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【完結】白い結婚を宣言された政略結婚の初夜、夫婦になるまで出られない部屋に閉じ込められました  作者: 木風


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第五話 後悔していらっしゃいますか

 翌朝、フィーネはアルベリクの腕の中で目を覚ました。

 厚いカーテンの隙間から、淡い朝日が差し込んでいる。

 背中に回された腕は重く、素肌に触れる体温は心地よい。昨夜の記憶が戻るにつれ、頬が熱を持った。

 身じろぎすると、アルベリクが目を開ける。


「……おはよう」

「おはようございます、殿下」


 間近で視線が重なる。

 何を話せばよいのか分からない。

 沈黙に耐えきれず、フィーネが口を開きかけたときだった。

 扉の向こうから、侍従長の声が届いた。


「殿下、妃殿下。お目覚めでございますか」


 アルベリクが素早く起き上がり、寝台のカーテンを閉じる。


「待て。まだ入るな」

「扉の魔法が解けていることを確認いたしました。誠におめでとうございます」

「お前は、どうやって確認した」

「廊下側の魔法陣が消えておりますので」

「つまり、昨夜から分かっていたのか」

「はい。無事に初夜の儀が成されたと、国王陛下にもご報告いたしました」


 フィーネは毛布を頭まで引き上げた。

 アルベリクが額を押さえる。


「この扉を作った者の墓を調べておけ」

「何をなさるおつもりで?」

「俺にも分からん!」


 足音が慌ただしく遠ざかる。

 毛布の中で笑いを堪えていると、アルベリクが振り返った。


「笑っているな」

「いいえ」

「肩が震えている」

「殿下が、ご先祖様のお墓へ何をなさるのか気になりまして」

「何もしない。お前は余計な心配をするな」

「白い結婚はどうなさいますか」


 アルベリクの動きが止まった。


「……今夜だけ例外とする」

「一度でも初夜を迎えれば、白い結婚とは呼べないのでは?」

「知っている」

「開始から半日も持ちませんでしたね」

「分かっているから、これ以上言うな」


 アルベリクは寝台の端へ座り、深々と息を吐いた。


「婚姻が結ばれていないと偽って、離縁を求めるつもりはない」

「誰にも話さなければ、分からないのでは?」

「父上には、すでに知られているようだが」

「そうでしたね」

「それ以前に、俺たちには分かる」


 その答えに、胸の奥が静かに熱を持った。


「わたくしも、偽りの証言をするつもりはございません」

「ならば、すぐに離縁することは難しくなる」

「もともと両国のための結婚です。しばらくは、夫婦として協力いたしましょう」

「……ああ」


 アルベリクはフィーネの手を取った。


「今日、ロゼリンドにすべて話す」

「殿下」

「彼女に期待を持たせた責任は俺にある。だが、何もなかったことにして待たせ続けることはできない」

「後悔していらっしゃいますか」

「……していない。それが、いちばん厄介だ」


 指先を握る手に力がこもる。

 扉の外では、事情を知っている侍従長が、侍女たちへ朝食の指示を出している。

 アルベリクはようやくフィーネの手を放した。

 けれど、その温度はいつまでも指先に残っていた。




 それから一月が過ぎた。

 アルベリクは約束どおり、ロゼリンドへ今後の望みを持たせることはできないと告げた。

 その日の夕食で、彼はフィーネへすべて話した。


「彼女は納得なさらなかったでしょう」

「ああ。俺が約束を違えたことは事実だ。恨まれても仕方がない」

「初夜の間についても、お話しになったのですか」

「詳しく話す必要があると思うか?」

「いいえ」

「婚姻を解消するつもりはなくなったことだけ伝えた」

「わたくしの存在を理由になさったのでしょうか」

「していない。婚姻前に軽率な約束をしたことも、お前を望んだことも、俺の選択だと伝えた」


 アルベリクはそこで言葉を切り、フィーネをまっすぐに見た。


「お前が責任を負うことではない」


 その後、ロゼリンドが王宮へ姿を見せることはなくなった。


 少なくとも、しばらくの間は。

 フィーネとアルベリクは、表向きだけではなく、実際にも穏やかな夫婦として暮らし始めた。

 朝食はなるべく共に取り、夕食後には互いの一日を話す。

 アルベリクは多忙だったが、フィーネとの約束を破ることはほとんどなかった。帰りが遅くなる日は、必ず侍従を通じて知らせてくる。


 それでも、初夜以来、アルベリクがフィーネへ触れることはなかった。


 廊下を並んで歩くときも、食卓を囲むときも、二人の間にはわずかな距離がある。

 フィーネも、自分からその距離を越えることができない。

 初夜の間では、扉を開けるという名目があった。

 今はもう、何もない。




 数日後、フィーネが庭園を歩いていると、見慣れた青い花が目に入った。


「リュネの花……?」


 故国では珍しくないが、この国の温暖な気候では育てにくい花だ。

 花壇の前へしゃがみ込むと、庭師が誇らしげに胸を張った。


「王太子殿下から、妃殿下がお好きだと伺いました。北側の日陰へ植えれば、こちらの国でも花を咲かせられるのではないかと」

「殿下が?」

「はい。苗を取り寄せるよう、直々にご命令をいただきました」


 背後で、靴音が止まった。

 振り返ると、アルベリクが気まずそうな顔をして立っている。


「余計なことまで話さなくていい」

「申し訳ございません、殿下」


 庭師は笑いを堪えながら、その場を離れていった。

 フィーネは青い花へ指先で触れる。

 小さな花弁は、故国で見たものと同じだった。


「外交上の配慮でしょうか」

「……そういうことにしておいてくれ」

「わたくしが喜ぶと思って、植えてくださったのでは?」

「分かっているなら聞くな」


 アルベリクの耳が赤い。

 フィーネはこみ上げる笑みを隠さず、立ち上がった。


「ありがとうございます。とても嬉しいです」


 アルベリクが手を伸ばし、風に乱れたフィーネの髪へ触れる。

 ところが指先が髪をすくう前に、その手は下ろされてしまった。

 離れていく手を追いかけたくなり、フィーネは扇を強く握った。


 この人が好きなのだ。

 ようやく認めた気持ちは、胸へ収まりきらないほど大きく育っていた。

 けれど、アルベリクがフィーネを大切にすることと、ロゼリンドを愛していることは、両立するのかもしれない。

 妻として尊重されているだけなら、それ以上を望んではいけない。


 フィーネは青い花へ視線を落とした。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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『無華の花嫁』書影公開
無華の花嫁
~華の加護なき無能な少女は、黒薔薇の殿下に愛される~
和風シンデレラ/異能恋愛/黒薔薇の殿下/虐げられ令嬢/救済&溺愛
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