249 訳アリ達
虹色の髪の幼女が階段をとてとて駆け下り、その後を慌てて金髪の少年が追ってきた。マーモットの神とカピバラの神である。
『ごんにちは! みなさんおひさしぶりです!』
『ど、どうも……ご無沙汰しております……』
「おお、直接顔を出すのは久しいな!」
「わたくしの難癖から散々逃げ回っていたのにどういう風の吹き回しッ!」
「そりゃ難癖からは逃げ回るじゃろ……!」
お行儀よく一礼する二神。マモ神の方はにこにこ笑顔だが、カピバラの神の方はやや気まずそうにベルとは目を合わせなかった。
『ええと、ですね……今日は本格的に次に来る方達の詳細や移動計画が確定しましたのでご報告に参りました』
「達! 達って言った!?」
「何よ、詳細が事前に分かるならメイ達の時も情報を寄越せば良かったじゃない!」
「まま、ままま……! ひとまず話を聞こうぞ~!」
ざわつく皆を、一応神の所でバイトをしているタツがやんわりと宥める。ジラフが神達の椅子も用意してやり、ちょこんと二神が腰掛けた。
『ええ、“達”です。今から説明しますのであまり荒ぶらずにお願いします……!』
『メイたちのときにあわてたので、こんかいはあちらのかみにこまかくじじょうをきいたのですよ! はんせいをいかしているのでベルはおこらないでください……!』
「ふん、ひとまず言ってみなさいな」
ベルの圧にカピバラの神がやはり視線を合わせず、説明し始める。
『今回は主に二人です。いえ、一人と一匹と言った方が良いのか……』
『おおきなカメさんです! すごくすごくおおきいのですよ!』
「!?」
「!?」
『主に』も気になるが『おおきなカメさん』に全員が神達を二度見した。慌ててカピバラの神がマーモットの神を制止する。
『我が友、混乱するといけないのでひとまず私が説明しますので、ねっ!』
『はぁい』
「ついに人型以外が……」
「何でもありになッてきたな」
「ままま……!」
ふたたびタツがざわつきを宥め、話を聞く。
『先に、気になるだろう“亀さん”の話をしますね。およそ体長2km、外周5.5km位の大きな亀さんです。小ぶりな島位の大きさです』
「でっっっっか!」
『こちらの亀さんは、亀ではありますが――タツのような神獣です。タツは真の姿は龍でしょう。亀さんの方は人型にはなれませんが、似たように神性の高い方です』
「キャラ被りやめてほしいんじゃけど~!?」
急に宥める側のタツが文句をつける。カピバラの神がやれやれ顔で肩を竦めた。
『キャラは被りません。慈悲深く優しい、深い海のような方ですよ』
「儂が慈悲深くなく優しくない浅い男みたいに……!」
「タツ煩えぞ。なんでその亀がこっち来るんだ?」
今儂遠回しにディスられたのでは顔をするタツを押さえ、ガンが聞いた。カピバラの神が少し考え、それから口を開く。
『細かい事情は既に聞いていますが、本人から直接聞いて欲しいと思います。彼もまた、慈悲深く行動した結果――最後は深い悲しみと共に前の世界に居られなくなった方です。直接語って貰い、聞く方が良いでしょう』
「…………」
その言葉で全員が少し神妙にした。全員様々な事情でこの世界には来ている。前向きな理由の者、神の慈悲で送られた者と様々ではあるが全員決して軽々しい理由ではない。そう思えば確かに人づてよりは直接聞くべきだと思った。
「……分かッた。それで、訳アリは大丈夫なのか? なんか理由があってこっちに来るのが遅れてるんだろ?」
『はい。迎えの見通しが立ちましたので、予告通りのスケジュールで此方に』
『カメさんは、やまのゲートがつかえなかったのですよ!』
頑張って黙っていたマーモットの神が、堪え切れずに白い柱が立つ山頂の方を指差す。それを見て、聞いて、全員が『ああ~』という顔になった。
「それは、まあ、うむ。そうだろうな……?」
「ですね、あんな山の上に大きな亀さんが出て来ても困るでしょうし……?」
『はい、それもありますが彼はどちらかといえば海で暮らすタイプなので……』
『うみのほうでおむかえできるように、じゅんびをととのえるのにじかんがひつようだったのです……!』
「成る程なァ」
そこまで真剣な顔で聞いていたメイが挙手する。
「その、カピ神どん。デッキブラシは何に使うんだ……?」
『あ、それは亀さんを綺麗にして貰う為です』
「!?」
『ごしごしのぴかぴかにしてください!』
「アタシたち亀を磨くってコト!?」
途方も無い仕事に聞こえて全員がざわついた。島サイズの亀なのだ。特に力仕事や野良作業を嫌うベルが物凄い顔をしている。カピ神がまた慌てて口を開いた。
『いやいやいや、ええとですね! メイの呪塊とは違って悪い物では無いのですが、似たような感じで全身に結構色々――なんです……! 大変な仕事とは思いますが、事情を聞けばやる気も出ると思いますので……!』
「単純にもの凄え物理労働……ッ!」
「やる気が出る事を祈ってるわヨ……ッ!」
デッキブラシの謎は解消したが、重労働の確約が同時で全員微妙な顔になった。空気を変えるように、ケンがもうひとつ気になっていた事を聞く。
「ともあれ、亀の方は解った。適宜対処しよう。して、もう一人の方は? 『主に』二人と言っただろう。どういう事だ?」
『はい。もう一人は人間種族で、学者兼冒険家さんだそうです。此方の方も少々訳ありですが、亀さん程ではないのでご安心を。移住の打診が亀さんの方が先でしたので、少しお待たせしてしまいました』
「学者兼冒険家! 何だか新しいねえ!」
「何の学者なのかしら?」
『うふふ! ちてきでたくましい、おひげのすてきなおじさまなのですよ!』
「ちょっとネエッ! アタシ好みの予感がするワ~ッ!?」
「世界を渡る前にお尻狙われるの可哀相過ぎるから一旦座ろう! ジラフさん!」
ジラフがガタッと立ち上がる。慌ててリョウが引っ張り戻す。
「わはは! 素敵な出会いとなると良いなジラフさん! 其方の御仁の訳ありは話せるものなのか?」
『細かい事情は直接聞いて欲しいですが、概要だけは。少し特殊な能力があるだけで、彼自身に突出して強い力はありません。ですが、彼が冒険で巡った遺跡などで入手した“守護獣”が規格外です。その関係で彼は此方の世界に来る事になりました』
「ふむ。守護獣がオプションで数に入る故の『主に』か」
「あ、ああ……僕みたいに守護獣を巡って戦争とか起きちゃったのかな……」
まあそんな感じであるとカピバラの神が頷き、更に続けた。
『で、ですね。呪いというか祝福というか、彼自身にも特殊な“不老不死”の魔法が掛かっていまして』
「不老不死だと……?」
「どう特殊なの?」
不老不死は珍しい。ケンとベルが食いつくと、カピバラの神が微妙な顔をした。
『ずっと同じ場所に留まっていると死にます』
「ん?」
「え?」
『ですから、ずっと同じ場所に留まっていると死にます』
「不老不死では……?」
全員が解せぬ顔になる。
『特殊な不老不死の魔法なのです。一ヶ月以上同じ土地に留まると、効力が失われます。彼は既に人間の寿命を超えて生きていますから、効力を失えば……という』
「あ、ああ……」
「コメントし辛えな……!」
『ですので、彼を村に迎えても定期的に住処を変える必要があります。村以外にも離れた場所に拠点があるでしょうから大丈夫とは思いますが、その辺りまた当人がいらしてから相談して頂ければと……』
「わ、分かった……」
ガンの言う通り何ともコメントし辛い“訳アリ”で、若干微妙な顔でケンが頷いた。そこまで説明すると神達は『お二人とも性格には何ら問題ありませんので、またいらしたら宜しくお願いします』と頭を下げて帰っていった。
「…………」
「………………」
神を見送り暫し、皆無言で顔を見合わせる。
「どうする? 村長……」
「……うむ。ひとまずデッキブラシを大量に用意しておこう……」
忙しくなりそうなので、デッキブラシは勿論、色々出来る事は出来る内にやっておこうという事になった。
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