↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】白い結婚を宣言された政略結婚の初夜、夫婦になるまで出られない部屋に閉じ込められました  作者: 木風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/7

第六話 俺がフィーネを望んだ」

 その日から、社交界で妙な噂を耳にするようになった。

 王太子夫妻が寝室を共にしたのは、初夜の間から出るためだけ。


 アルベリクが愛しているのはロゼリンドで、フィーネとの離縁を今も望んでいる。

 異国の王女が、誓約魔法を利用して王太子を寝台へ引きずり込んだ。

 夜会ではフィーネの衣装が故国風で野暮だと笑われ、茶会ではロゼリンドと親しい令嬢たちから、聞こえよがしに同情された。


「愛されない妻というのも、おつらいでしょうね」

「王太子妃殿下でしたら、お立場だけでも満足なさるべきでは?」


 フィーネは笑顔で受け流した。

 しかし、平気なわけではない。

 アルベリクが植えさせた青い花を見るたび、期待が生まれる。

 その直後に、彼がかつてロゼリンドを本命と呼んだ声を思い出す。




 ある日、フィーネのもとへ一通の手紙が届いた。


『今夜の夜会には出席しなくてよい。体調不良として部屋で休め』


 差出人はアルベリクとなっている。

 けれど、彼はフィーネへ命令するときでさえ、理由を伝える。説明もなく部屋へ閉じ込めようとする書き方には、違和感があった。

 フィーネは手紙を持って執務室へ向かった。


「この手紙をお書きになりましたか」

「書いていない。封蝋も、王太子家のものを似せただけだ」

「やはり、そうでしたか」

「誰が持ってきた」

「今朝から姿を見せない侍女です。半月ほど前に、別の部署から移ってまいりました」


 アルベリクは侍従長を呼び、手紙を渡した。


「すぐに調べろ。ほかにも同じ封蝋を使った手紙がないか確認しろ」

「かしこまりました」


 侍従長が出ていくと、アルベリクはフィーネの前へ立った。


「なぜ、今まで黙っていた」

「何をでしょう」

「衣装を笑われたことも、根も葉もない噂を流されていることも、俺の耳へ入っている」

「殿下がお忙しいことは承知しております」

「だからといって、お前が一人で耐える理由にはならない」


 肩へ伸びてきた手が、また途中で止まる。

 フィーネはその手を見つめた。


「殿下は、いつもそこで止めてしまわれますね」

「……何?」

「初夜のあと、一度もわたくしに触れてくださいません」


 言ってから、頬が燃えるように熱くなった。

 アルベリクは目を見開き、ゆっくり手を下ろした。


「触れてほしいのか」

「そのような質問へ答えられるほど、厚顔ではございません」

「フィーネ」

「今夜の夜会には出席いたします。偽の手紙を送った方の望みどおり、部屋へ閉じこもるつもりはございません」


 逃げるように踵を返す。

 扉へ手をかけたところで、背後から声が届いた。


「触れれば、もう止まれない」


 フィーネの指先が固まった。


「あの夜は、部屋から出るためだという名目があった。次にお前へ触れるときは、俺自身の望みを伝えてからにしたい」


 振り返る勇気はなかった。

 フィーネは熱くなった頬を隠したまま、執務室を出た。




 その夜の夜会で、アルベリクはフィーネの手を取り、広間の中央へ進んだ。

 楽団が緩やかな曲を奏で始める。

 アルベリクの手が腰へ添えられた瞬間、昼間の言葉がよみがえった。


 触れれば、もう止まれない。

 フィーネの足がわずかに乱れる。


「どうした」

「何でもございません」

「顔が赤い」

「殿下のせいです」


 アルベリクは意味に気づいたのか、視線を泳がせた。


 曲が終わり、二人が礼を交わす。

 そのとき、貴族たちの間を押し分けるように、一人の令嬢が進み出た。

 淡い金髪に、深紅のドレス。

 フィーネは肖像画でしか見たことがなかったが、すぐにロゼリンドだと分かった。


「殿下!」


 広間中の視線が集まる。

 ロゼリンドは頬を紅潮させ、フィーネをにらみつけた。


「どうして、その女と踊っていらっしゃるのですか」

「フィーネは俺の妻だ。妻と踊ることに、君の許可が必要なのか」

「妻だなんて……形だけでしょう?」


 ざわめきが広がる。

 ロゼリンドは鞄から手紙を取り出し、高く掲げた。


「殿下は、わたくしに約束してくださいました。この結婚は両国のために受け入れるだけだと。王女とは白い結婚を貫き、すぐに離縁すると!」


 フィーネの指先から、血の気が引いていく。


 すべて事実だ。

 ロゼリンドが持つ手紙には、アルベリクの署名もあるのだろう。


「仰っていたではありませんか。隣国から押しつけられた結婚など、うんざりだと!」

「……ああ。うんざりしている」


 アルベリクの声が、広間へ静かに響いた。

 ロゼリンドの顔に、勝ち誇った笑みが広がる。


「ほら、ご覧なさい!」

「妻を知ろうともせず、君に期待を持たせた、あの日の自分にな」


 ロゼリンドの笑みが凍りついた。

 アルベリクはフィーネの手を取り、指を絡めた。


「君に期待を持たせた責任は、俺にある。婚礼の翌日、約束を取り消すと伝えたときにも謝罪した」

「わたくしは認めておりません!」

「君の許可を求めたのではない。俺にはもう、君を待たせる意志がないと告げた」

「その女が、初夜の間で殿下を誘惑したからでしょう!」

「違う。あの部屋の魔法は、互いに望まなければ解けない」


 夜会の広間が静まり返る。

 アルベリクは一瞬だけ目を閉じ、覚悟を決めたように続けた。


「俺がフィーネを望んだ」

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/28スターツ出版文庫から発売します
▶ 無華の花嫁
〜蔵に囚われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される〜
和風恋愛/大正ロマン/シンデレラストーリー/華族/無華の少女/黒薔薇の殿下/溺愛/異能
本作品の文章・タイトル・設定等の無断転載、無断複製、生成AIへの入力および学習利用を禁じます。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。