250 十一人目
新入りらが来るまで残り一週間ほど。一同はきたる重労働の為に準備を進めていた。新トイレの為の水路と水車作り、紙作り。海上都市の方では何本もデッキブラシを作って貰い、村の方では食事や他の日常物資もストックを作った。
そして残り四日の時点で、神から連絡があった。先日伝えた学者兼冒険家の方が予定より早く村に来るのだという。大きい亀の方は海に直接移送する為、出現ポイントが違う事から学者の方を先送りにするという事らしかった。
「あと四日あると思ったら明日来るんだ!?」
「もう柱が立ち始めていますねえ……」
「まあ学者も早めに馴染んでおいた方が、亀掃除を手伝いやすいだろ」
「うむ、学者さんも当然亀掃除の頭数に入れているぞ」
山頂に向けて伸び始めた白い光の柱を見上げ、リョウとカイとガンとケンが頷く。
「ちょッ、予定より早いじゃない! きちんとスキンケアしておきたいのにッ!」
「大丈夫だぁジラフどん! 今日もつやつやぱつぱつの綺麗な肌しとる!」
「仕方ないわね、わたくし秘蔵の美容液をあげるから今夜塗って寝なさい!」
「ジラフ殿は何の準備をしとるんじゃ……?」
ジラフが満足いくお肌の状態ではないらしいが、予定が早まったものは仕方ない。明日の昼頃に到着したら神が案内してきてくれるという事なので、皆楽しみにしながらその日は眠りについた。そして翌日。
* * *
ランチの準備を整え、柱の到着から消失までを確認して皆で待っていると――カピモット神が一人の男を伴い村の入り口からやって来た。
『皆さん、お待たせしました!』
『こちらがあたらしいかたですよ!』
「やあ、初めまして皆さん!」
「キュン……!」
男の低くて豊かな声が聞こえたと同時、ジラフがキュンした。マモ神が『ちてきでたくましい、おひげのすてきなおじさま』と言っていたが、その通りだった。
実年齢は分からないが、カイやケンよりも年上の五十過ぎに見える。背はリョウと同じ位、戦士のような筋肉は付いていないが冒険で鍛えた実用的な体格をしていた。
日焼けした肌に白髪交じりの灰髪、恐らく無精だろうがあご髭と口髭がよく似合っている。身なりは学者というより冒険家らしいラフな物だが、面立や物腰に品が感じられたし、目には知性の光があった。人好きする笑みには年齢以上の若々しさと活力が溢れ、性格も良さそうである。
簡単に言えば『知性とワイルドを兼ね備えたイケオジ』であった。爪先から頭のてっぺんまで男を観察したジラフが、この世の春みたいな表情になる。その左右で、リョウとカイがジラフのシャツの背を強く握り留めていた。
「わたしはシルヴァン・ジスカール。シルヴァンでもジスカールでも、好きな方で呼んで欲しい。そして此方がわたしの相棒の――」
ジスカールがくるりと背を向けた。其処にはまるでぬいぐるみのような“こぐま”がおんぶのように張り付いている。人見知りなのか、チラッと皆を見るがすぐにプイと背に顔を埋めてしまった。
「熊! 子熊ではないか!」
「ファー……! かんわいいなぁ……!」
「規格外の守護獣ってそれか~? こぐまではないか~!」
「はは、今は力を抑えて貰っているからこの姿なんだ。ほら、ウルズス。この人たちは怖くないからね。ご挨拶出来るかい?」
『やだもん! にんげんきらい!』
こぐまも念話のように話せるらしく、子供のような嫌がる声が皆に届いた。
「ふぅむ、人間に嫌な思いでもさせられてきたか? よし、ガンさん出番だぞ!」
「え、何でおれ?」
「小人から毛もじゃ妖精まで誑かすその力! 今こそ発揮するがいい!」
「誑かすッて言うな人聞き悪ィ……!」
ともあれ背を押されたので、渋々ジスカールとこぐまの方へと近付いていく。プイしていたこぐまだが、気配が近付くと警戒するようにガンを見た。
「よう、ええと……ウルズス? おれはガンナーだ。よろしくな」
『…………』
無言だが、じろじろガンを見てからこぐまがジスカールの背から降りる。警戒しながら少しずつ近付いて、すんすん匂いを嗅ぎ始めた。
「おや、初対面でそこまで近付くのは珍しいな?」
『ジスカール、このひと妖精のにおいがするよ』
「あァ、おれは妖精と友達なんだよ」
「成る程、それでか。ウルズスは人間嫌いだが妖精は好きだからね」
怯えさせないようじっとしていると、興味が湧いたのか、ややあり匂いを嗅ぎながらこぐまがガンの足を登り始める。
「の、登った……!」
「流石ガンさん! 毛もじゃたらし……!」
「言い方……ッ!」
『おてて、おててみせて!』
「おお?」
こぐまに請われて手を見せると、掌に金色の四つ葉が淡く浮かんだ。ダンジョンに行った時、妖精達に貰った“友達のしるし”だ。
『ジスカール! おててに妖精のしるしがあるよ!』
「そうかい。じゃあ、仲良くできるね?」
『ううん……やだけど、ガンナーならいいよ……』
「おお、やッた……!」
『だっこ、だっこして!』
こぐまが抱っこをせがむので抱えてやった。ふわふわだ。
「妖精が好きなら、此処には小人が沢山居るんだぜ。後で会うといい」
『やったー!』
何とかこぐまの警戒も和らいだので、改めて神が間に入り皆自己紹介をした。
『世界の仕組みや村の成り立ちなどは、前回の三人のように説明してあります。後は皆さんで仲を深めて下さい』
『おひるごはんのあいだ、ウルズスはこびとたちにあいにいきましょうか! わたしとわがともがおともしますよ!』
『わあ、いく! ジスカール! いってくるね!』
「ああ、気を付けていっておいで」
神達には懐いているようで、こぐまが嬉しそうに案内されてついていく。残った人間達は、昼食を食べながら交流を深める事にした。
「ハァ、とてもあれが規格外の守護獣には見えんのう……!?」
「ウルズスはわたしが名付けた。“強い熊”という意味だよ。今はあんな風だが、完全に力を解き放つと山のように大きく強い」
「山かよ! でっっっっか!」
大きくなると見た目も変わるのかもしれないが、あのこぐまがそのまま山のような大きさになる所が浮かんでしまった。
「その辺りも含めて、もう少し詳しく聞かせて貰おうか。神達から聞いたが、不老不死の期限の問題もあるだろう?」
「ああ勿論。では、食べながら。折角の料理が冷めては勿体ないからね」
今日の昼食はマトンのステーキにフィッシュフライ、魚介のスープにサラダとパン。チーズにフルーツ等が食卓に並んでいる。ジスカールが『こんな御馳走は久しぶりだ』と嬉しそうに早速手を伸ばした。皆も食べながら彼の話を聞く事にする。
「わたしの職業は学者兼冒険家と伝わっているだろうが、専門は歴史と考古学でね。フィールドワークが高じて冒険家と呼ばれるようになったんだ。不老不死のお陰で、海洋や地質学にも手を出している」
「まるで賢者みたい。探求の為に不老不死を得たの?」
「ウィ、マダム」
ベルの問いにジスカールが頷いた。
「調査中の古代遺跡で不老不死の秘法と出会い、ひとつ所に留まれぬという制限は受けたものの喜んで受け入れた。探求には時間が掛かるからね」
「それは同意だわ」
「ウルズスも同じ場所で拾ったのか?」
「いいや、別の遺跡だよ。彼は超古代文明の生物兵器なんだ。現代文明では解き明かせない程に難解で厳重な――何重にわたる封印の奥に隠されていた」
『生物兵器』と聞こえて全員が一瞬ざわつく。
「大丈夫。今の彼は危害さえ加えなければ危険ではないよ」
「ええと、その……難解で厳重で何重の封印を、あなたが解いたのですか?」
現代文明では解き明かせない程というのに、どうやって解いたのだろうとカイが首を傾げる。ジスカールが頷き、ナイフとフォークを置いて両手を掲げた。
「わたしは不老不死以外、君らと比べれば実に平凡な人間だが――ひとつだけ特殊能力を持っていてね。お見せしよう」
言うと、目の前の葡萄酒入りの杯を手に取った。
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