使い回されるネタ
「このアパートに住んでるのって全部で何人くらいなの?」
「十二人。丘夏を含めれば、十三人」
おいしそうにプリンを頬張りながら、乙女が答える。
「え? でも部屋は十しか……ああ、そういう事か」
下野荘の部屋は全部で十部屋だが、二人入居可能のアパートだ。
丘夏のように一人で入居する人もいれば二人で入居する人達もいるというわけだ。
にしても十二人か……各部屋に挨拶に行くだけにしてもあと八回挨拶をしなければならないという事か。いや、近所の人というなら、この部屋の付近に住む人だけでいいのだろうか? 全員に挨拶しに行っていたら大変だろうし……。
とりあえず、それは付近に住む人達に挨拶してから決める事にしよう。
「乙女ちゃん。この部屋のとなりに住んでる人って誰なの?」
「……どっち? 203号室? 205号室?」
「じゃあ、203室から」
「それなら、私」
「え? この部屋の隣って乙女ちゃんが住んでるの?」
こくり、と首肯する乙女。
丘夏は隣の住民と既に親交を深めていたというわけか。偶然とはあるものだ……。
「それなら205室は誰が住んでるの?」
「仁井田とゆあん」
「あ、二人で住んでるんだ。どんな人達なの?」
「……合体してる」
「待つんだ乙女ちゃん。それは人間に使う言葉じゃない」
隣の人達は変形ロボットか何かなのだろうか。
この時点で丘夏はその仁井田とゆあんなる人物の元に挨拶に行くのが躊躇われてきた。
「じゃ、じゃあ、202号室は誰がいるの?」
「岡本。一人」
「一言で言えば?」
「へんじがない」
「しかばね!? ただのしかばねなの!?」
「違う、ただの引きこもり。親の脛をかじってだらだらしてる」
「尚更質が悪いよね!?」
付近に住んでる人がまさかの引きこもりのニートだ。
これは挨拶どころの話じゃないだろう。そもそも顔を見る事は出来るのだろうか……。
「最後! 201室は?」
「露出きょ……小塙」
「今、見逃せない言葉があったよ!? もう既にアウトな感じだよ!?」
「一言で言うなら……露出狂」
「分かってたよ畜生ッ!」
「……丘夏? どうして体育座りでざめざめと泣いてるの?」
このアパートにロクなのがいない……っ!
ナイフを携帯する大家、唐突に人の性別を聞いてくる女の子ときて、更にロボとニートと露出狂だ。
まともな人が丘夏だけなんじゃないかという事実に打ちのめされそうになったが、こんな事では挫けてはいけない。何を言うが泣こうが、丘夏はこのしもつけそうで三年間過ごさなければならないのだから。
「……もしかして生理?」
「乙女ちゃん。何度も言うようだけど僕は男だからね?」
本当、ロクな人がいないなと思った。




