表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/32

第29話

「なあ、キディアス。村長の話だが、どう思った」


 ダンスはキディアスに声をかけた。ダンス、キディアス、パディルの3人は、村の広場で粗末なつくりのベンチに腰を掛けている。暖かい日差しが降り注ぐなか、村で飼われている犬が斜めに広場を横断し、3人に近づいてきた。犬は鼻を鳴らしてそれぞれの匂いを嗅ぐと、ダンスの手をペロリとなめた。ダンスが両耳の後ろをかいてやると、気持ちよさそうに目を細める。

 

「どう、というか……。驚きがあったのは認めよう。だが『壁』のことでは、村長はまだ話していないことがあるはずだ」


 キディアスが応じる。彼女の目線の先では、村の子供たちが泥をこねて遊んでいる。着ている服は泥に汚れ、あとで母親に怒られるのは間違いないだろう。顔についた泥は白く乾きかけている。

 

「やっぱりドルグが言ってたことが正しいのかな。おれの手、いつまでこうなんだろう」


 とつぶやいているのはパディル。左手の掌をしきりとさすったり、指のストレッチをしたりしている。

 

「この村では、誰も『壁』の話なんてしていない。そんなこと気にしてるのはドルグくらいだ」


 ダンスはテーブルの上に両手を組んで置き、視線を遠くに投げた。どこか遠くから牛の鳴き声が聞こえる。

 

「あのう……」


 目を細め、無意識のうちに牛を探していたダンスの後ろから、少女の声がした。振り返ると、十代前半くらいの女の子が、木製のトレイに木をくりぬいたカップを3つ乗せ、こちらに差し出している。栗色の髪が陽光に透けて輝いている。

 

「うちのお母様が、お客様に差し上げろって。井戸から汲みたてなので、冷たくておいしいですよ」


 少女は控えめな笑顔を見せながら、ダンスにカップを手渡した。キディアス、パディルもそれぞれカップを受け取る。

 

「飲み終わったら、そのままそこに置いておいてください。片づけに来ます」


 そういうと少女は一礼し、トレイを小脇に抱えて小走りで去っていった。

 

「いただこう」


 ダンスは二人に頷きかけ、カップに口をつけた。彼女の言葉通りよく冷えた水が、のどを駆け下りていく。

 

――井戸で、よく冷えた……どこかで飲んだな。そうか、マイサの。


 ダンスはカップを両手で握り締め、改めて周囲を見回した。犬は足元であくびをしている。子供たちは泥遊びにあきて、家と家のあいだを走り回っている。牛の声はいつの間にか止んでいた。

 

――あの牧場にも、こんな日々があった。だが。


 ダンスは無意識に背筋を伸ばしていた。歪んでしまった牧場の姿、ディゴのうつろな瞳。ダンスは水を飲み干した。そんなはずはないのに、水に苦い後味が残った気がした。

 

「ダンス」


 キディアスが声を上げた。

 

「すまないが、私にはあまり時間がない。内勤になってしまえば、こうやって『壁』の外に出ることもできなくなる。だから……」


「そうだった、すまないキディアス。わかった、街に戻ろう」


 ダンスは夢から覚めたような気分で立ち上がった。キディアスとパディルもそれに従う。ちょうどそこに、ドルグを追っていったはずのレキサが戻ってきた。

 

「街に戻るのか」


 言葉少なにレキサが聞く。ぶっきらぼうではあるが、警戒心は感じさせない語調だ。

 

「ああ。街でやることがあるんでな」


「街に何があるのか、わえにはわからんが。まあ、またいつでも来るといい。村長も喜ぶだろう」


「改めて、丁重な歓迎に深謝する。再訪の機会があることを願っている」


 そういうと、ダンスはレキサに向かって深々と一礼した。レキサもまた礼を返す。

 

「ところで、ドルグのやつを見なかったか。あいつには厳しく言って聞かせなければならん」


 そうぼやくレキサの顔を見て、ダンスはつい笑ってしまう。

 

「この次、村の外でドルグを見つけたら縛り上げて連れてくるよ。しっかりお説教してやってくれ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ