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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第四部 前人類世界編

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256 やあやあ

 当日、早朝。村の一同は海上都市近くの浜辺に呼び出されていた。


「もう魔法陣が展開されているのね」

「村の方のストーンサークル――召喚装置が使えんから、この海に一時的に結界を張ったんじゃと。結界を媒介に、これからカピモットの坊ちゃん嬢ちゃん達が直接術を掛けて移送するらしいわい」


 ベルだけがいつもの美しいドレスで、他は全員亀掃除の為に汚れても良い服装になっている。今回は小人達も数人、デッキブラシを抱えて待機していた。

 海上には光で線を引いたような広大な魔法陣が展開されており、魔力を解する者にはじわじわと増幅されゆく魔力ならぬ神力の気配が感じられる。


『トルトゥーガのにおいがする! もうすぐ来るよ!』

「おお、分かるかウルズス!」

「ウルズス、鼻栓をしておきなさい」

 

 嗅覚に優れたこぐまがフンフン鼻を鳴らして立ち上がった。ジスカールがポケットから何かを取り出しウルズスの鼻の穴に詰める。


「それ何詰めてんだ?」

「ピーナッツだよ。ウルズスは嗅覚が鋭いから、トルトゥーガと白い世界で一緒に居た時は詰めていたんだ」

「どうしてまたピーナッツを……」

「いや、当時は咄嗟に詰められそうな物がそれしか……」

『これね、ピーナッツのにおいがしていいよ!』


 ウルズスの言葉に一瞬男どもが顔を見合わせる。


「え、僕達も詰める……?」

「え、いや、人間用の鼻栓はメイが用意してくれてなかったですか……?」

「一応用意はしたんだども……ピーナッツのが良いかもしれねえな……?」


 おずおずメイが取り出すのは、木製の洗濯ばさみだった。


「痛そう! 明らかに痛そうなんじゃけど~!?」

「他に無かったのかメイさん!?」

「紙や布を詰めるのも考えたんだどもぉ……! 挟んだ方が完全に臭いを遮断出来るかと思っちまってぇ……!」

「ひ、ひとまず口布もあるしホラッ! 実物を見てから選んだ方が良いと思うわヨ……ッ!?」


 それもそうだと皆で頷いた時、ベルが『来るわよ!』と叫んだ。慌てて視線を戻すと、魔法陣から強烈な光が空へと放射されていた。


「極太の光の柱って感じだね」

「神どん達が言うには、天から地上へじゃなくて、地上から天に接続する形と言っとったなぁ……」

「普段カイ殿が行う空間接続の上級版じゃな。“外”の次元や空間と繋げとるから」

「成る程、それは神でなくば容易には出来ませんね」


 神達の姿は此処からでは見えないが、海上の魔法陣付近で術の最中だ。空へ伸び行く極太の光の柱が“天”に触れたかと思うと、途端に魔法陣の上に巨大な何かが一瞬で現れる。


「瞬間転移よ。幼く見えようが、失態を繰り返そうが! 神という事ね」

「ままま……!」

「あれが亀……か? 島のようだな」


 『繰り返そうが!』の語尾が強かったのでタツが慌てて宥めた。その隣ではケンが不思議そうに現れたものを見ている。一言で表すと、まるで小ぶりの島がひとつ海上の魔法陣に乗せられているように見えた。距離が離れているから全景が見えるが、事前情報の『およそ体長2km、外周5.5km位の大きな亀さんです』を裏切らない大きさだった。


『トルトゥーガだ! トルトゥーガ~! こっちだよ!』

「あっ、風下やべえ。すげえ臭い流れて来る! 腐った沼の臭いだこれ……!」

「あの、ジスカールさんピーナッツ分けて貰っていい……!?」

「あ、ああどうぞ。まだ剥いていないが……!」


 ジスカールが殻に包まれた落花生状態のピーナッツを分けてくれたので、ベル以外いそいそと殻を剥いてピーナッツを鼻に詰めた。ベルだけは涼しい顔をしているが、絶対に何らかの魔法を使っていると思われる。先に鼻栓をしていたウルズスが、はしゃいで波打ち際まで駆けて行き、大きく前脚を振っている。


『やあ……やあ……ウルズス……』

「……! これ亀ちゃんの声かしラッ!?」

『そうだよ~!』


 ウルズスと同じく念話のように、深い鐘のような音色の声が聞こえた。この距離で声が届くのか? と疑問に思った時、タツが神から交信を受けたようで皆を招く。


「念話はこの距離でも届くが、人の声は届かんらしい。皆亀の上に集合しろじゃと」

「お、おお……」


 招かれたので、ケンのオルニットにガンの戦闘機、飛べるカイにベルの箒などを駆使して皆で亀の背中へ渡った。着地した感触は完全に地面で、あまりよろしくない環境の島に踏み入ったような感覚だった。


『みなさん、こちらがおおきなかめさんです! よろしくおねがいしますね!』

『ジスカールさん達と同じく、この世界の事は説明してあります。それと、このままの状態の彼を海に入れる訳には行きませんので、清掃が終わるまではこのまま魔法陣の上に待機となります』

『わたしたちは、てんにもどってけっかいのいじをつづけますので、あとのくわしいことはタツかメイにきいてください!』


 神の声がして、スウッと二神の気配が途絶えた。


「あの子達……! またわたくしに何か言われる前に……ッ!」

「ままま……! 細かい話は儂らに情報が来とる!」

「結界の維持も結構大変だもんで……! まずはトルトゥーガどんに挨拶だぁ!」

「うむ! まずは挨拶からだな!」


 亀の顔がどちらもあるかも分からなかったので、ひとまず足元を見て全員挨拶と自己紹介をした。


『やあ……やあ……小さき者たち……ウルズスとジスカール以外は……はじめまして……』

「数日ぶりだね、トルトゥーガ。此処は素敵な世界だったよ」

『やあ……それは……とても……良かった……わたしは……トルトゥーガ……よろしく……小さき者たち……』

「全員纏めて小さき者呼ばわりされてると気分が良いな!?」


 ガンの気分が良くなった。トルトゥーガの話し方はゆっくりで、これまた神が言っていた通り穏やかで優しげな印象だ。ただ背を島のように土岩や藻が覆い、腹側もびっしりと藻に覆われていて亀ではなく島と話している気分になる。


「……つもる話はあるでしょうけど、早めに“お掃除”をした方が良さそうね」

「ああ、色々弱っとる。先に治療だとか、色々して良いだろか?」


 亀の状態を自己紹介の間も気に掛けていたベルとメイが、確認し終えて皆を見た。


「そんなに悪い状態なのか?」

「ええ、観察した限りでは。土や藻で完全に覆われた状態で、カビが生えたり藻が腐食したりで本体の状態が良く無いわ。人でいえば病気で衰弱した状態よ」

「ふぅむ、優先順は?」

「メイに回復魔法を掛けて貰いつつ、まずは本体の露出。タツの水流が良いと思う。それから栄養剤と食事、並行して人海戦術でお掃除かしらね。きちんとした診察と治療、消毒もするべきだわ」

 

 ベルの提案を受け、ケンが頷いた。


「トルトゥーガさんに異存が無ければそれでいこう。タツさんとメイさんは準備を」

「へぇ!」

「腹側はケン殿の馬に乗せて貰ってやろうかの~!」

「時に流した藻や泥はこの海に捨てる事となるが、環境的に大丈夫か?」

「そうそう、それなんじゃが~!」


 大事な事を忘れとった顔でタツが頷く。


「この魔法陣二重構造になっとって~! 一番下の魔法陣が結界内の“汚れ”を全て、村の“戦場”の方へ送るようになっとる。後で纏めて燃やせば問題無しじゃよ~」

「うむ、でかした!」

「……トルトゥーガ、今から皆で君の身体に付着した色々を取り除き、君の食事と、治療をしたいと言っている。構わないかな?」


 細かな手順全てを理解しきれていないと思い、ジスカールがトルトゥーガに確認する。自分の背中で小さき者達が賑やかにするのを楽しんでいた大亀は、問いに少し驚いたが――考えた後、頷くように微か“島”を揺らした。


『やあ……やあ……有難い事だが……大変な作業だ……すまないね……』

「すまない事なんて無いよ! 僕ら頑張るからね!」

「モイッモイイ~!」

「……大丈夫。彼らはとても親切で仲間思いなんだ。君も仲間だ。すぐに分かるよ」

『やあ……ああ……信じられない……』


 大亀が明らかに戸惑うので、皆がふんと笑って顔を見合わせた。


「ならば! 実力行使で信じさせてやるとしよう!」

「おー!」

「おう!」


 そうして、盛大な亀掃除が始まった。

お読み頂きありがとうございます!

次話は明日アップ予定です!

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