異性として
「…出会い方が違ってたら、それは私だってそうだよ」
野村さんは、ポツリと呟いた。
「…野村さん…?」
「…出会い方って、人それぞれでしょ?もしも、の話は誰にだってあるよ
…私もね、恋しているんだ」
「へー」
「…興味なさそうだね」
「うん」
「…ハッキリ言うなぁコイツ…」
他人の恋路にはマジで興味無い。
「三田君は三田君のルートを進んだら良いよ、どう転ぼうと、応援してるから」
「…うん…?ありがとう」
なんだか綺麗にまとめられたみたいだ。
そんな空気をぶった切るように、
「おーい、そこー」
先生の声が飛んできた。
「さっきから随分楽しそうだな」
「「……」」
野村さんと同時に固まる。
(まあ、そうなるよな…喋り過ぎだよ)
教室の視線が、一斉にこっちに集まる。
「三田、野村、何の話してるんだ?」
「えっと…」
言葉に詰まる。
「……」
一瞬の沈黙。
その時、
「恋バナです」
野村さんが、さらっと言った。
「は?」
思わず声が出る。
クラスがざわつく。
「ほーう」
先生がニヤッとする。
「授業中に恋バナとは余裕だな〜?」
クラスのあちこちからクスクス笑い。
(地獄かここは)
「まあいい、次から気をつけろよ」
(許された!?)
「はーい」
「……はい」
なんとか収まった。
ふぅ、と息を吐く。
「……」
横を見る。
野村さんがニヤニヤしている。
「なに…」
小声で聞くと、
「いや〜三田君、恋バナしてたもんね?」
「全部君のせいじゃん」
「ふふっ…」
肩を小突かれる。
「……」
「ほら」
野村さんが顎で机を指す。
「返信しなくて良いの?」
「……」
恐る恐る視線を落とす。
画面に表示された通知。
滝川:三田さん三田さん三田さん
無視はやーーーです!!!!!
ホントにやーーーですーーー!!!!
「うわ…」
ヤバい、話に夢中で全然見てなかった。
初めに野村さんに見せたメッセージは
滝川:さっきはいっぱいくっ付けて、滝川、幸せでした〜♡
滝川:放課後はもっと距離を縮めたいです〜
滝川:楽しみです〜待ちきれません〜
こんなのだ。
コレを見たら誰だってドン引きするだろう。
兎にも角にも返信しない事にはまたしつこいだろう。
「授業中だからそんなに構えない、放課後まで我慢して」
と送信したが即、
滝川:やーーですーー!!!!!
「……」
(もうこの子、バカなんじゃないの)
まるで保育園児じゃないか。
昼休みに朱凛ちゃんが言ってた
『私この子とは保育園からの仲だけど、マジでこの子昔からこんな感じだったよ、脳みそ何も成長してねえ』
が現実を帯びてきた。
マジで昨日出会った人とは思えない、もう、一秒一秒が濃すぎる。
隣でノートを取りながら野村さんが肩を震わせている。
「ねえ…まさか僕の事を笑っているのかい…?」
「くっ…メチャクチャ深刻そうな顔してるから…ついつい…」
「……」
「付き合っちゃえば良いのに」
「えっ」
「もう、そういう事じゃん、重く考え過ぎずにさ」
「……ダメでしょ」
「なんで?」
「なんでってそりゃ…」
期間があまりにも短すぎるのと、お互いの人となりを完全に理解し合っていないのと…。
「どうなろうが経験しないよりはしといた方が良いと思うけどなぁ」
「じゃあ君の恋も成就しているの?」
瞬間、野村さんはガクンと項垂れた。
この反応は…。
「…してないんだ?なんで?」
「私のは状況が違うじゃん…」
「いや、知らないけど」
「…私は…まだ相手に女としてみられてないから…」
野村さんは授業中なのを差し引いてもかなり弱気な声色でそう、呟いた。
そして左手首の数珠を指でなぞる。
「これ…私の誕生日に彼から貰ったんだけど…」
「へぇー、綺麗な数珠だね」
「数珠って、彼と同じ事言うね…ブレスレットって言って欲しいんだけど…彼は私の事を軍師って呼ぶんだ」
(軍師…?)
「なんで?野村さんって諸葛亮なの?」
「違うけどさ、まあ、そう呼ばれている時点で恋愛対象じゃないんだなって、そもそも彼が恋愛に無頓着というか…」
勿体無いな、野村さんほどの上玉がいながら。
コレは怒られそうだから胸に留めておこう。
「こっちはガンガン攻めてるつもりでもなんか上手く噛み合わないんだよなぁ〜やっぱ私に興味ないのかな」
独り言のように呟いて、また続ける。
「三田君みたいにさ」
ふと、こっちを見る。
「向こうからガンガン来てくれる状況って、普通にレアだよ?」
「……」
「羨ましいとまでは言わないけど」
少しだけ笑う。
「好機ではあるよね」
「……」
好機、か。
「でも」
野村さんは肩をすくめる。
「その分、難易度も高そうだけど」
「…それは、分かる」
あのテンション、あの距離感、あの重さ。
普通じゃない。
「まあでもさ」
少しだけ真面目な目になる。
「私みたいに何も起きないまま終わるよりは…ぐちゃぐちゃでも、何か起きる方がマシって考え方もあるよ」
「……」
それは、
さっきまでの軽い会話とは違う、
少しだけ重たい本音だろう。
「……」
(そんな事僕に言われても…)
と思う反面、気の毒だとは思った。
何も起きないまま終わる、
何も起きないまま、終わる…?
「え?でも野村さん誕プレされてるし…確実に何かは起こってるじゃん?」
「…まあ…」
「フラれたの…?」
「まだ告白もしてない…」
「はあ?」
なんだこの人。
野村さんは小声で噛みつく。
「タイミングとかあるの!こっちだって!」
「タイミングって…誕プレもらってるのに?」
「それが逆に難しいんだってば!距離は近いのにさ…全然そういう空気にならないの」
「…それはあなたのアプローチ次第では…」
「うるさいっ!」
なんだよ、逆ギレじゃん。
「友達以上ではあると思うけど、恋人未満っていうか…」
「一番めんどくさいやつだね」
「やかましい!!」
バシッ、とまた軽く叩かれる。
(この人ほんとよく叩くな…)
「…でもさ」
少しだけ声が落ちる。
「怖いんだよね」
「え」
「関係変えて、全部壊れるの」
「……」
「今は今で彼のそばに居れるのなら、このままでいいかなって思っちゃう時もある」
「……」
「相手はそんなつもりないのに恋愛的に見てるのは私だけだと思っちゃう」
その言葉に、
「……あー」
思わず声が漏れる。
「なに?」
「いや…」
少しだけ、視線を逸らす。
「その気持ち、ちょっとだけ分かるかも」
「…?滝川さんの場合はガチじゃん?」
ガチか。
それは全部本人次第だと思うけど。
「そうとも限らないよ…?
時に野村さん、犬猫は好きかい?」
「好きだけど…」
「それと同じだったら?僕を犬や猫のように思っているとしたら?
「ペットだって家族だし…」
「でもそこに恋愛感情はないでしょ?」
「……」
コレは、論破出来た流れだろうか?
「いや、やっぱりさ」
「!?」
ダメだったっぽい。
「滝川さんはマジだよ」
「根拠は?」
「ある、あるけどそれは三田君が確かめたらいいと思う…少なくとも異性としては見られてるでしょ」
「そうかなぁ…?」
野村さんが比較的マトモな思考の持ち主だという事が先ほどから垣間見えて、それと比較すると滝川さんはもはや残念とすら思ってしまう。
可愛いし、全く嫌ではないんだけど。




