男女平等
「やっぱりついてくるんだね」
「暇」
「ああ、うん……」
挨拶用のタオルを持ち、205号室の前に立つ丘夏の横には当然のように乙女がいたがそれについてはもう諦める事にした。
まぁ、そばにお供がいれば緊張もしなくなるので有難いといえば有難い。
「それで仁井田とゆあん……だったっけ? その人達について合体以外、何か語るべき事はないの?」
「うーん……可愛らしい、とか」
「ふむふむ」
「あとはたくましい、とか」
「ほーほー」
「……子供っぽいとかもあるかも」
「なるほどなるほど」
乙女の言葉をまとめるなら……可愛らしくて、たくましくて、子供っぽい、それでいて合体もする人物、と……。
「全くもって人物像が掴めない……っ!」
そもそも『合体』というワード自体が人間に相応しくないというのに、どうして可愛らしさとたくましさの両方を兼ね備えた上、子供っぽさまで身に付けているのだろうか。サイボーグ化したロリアマゾネスならば納得しない事はないが、果たしてサイボーグ化したロリアマゾネスがこの世に存在するかと聞かれれば否だろう。漫画や小説でも現れる事はないと断言出来るほどだ。
「大丈夫。よほど怒らせなければ初対面で殴られたりはしない」
「何が大丈夫なのさ⁉︎ というかそれって初対面じゃなければ殴ってくるって事なの⁉︎」
「女は殴らないと言っていた」
「男は⁉︎」
「男なら手加減はしない、と」
「露骨過ぎる男女差別!」
どうしようか。すぐにここから引き返したくなった。
が、隣人に挨拶しないというのはあまりに失礼極まりない気がする。
ここは思い切って腹をくくろう。そして殴られない事を心から祈ろう。
よし、と意を決して丘夏はチャイムを鳴らす。
ピンポーン、と高い音が鳴り、しばらくして……。
「……あれ?」
……何も起きない。ドアから誰か出てこようとする気配がなかったのだった。
「もしかしてお出かけ中なのかな?」
「そうかもしれない。休日に仁井田とゆあんはよく出かける」
「なら仕方ないね。挨拶はまた今度に……」
「そこの見かけない奴。ゆあんの部屋に何か用かー?」
背後からかかる、甲高くどこか間の抜けたような声。
反射的に丘夏は振り向いた。
目の前に現れたのは壁だった。
いや、違う。これは壁ではない。
壁と錯覚する程の厚い、厚い胸板。
つまりそこには人が立っているわけで……。
丘夏がうんと見上げると、そこには甲高い声に全く似合わぬ中年男性の顔が見えた。
中年男性は近く寄っただけで子供がちびりそうな武人的オーラを発しながらこちらを睨みつけている。
あ、死んだ。
自分でも驚くほど軽く丘夏はそう思った。




