248 きました!
翌日、早朝。皆にコーヒーを振舞う事になったので、ジラフが少し早起きして準備をしていた。
「コーヒーに合う食事といっても、大体合うからリョウちゃんのメニューでバッチリなのよねェ~!」
時間停止倉庫の中にはよく焼いたベーコンに腸詰、スクランブルエッグ、ベイクドビーンズに人参のサラダ。雑穀パンにチーズにジャムとフルーツ等々。何も付け足さなくても十分な位に朝食が整っている。昨日確認した時点でそのままで良いか――とは思ったものの、折角なので一品だけ加える事にした。
昨日の内に捏ねて寝かせておいた生地を冷蔵庫から取り出し、分割して丸めて転がし形を作る。それをバターを塗った型に入れて布巾を掛けて二次発酵。その間に他のセッティングや珈琲を淹れたりなんだり。発酵が終わると溶き卵を塗ってオーブンへ。ジラフは人生の引き出しが多い。こうした料理もお手の物なのである。
厨房にはパンが焼ける良い匂いが広がり、つられたように皆が起きて来る。
「ジラフさんおはよう!」
「おはよう、ジラフ」
「おはようございます」
「ケンちゃんガンナーちゃんカイちゃんオハヨ! もう食べられるわヨッ!」
にこにことジラフが皆を食卓に招いた。少し遅れてベルとタツも到着し、朝の挨拶を交わす。
「普段はリョウちゃんにお任せしちゃってるけど、こうして朝に用意をして皆を迎えるのも素敵ねェ~!」
「リョウとメイと小人が居なくても、こうしてジラフがやってくれるから安心ね」
「そういや最近厨房小人殿のお給仕が減ったの?」
「子育てに集中して貰いたいから、朝と夜はシフトを外す事が増えたのよ」
そんな事情があったかと言いながら全員席に着く。既にテーブルには朝食が用意されており、最後に丸いパンの乗った籠をジラフが運んできた。
「はい。これだけはアタシの手作り。後はリョウちゃんの作り置きヨ」
「パンだ。何か甘い匂いがする。デザートか?」
「これはブリオッシュといって甘いパンなの。コーヒーに合うから追加しました!」
「へえ~!」
食べた事が無いのでガンがわくわくした顔になる。コーヒーの方も最初の一杯はマグに入れてジラフが全員に配り、残りは二種類のピッチャーがテーブルに置かれた。
「コーヒーの方はガンナーちゃん好みのあっさりした物と、濃い目の二種類を用意してあります。ミルクとお砂糖もあるから、お好きにどうぞ!」
「わあ、頂きます!」
「頂くんじゃよ~!」
皆早速朝食に手を伸ばした。まずはコーヒーを一口。途端にベルとカイとタツが目を丸くする。
「ジラフこれは、本当にこれまでと同じ豆ですか?」
「ええ、そうよ。少し淹れ方に工夫はしたけど」
「同じ豆なの? 風味も香りも段違いよ。急に高級になった感じ」
「儂これ好きかも~!」
さもありなんという顔でケンとガンが頷いている。ジラフも嬉しそうにした。
「ウフッ! 嬉しい! コッチの方は豆を二度煎りして、苦味と酸味を減らしてまろやかに飲みやすくしているの。後はどちらも二度挽きして挽き目を均一にしているから、成分もよく引き出されていると思うわ」
「嗚呼、そのコツや手法、是非とも教わりたいですねえ……!」
紅茶には詳しいカイだが、コーヒーの淹れ方は詳しくない。興味深そうに食いついて、ジラフに色々聞き始めた。その傍ら、ガンがわくわくした顔のままで焼きたてのブリオッシュに手を伸ばす。デザート以外で甘いパンを食べるのは初めてだ。
「……!」
一口食べて目を丸くし、それからコーヒーを飲む。また目を丸くし、またブリオッシュを齧った。そしてまたコーヒーを飲む。
「おいケン、甘いパンとコーヒー合うぜ」
「ほう、相当気に入った顔だな。俺も試してみよう」
皆それぞれ思い思いに飲んだり食べたりして、コーヒー主体の朝食を楽しんだ。最終的に『これはありだ』『リョウに言って今後導入しよう』と話している内に、タイミングよくリョウとメイが戻って来た。
「皆、ただいまー!」
「ただいま戻りましたぁ!」
「おお、リョウさん達! 丁度良いところに!」
「え、なになに? 何か良い匂いする」
「コーヒーかな? おらも朝飯お代わりさせて貰おうかな!」
恐らく二人は朝食は済ませてきているのだろうが、普通にメイが食卓に着いた。
「二人の土産話も聞きたいが、此方も色々話があるのだ! 順番に行くぞ!」
「え、え、なに!? 分かった……!」
ひとまずリョウも席に着く。明らかにメイが見慣れないアクセサリーを着けているので、まずは其処から触れる事にした。
「デートはどうだった。何か村長に報告するような事はあるか?」
「村長にデートの報告システムあんのかこの村」
「いや、いやあ、あのねえ~! 僕ら婚約しましたよ!」
「へ、えへへぇ……しちまいましたぁ……!」
「!?」
「!?」
皆が驚愕する中、メイははにかみリョウは照れ照れしている。
「いやね、最初は普通の贈り物の筈だったんだけど、メイさんの村では花のアクセサリーを贈るのがプロポーズになるっていう風習があったんだよね……!」
「あ、ああ~!?」
「それでついでって訳じゃあないんだけど、折角だから、こう、お互い合意でね……!? 婚約する事になったんです……! 勢いじゃないからね……!」
「成る程な……!?」
異文化トラップからの事故のようなものだと思ったが、双方納得済みでなんとも幸せそうなので“それはそれで良かった”のだと知れる。自然と皆から拍手が零れて、口々にお祝いの言葉が向けられた。
「おめでとう、メイ! 結婚式には素敵なドレスを作りましょうね!」
「うむ、めでたいのう! ちゃんとやる事やっとる! リョウ殿偉いんじゃよ~!」
「ああ、めでたい! 結婚の暁には村を挙げて祝わねばな!」
「わああ、ありがとうありがとう!」
「ありがてぇ! ありがてぇ!」
全員が祝福の言葉を掛け、すっかり幸せムードが漂った所で今度は村の話題へと移る。順番に行こうと思って、ひとまずケンがガンの戦闘糧食の乗った皿をリョウに渡した。
「リョウさん、これは昨日発見されたガンさんの世界の戦闘糧食だ。今後ガンさんの食事に一層励む為にも味見しておくがいい……!」
「え、ええ……!? 存在したの……!? い、頂きます……」
「わ、わあ! おらも、おらも味見していいかな!?」
「いいけど美味くはねえからな」
二人とも興味津々で口に運び、一瞬で悲しい顔になり――だが吐き出す事は食物への冒涜なので時間を掛けて何とか飲み込んだ。そのまま無言でおもむろ、二人揃ってガンを抱き締める。
「これ食った後にいちいちおれを抱き締めるのマジでやめて欲しい……!」
「ガンさん! ガンさぁん! ガンさん……! 絶対幸せにするからねえ……!」
「ガンナーどん! よくこれまで生きて……っ! これから美味いもんずっと食わせてやるからなぁ……!」
「分かッたよ! いいから次いってくれ! ブラシとかコーヒーの話とかあんだろ……!? メイの乳に顔埋まッてんだよ! 駄目だろ!?」
駄目なのだがタツが羨んだ位であんまり駄目じゃない感じで普通に話は進んだ。コーヒーの話は実際味見もさせて貰い、リョウもメイも感動してジラフに教わりつつ今後コーヒーもレギュラードリンクとして食卓に並ぶ事となった。
そして例のデッキブラシの話を伝えると、矢張り意味が分からない顔になる。
「デッキブラシ……何で?」
「それが分からんのだ」
「はぁ、何だろなぁ? 今日のお祈りでまた聞いてみようか、タツどん」
「そうじゃのう……」
『そのひつようは、ありませんよ!』
「!?」
「!?」
「その気配はマーモットの神!」
恐らく集会所のカピモット人形の位置から降臨したのだろう。普通にマーモットの神が二階からとてとて駆け下りて来た。
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次話は明日アップ予定です!




