↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】白い結婚を宣言された政略結婚の初夜、夫婦になるまで出られない部屋に閉じ込められました  作者: 木風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/7

第四話 もう一度、言葉にしてください

 二人の間に、思いがけず笑い声が落ちた。

 それから、互いの国の話をした。


 フィーネの故国では冬になると城の屋根まで雪に埋もれること。幼い頃のアルベリクが剣術の稽古から逃げ、厩舎へ隠れていたこと。フィーネが三つの国の言葉を話せること。アルベリクが甘い菓子を好むくせに、誰にも知られないよう厨房から取り寄せていること。


 気づけば、暖炉の薪は半分ほど燃え尽きていた。


「そろそろ休むか」


 アルベリクが長椅子へ向かおうとする。

 壁際に置かれている長椅子は、成人男性が横になるには明らかに短い。背の高いアルベリクでは、膝から下がはみ出すだろう。


「殿下も寝台をお使いください」

「しかし」

「こちらは十分に広いです。今さら、隣で眠った程度では驚きません」

「俺は驚く」

「先ほどは、あれほど熱心に口づけなさったのに?」

「フィーネ」

「試験でしたね。失礼いたしました」


 アルベリクは額に手を当てた。


「お前は、どこでそのような性格を身につけた」

「この国へ着くまでは、もう少しおとなしい王女だったはずなのですが」

「俺とこの部屋のせいか」

「どちらも同じ王家の問題です」

「……長椅子で寝る」

「お好きになさってください」


 フィーネは先に寝台へ入り、アルベリクへ背を向けた。

 しばらく衣擦れの音がしていたが、やがてアルベリクも寝台の反対側へ横になった。


「長椅子では?」

「壁を壊す前に、身体を壊したくない」

「賢明なご判断です」


 天蓋の向こうで、蝋燭の炎が揺れている。

 二人の間には、大人がもう一人眠れそうなほどの距離があった。


 それでも、眠気は訪れない。

 先ほど重ねた唇の感触が、まだ残っている。


「フィーネ」

「はい」

「眠れないのか」

「殿下も起きていらしたのですね」

「ああ」


 寝返りを打つ衣擦れの音がした。

 フィーネも横を向く。

 薄闇の中で、アルベリクと向かい合った。


「先ほどの質問だが」

「どの質問でしょう」

「扉を開けるために、どこまで必要なのか」

「はい」

「答えは、分かっているのだろう」


 フィーネは目を伏せた。


「おそらくは」

「俺もだ」


 アルベリクの手が伸び、頬へかかった髪をすくう。

 指先が肌へ触れる寸前で、その手は止まった。


「このまま朝まで待つ。お前が気にする必要はない」

「本当に壁を壊すおつもりですか」

「扉と壁が駄目なら、天井でも床でも壊す」

「王宮が大変なことになりそうですね」

「修繕費なら俺が払う」

「王太子殿下のお金は、国のお金では?」

「個人資産から出す」

「よほど抱きたくない妻なのですね」


 アルベリクの顔が強張った。


「違う」

「では、なぜ」

「お前を扉の鍵にしたくないからだ」


 低い声が、胸の奥まで届いた。


「もし俺がお前に触れるなら、この部屋に命じられたからではなく、俺自身が望んだときでなければならない。お前にも同じ気持ちがなければ、何もしない」


 フィーネは頬に触れる寸前で止まった手へ、自分の手を重ねた。


「殿下。わたくしは今、壁を壊すよりも簡単だから、殿下を選ぼうとしているのではございません」

「フィーネ?」

「先ほど口づけをしたとき、扉が開かなかったことを、少し嬉しく思いました」


 アルベリクの瞳が揺れる。


「もう一度、殿下に触れていただく理由ができたからです」

「それは……」

「ですから、わたくしも選びます。壁ではなく、殿下を」


 アルベリクの呼吸が止まった。


「後悔しないか」

「殿下こそ、ロゼリンド様がおられるのでしょう」

「明日、俺から話す。彼女を待たせると約束しながら、別の女性を望むような男に、彼女を迎える資格はない」

「わたくしのために、ロゼリンド様を捨てないでください」

「これは俺自身の責任だ。お前を言い訳にはしない」

「では、もう一度、言葉にしてください」

「何を」

「扉を開けるためではなく、今、わたくしに触れたいと」


アルベリクの手が、今度こそフィーネの頬へ触れた。


「今、俺がお前に触れたい」

「……わたくしもです」


胸の奥で、鼓動が大きく跳ねる。

次の瞬間、唇が重なった。

最初は確かめるような口づけだった。

けれど、フィーネがアルベリクの胸元をつかむと、背中へ回された腕に力がこもる。

身体が引き寄せられ、薄い夜着越しに互いの熱が伝わった。吐息が混じり、葡萄酒の甘い香りが鼻を抜ける。


「フィーネ。まだ、戻れる」

「戻りたいと申し上げた覚えはございません」

「……本当に、容赦がないな」


低い声に笑いが混じる。

アルベリクはフィーネの額へ唇を寄せ、それからもう一度、深く口づけた。


石板に刻まれた文言を、二人とも忘れたわけではない。

けれど、その夜に交わしたものは、扉を開けるための代償ではなかった。

二人は互いを望み、夫婦として最初の夜を迎えた。


やがて静まり返った室内に、かちり、と小さな音が響いた。

フィーネとアルベリクは、寝台の中で顔を見合わせる。


「……開きましたね」

「ああ」

「本当に、あれを確認するためだけの部屋だったのですね」

「頼むから、今は何も言わないでくれ」

「ご先祖様は、よほど王家の後継者が心配だったのでしょうか」

「フィーネ」

「はい」

「今すぐもう一度、口を塞いでもいいか」

「扉はもう開いていますよ」

「分かっている」


アルベリクの腕が、フィーネの腰へ回る。

今度の口づけには、扉を開けるという口実すら必要なかった。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/28スターツ出版文庫から発売します
▶ 無華の花嫁
〜蔵に囚われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される〜
和風恋愛/大正ロマン/シンデレラストーリー/華族/無華の少女/黒薔薇の殿下/溺愛/異能
本作品の文章・タイトル・設定等の無断転載、無断複製、生成AIへの入力および学習利用を禁じます。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。