追いながら


「あの人〜…」


そしてその目のまま僕の方へ目線を戻し


「どなたですか〜??」


と、いつになく低い声で僕に聞いてきた。


「同じクラスの、隣の席の人だよ、多分マトモに喋ったの今日が初めてだけど」


「別にまともに喋ったとかは聞いてないんですけど〜…なんか楽しそうでしたね〜」


(え、なんか滝川さん、本当に怖いんだけど)


「楽しくはないよ…」


「ボディタッチもしてました〜」


「ボディタッチ!?」


「肩を…ポーンって〜」


(ただのあの人の暴力だろ)


「ボディタッチっていうか…」


「完全なるボディタッチです〜…仲良さそうですね〜」


「ちょっと、ちょっと待って…」


いつの間にか僕の足は震えている。


「滝川さん、ちょっと怖いよ…」


さっきまで甘々だったし、文章も甘々だったのに、なんで急に…。


「…滝川、怖いですか〜?」


「うん、怖い」


正直に言う。


誤魔化しても、多分意味がない。


「……」


一瞬。


滝川さんの動きが、止まる。


「……そうですか〜」


ぽつりと。


少しだけ、力が抜けた声。


「すみません〜…」


「え?」


予想外の謝罪。


「滝川、ちょっと変でしたよね〜」


「いや、その…」


どう返していいか分からない。


「……」


滝川さんは、少しだけ視線を落とす。


「……なんだか〜」


小さく、呟く。


「三田さんが、取られちゃうみたいで〜…」


「……」


心臓が、一瞬止まる。


「…別に取られるとか、ないでしょ」


「分かってます〜」


即答。


でも、


「不快でした〜…」


「……」


言葉に詰まる。


さっきまで怖いって思ってたはずなのに、


今は、


今の滝川さんはとても儚く見えた。


「…さっきの人と一緒にいるのを見つけた時は


本気で殺そうかと思っちゃいました」


「えっ!?」


いつの間にか落ち着いていた足がまたガタガタと震え始めた。


なんか物凄く物騒な単語が聞こえたのは気のせいじゃない。


「こ、殺すって…どっちを…!?」


「どっちもです」


滝川さんは真顔だ。


コレ、多分本気なのだと思う。


僕が感じた寒気と恐怖は殺気だったのだろう。


「…思っただけですよ〜?本気でやろうなんて思っていませんから〜」


えへっと笑う。


(いや、君は笑えてもコッチは全然笑えないし!)


少しだけの沈黙。


廊下を通る他の生徒の声が、やけに遠く感じる。


「…さっきの人とは」


滝川さんが、ゆっくり顔を上げる。


「本当に、なんでもないんですよね〜?」


「うん、なんでもない」


「……」


じっと見られる。


それから、


「…そっか〜」


ふにゃっと、笑う。


いつもの顔。


でも、


「よかったです〜」


そう言いながら、


一歩、距離を詰める。


「……っ」


肩をピタリと付けてきた。


そしてググっと、滝川さんの体重が乗る。


「滝川、会いたかったです〜…授業中、ずっと我慢してました〜」


「うっ…!!」


コレはヤバい。


ギリギリ行動すらしないものの、抱き寄せたい衝動に駆られる。


「寂しかったです…なのに他の人と歩いてたから滝川は…」


「………ごめん」


ポツリと呟く事で精一杯だった。


肩にかかる体重がどんどん重くなる。


「三田さんが優しいから、滝川、もっとワガママになっちゃいます〜」




                    つづく

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