↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】白い結婚を宣言された政略結婚の初夜、夫婦になるまで出られない部屋に閉じ込められました  作者: 木風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/7

第三話 ご先祖様の不始末だからです

 フィーネが両腕を広げる。

 アルベリクはためらったあと、その身体へ腕を回した。


 胸元へ頬が触れる。

 婚礼の間にも何度か並んで立ったが、こうして身体を重ねるのは初めてだった。

 背中へ添えられた腕は思いのほか力強く、白いシャツからは清潔な石鹸と葡萄酒の香りがした。

 胸の奥で、鼓動が速くなる。

 しばらく待ってみたものの、扉は沈黙したままだった。


「……開きませんね」

「ああ」

「もう少し、強く抱き締める必要が?」

「この部屋の判定基準が、抱擁の強さだとは思えない」

「それもそうですね」


 離れようとしたフィーネの背中へ、アルベリクの腕が一瞬強く回る。

 すぐに解かれたが、その温度が夜着越しに残った。


「次は、口づけでしょうか」

「フィーネ」

「はい」

「お前は、この状況を楽しみ始めていないか?」

「まさか。非常に真剣です」

「そうは見えない」

「この国の王家が作った部屋です。殿下からお試しください」

「なぜ俺が試験を受ける側なんだ」

「ご先祖様の不始末だからです」

「……分かった」


 アルベリクは諦めたように息を吐き、フィーネの頬へ手を添えた。


「嫌なら、すぐに言え」

「承知しております」


 唇が触れる。

 最初は、ほんの一瞬で離れるはずだった。

 けれど、目を閉じた途端、頬を包む手の温かさがはっきりと伝わってきた。触れただけの唇が離れると、名残惜しさが胸を締めつける。


 フィーネから、もう一度顔を寄せた。

 アルベリクの瞳が驚いたように揺れる。

 今度の口づけは、先ほどよりも長かった。


 背中へ腕が回り、身体が引き寄せられる。互いの呼吸が混じり、葡萄酒の甘い香りが鼻を抜けた。

 唇が離れたあとも、二人の距離は近いままだ。


「扉を、確認しましょう」

「……ああ」


 アルベリクが取っ手へ手を伸ばす。

 青い光に覆われた扉は、びくともしなかった。


「……駄目ですね」

「ああ」

「今のは、何だったのでしょう」

「試験だ」

「随分と熱心な試験でしたね」

「お前もだろう」


 アルベリクの耳が赤くなっている。

 フィーネも自分の頬が熱を持っているのを自覚し、扇を探した。けれど婚礼衣装と一緒に衝立の向こうへ置いてきてしまったらしい。


「もう一度試しますか」

「口づけだけでは開かないと分かっただろう」

「では、どこまでいたせば開くのでしょう」

「俺に聞くな」

「ご自分の国の部屋ですよ」

「だからといって、実際に試した経験があるはずもない」

「それはそうですね」


 二人の視線が、室内の中央に置かれた寝台へ向かう。


 沈黙が落ちた。

 この先を試すとなれば、冗談では済まない。

 アルベリクにはロゼリンドがいる。

 フィーネもまた、愛されていないと知りながら、扉を開けるためだけに抱かれたいわけではなかった。


「朝まで待つか」


 アルベリクが寝台から目を逸らす。


「朝になれば開くでしょうか」

「開かなければ、外から兵を呼ぶ。扉が壊せないなら、壁を壊す」

「ここは王宮の西棟ですよ」

「ああ」

「この初夜の間も、歴史的な価値があるのでは?」

「お前に強いるくらいなら、壊した方がましだ」


 迷いのない声だった。

 婚礼直前に白い結婚を求めた、身勝手な王太子。

 けれど、今夜の出来事をフィーネの義務として押しつけるつもりはないらしい。


「それに、この部屋の魔法は『互いに望み』と定めている。どちらかが嫌がっていれば、何をしても扉は開かないはずだ」

「随分と細やかなところへ配慮した部屋ですね」

「配慮ができるなら、最初から作らないでほしかったが」

「同感です」


 フィーネは再び暖炉の前へ座った。

 アルベリクも向かい側の椅子へ腰を下ろす。

 しばらく、二人とも何も話さなかった。

 暖炉の火が少しずつ小さくなり、窓の向こうで風が唸る。


「ロゼリンド様は、どのような方なのですか」


 フィーネが尋ねると、アルベリクは杯を持つ手を止めた。


「明るく、誰とでもすぐに打ち解ける。子供の頃、堅苦しい王宮から連れ出してくれたのも彼女だった」

「長いお付き合いなのですね」

「ああ。俺は、彼女と結婚するのだと思っていた」


 アルベリクの声に熱はなかった。

 大切な記憶を語っているはずなのに、その表情はどこか疲れて見える。


「お前には、本当にすまないと思っている」

「でしたら、わたくしを少しは知ろうとなさってください」

「……何?」

「いずれ離縁する相手でも、一度は妻になるのです。何が好きで、何が嫌いで、どのような国で育ったのか。それくらい知ってから別れてくださらなければ、あまりにも寂しいではありませんか」


 アルベリクは言葉を失った。

 フィーネは葡萄酒で唇を湿らせ、暖炉へ目を向けた。


「わたくしは、愛のある結婚を夢見ていたわけではございません。ただ、夫となる方と、互いを尊重できればよいと思っておりました」

「俺は、その機会すら最初から捨てたのだな」

「そうなりますね」

「容赦がない」

「殿下が、怒ってもよいと仰いましたから」


 アルベリクの口元が、わずかに緩んだ。

 初めて見る笑みだった。

 宴の最中に浮かべていた儀礼的な笑顔より、ずっと若く見える。


「では、教えてくれ。お前は何が好きだ」

「故国の庭に咲いていた、青いリュネの花が好きです。飲み物でしたら、蜂蜜を入れた温かいミルクを入れた紅茶。趣味は読書ですが、歴史書ばかり読んでいると侍女に呆れられます」

「何が嫌いだ」

「大切な話を婚礼の直前まで黙っている方でしょうか」

「……それは、当分忘れてもらえそうにないな」

「離縁する日までは申し上げるつもりです」

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/28スターツ出版文庫から発売します
▶ 無華の花嫁
〜蔵に囚われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される〜
和風恋愛/大正ロマン/シンデレラストーリー/華族/無華の少女/黒薔薇の殿下/溺愛/異能
本作品の文章・タイトル・設定等の無断転載、無断複製、生成AIへの入力および学習利用を禁じます。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。