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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第四部 前人類世界編

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252 トルトゥーガ

 今日の食後のデザートはマンゴータルトのアイスクリーム添えだ。

 リョウが配膳、カイが紅茶、ジラフがコーヒーとそれぞれ担当し席を立つ。


「ジスカールちゃん、紅茶とコーヒーどっちにする?」

「コーヒーを頂こうかな。昔から目が無くてね」

「キャア! 腕の見せ所じゃないの……ッ!」


 ジスカールがコーヒー派だったので、ジラフが高まり丁寧に淹れ始めた。どうもドストライクだったらしく、ずっとジラフの表情はこの世の春だ。だが止めなければいけないほどグイグイ行く様子は見られない。最初は警戒してシャツを掴んでいたリョウとカイも、今は安心していた。


「ハイッ、どうぞ! 今日はアナタ達のお迎えだから一番にお出しするわネッ!」

「ありがとう、頂くよ」


 ジラフ渾身の一杯を受け取ったジスカールが、香りを楽しんでから一口。すぐ嬉しそうに相好を崩した。


「芳醇で奥深い味わいだ。こんなに美味いコーヒーは、もう何年も飲んだ事が無い。ジラフ、君は素晴らしいバリスタだね」

「ンアア……! 毎日淹れますアナタの為に淹れますゥ……!」

「こりゃ毎日一番にお出しする勢いじゃわ……!」


 くねるジラフを生ぬるい笑みでタツが眺めた。ベルとメイはジラフに春が来たかと思って大変にこにこしている。


「さて。此方に来るまでの事情は分かったが、今後の暮らし方だな。一月以上は同じ土地に留まれぬのだろう?」

「ああ、詳しく説明しよう」


 コーヒーとタルトとアイスを楽しみながら、ジスカールが頷いた。


「厳密には30日周期で土地を移動しないとならない。土地の定義はおよそ50万平方キロメートルだ」

「ちょっとした国くらいの広さだな?」

「ああ、元々は古代の刑罰らしい。王族へ罰が必要な際に、国外追放と定住の禁止を兼ねてこの秘術が用いられた」

「ただの国外追放じゃ駄目なのか? 妙な罰だなァ」


 ガンが変な顔をする。わざわざ不老不死にしてから追放する意味が分からない。


「当時の文化では王族は神聖なものとされ、処刑は勿論直接傷つける事も許されなかった。だから不老不死で“生命を保証”した上で追い出して体面を保ったんだな。ただし、放浪に疲れた王族が移動を止めて自死する分にはご自由に、だ。これは取繕っただけの、自死を促すまわりくどい処刑なんだよ」


 これまたガンが分からない顔になる。ジスカールが愉快そうにした。

 

「何で自死するんだ? 多少不便だが移動してりゃ生きられるのに……」

「神と崇められ、傅かれて生活していた王族が追放されて生きていくのは難しかったんだ。彼らは水を得る方法すら知らないからね。それに徒歩では移動が間に合わない事もあった。この秘術を使われた者は、記録では全員が寿命を待たずに一月を越え、自死しているよ」

「お、おお……」

「定住の禁止は拠点を持ち再び権力を握る事を防ぐ為だ。また、移動を止める事で死を選べるようにもなっている。中々面白いだろう? こういう話が知りたければまた教えてあげよう」


 知らない世界の歴史は面白かったようで、ガンが目を輝かせて何度も頷いた。


「さて、話を戻そう。一度過ごした土地に戻るにも、30日を経なければならない。この村で30日を過ごしたなら、再び戻れるのは30日後だ。実際には移動時間を含むからもっと少なくなるだろうが」

「例えばこの村で5日を過ごし、移動した場合はどうなる?」

「滞在が30日に満たなければ、村に戻った時点で6日目からカウントされるよ」

「成る程な……」


 大体理解したとケンが頷く。


「そこのカイさんが空間を繋ぐ魔法を扱える。移動ゲートがあれば土地変えに時間は掛からない。最低2箇所の拠点とゲート、30日ごとに往復すれば成立するか?」

「空間を――それは凄いな。維持はそれで成立すると思う。ただ……」


 ジスカールが頷くが、少し申し訳なさそうに笑って頬を掻く。


「我儘を言ってもいいかな?」

「何だ?」

「折角新しい世界に来たんだ。わたしは定住するよりこの世界を調べたい。それに、まだトルトゥーガも来ていないだろう。まだ期間はあるから彼の身の振り方と併せて、わたしも相談して決めたいんだ」

「トルトゥーガ?」


 耳慣れない名前に瞬くと、ああそうかとジスカールが続けた。


「三日後に来る大きな亀の名前だ。移送準備が整うまで彼とは白い世界で一緒に居て、友人になった。ウルズスも懐いている」

「あ、すぐ移送出来ない時って白い世界で待機するんだ!?」

「そうじゃよ~! 儂とジラフ殿とメイ殿も一緒に待機しとった!」

「時間の流れが少し違うみたいで、体感は数時間って感じだったけどネッ」


 体感数時間とはいえ、あんな何も無い世界では談笑するしかないだろう。仲良くなるのも納得だった。


「無論構わん。村への定住を強要する事は無いし、各々が一番幸福になれる手段を取りたい。身の振り方は、そのトルトゥーガが揃ったら改めて相談しよう」

「ありがとう、助かるよ」

「あの、ジスカールさん。トルトゥーガさんってどんな感じなの……?」

「呆れる程大きいよ。汚れが酷いから種類は分からないが、本人が言うには海亀の類だそうだ」


『汚れが酷い』部分に皆が反応した。


「それです! どのように汚れていますか……!?」

「儂ら神から亀掃除を命じられとるんじゃよ……!」

「ああ、成る程……!? 全身藻とカビ、泥と土の塊だよ。臭いも結構凄いから、掃除をするなら口布か鼻栓があった方が良いな」

「うう、呪塊状態のおらを思い出すぅ……!」

「これデッキブラシで足りるかなぁ~!?」


 メイが思わず顔を覆った。リョウは掃除の行く末の心配をした。


「足りないと思う。高圧洗浄機もあった方が良いよ」

「そういう機械はこの世界にゃ無えんだ。タツが水出しゃ良いかァ?」

「デッキブラシ係よりはマシかの~!?」

「後は消毒液と栄養剤と――大量の食糧が必要だな」

「ちょっとあの子達どこに行ったの! 足りない物だらけじゃないのよッ!」


 ベルがブチ切れカピモット神をぎょろぎょろ探し始めたが、慌ててタツが宥める。


「ままま……! お子様ゆえ神様ゆえ~! 亀掃除や生態に詳しい筈も無く~!」

「苔とカビが酷いから、一度消毒して完全に除去した方が良い。後は空腹と汚れのせいで彼は衰弱している。早急に栄養と食事を与えてやりたい所だな」

 

「ンン……! ガンさん、今すぐ神達の所へ行って消毒と栄養剤をもぎ取って来い……! ベル嬢が悪鬼に変わる前に……!」

「分かッた……!」

「消毒はわたくしが用意するからいいわよ! 代わりにとびきりの栄養剤を用意させなさいッッ!」

「分かッた……ッッ……!」

 

 駆け出す背にベルの追撃が刺さる。必死の形相でガンは足を速めた。


「ちなみに食事は何を……?」

「普段は自然の活力エーテルだけで十分なようだが、足りない時は他の生物が食べるような物を食べるらしい。雑食らしいがまあ亀だから――魚や海藻や、地上で用意するなら野菜や果物の類かな?」

「聞いたな皆? 明日からはちょっとトイレどころではない。水車は一時休止し、先にトルトゥーガの食事の用意だ……!」


「はいぃ……!」

「おらは全員分の口布と鼻栓も用意します……っ!」

「残り三日はとんでもなく忙しくなりそうだわネッ……! ジスカールちゃん、今日の内に村の施設や色々を案内するワ……ッ! 食べ終わったら行きましょう!」

「ああ、そうしよう。……皆、ありがとう」


 皆がトルトゥーガの為に、その少し前には自分とウルズスの為に配慮や行動をしてくれて――そんな事は久しぶりだったので、新鮮で嬉しい歓びが胸に広がった。一度噛み締めるように強く目を閉じ、それから笑顔を広げてジスカールも立ち上がる。

お読み頂きありがとうございます!

次話は明日アップ予定です!

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