245 コーヒータイム
サンキャッチャーを複数作ると、ケンとガンは設置する場所を求めて村を彷徨い始めた。今日は休日扱いで、日々の仕事の殆どは小人達の担当なので結構時間がある。
「これ、水晶? 浄化作用あるんだろ? トイレに吊るそうぜ」
「虹のきらめき付きのトイレか! よかろう!」
未だ紙が導入されただけで、改装は手付かずのトイレの方へと向かう――と、ジラフがゲート小屋から出て来るのが見えた。
「お、ジラフ」
「アラ、ガンナーちゃんにケンちゃん! 今日は仲良く二人で遊んでるの?」
「ああ、そうだぞ! そしてこれが俺とガンさんの愛の結晶である!」
「愛の結晶かは知らんけど、二人でサンキャッチャーってのを作ッてたんだ」
ケンが得意げにサンキャッチャーをひとつ摘まんでジラフの前で揺らした。
「まあッ、素敵じゃない!? 共同作業ってコトねッ!」
「そうだ! という事でジラフさんにも俺が作ったのをひとつやろう!」
「アリガトーッ! 部屋に飾るわネッ!」
「ジラフは何処行ッてたんだ?」
海上都市にでも行っていたのだろうか、ジラフが図面を丸めたような紙筒を何本かと、木箱を抱えている。
「海上都市の職人区画よ。先週位に地形や水量を伝えて、水路や水車の図面を起こして貰っていたのだけど、完成したみたいだから預かって来たワ! これでやっと作業に掛かれるわヨ~ッ!」
「おお、今日休みなのに働いてんのか……!?」
「違う違う、コッチのついでに寄ったの!」
コッチ、と示されたのは紙筒ではなく木箱の方だ。覗き込むと、ぱんぱんに何かが詰まった麻袋と幾つか見慣れない道具が入っている。ケンがすんと鼻を鳴らして首を傾げた。
「この匂い、コーヒーか?」
「当たり!」
日々の食事についてくるのはお茶が多い。ベルを始めお茶派が多い事と、カイが茶葉作りにハマっていたので自然とお茶が多くなっていた。とはいえ完全に出ない訳ではない。去年にたっぷりコーヒーの実は収穫してあるし、手が空いた時にリョウやカイが加工もしている。とはいえお茶に比べて飲む頻度は低かった。
「そうよ。実はアタシ、コーヒーが好きでネッ! 休日にこだわって淹れて飲むのがお楽しみってワケ!」
「へえ~!」
「成る程、海上都市の物なら産地も違うだろうしなあ!」
好きならリョウに言えば良いのにとも思ったが、日常的にではなく休日にこだわるのが良いのかもしれない。という所まで考えて、その味に興味が湧いた。
「ジラフさんジラフさん、俺達もご相伴にあずかりたいぞ!」
「厚かましいなおまえ……!」
「ウフッ! 良いわヨ~! 素敵なサンキャッチャーも頂いた事だしネッ」
ジラフが気を悪くした風もなく、女子寮へと招いてくれた。女子寮はトイレの改装が入るかもしれない為、まだ男子避けの結界は張らず出入り出来るようになっている。久しぶりに中に入ると、随分と家具も揃って住みやすそうな感じになっていた。
「おお、テーブルとかソファとか色々増えてんな」
「素敵でしょ。全部メイちゃんが作ったのヨ~!」
ピンク色のペンキで塗られたテーブルや、あまり布を使っただろうパッチワークのクッションやカーテンなど。何とも可愛らしくリビングが整っている。そこに大きな筋肉ふたりと小さな筋肉一人というミスマッチな絵柄になったが、ジラフに促されてソファに座らせて貰った。
「今淹れるから、二人はそこでゆっくりしててネッ」
「ありがとう!」
「何か悪いなァ」
「ウフフ、良いのよ~!」
ジラフが楽しげに、木箱から豆や道具を取り出し準備をしている。
「今日は焙煎済の豆を分けて貰って来たから、すぐ淹れられるしネ」
「コーヒーってどうやって作るんだ?」
「そういえば俺も細かくは知らんな?」
ガンが物珍し気にジラフの手元を見詰めている。
「コーヒーの実は見た事ある? 赤い小さな実なんだけど、皮や果肉じゃなくて中の種というか豆を乾燥させて炒って使うの」
「へえ、種の方を使うのか」
「そうよ。その内もっと時間が出来たら、一から作りたいわネェ」
「その道具は? 見た事無えな?」
ジラフがにこにこしながら、コーヒーミルで豆を挽いている。その背後では湯が沸かされていた。
「これは珈琲豆を挽く道具よ。村には無かったから海上都市で譲って貰ったの」
「無かったのに今までどうやって淹れてたんだ?」
「すり鉢かハンマーで砕いていたわよ。普段のリョウちゃんもそうじゃないかしら? そういう手間もあるから、村はお茶の方が多いんだと思ってたんだけど」
「成る程、それは盲点だったな?」
お茶派が多いので、特に問題にされてこなかった部分だった。
「ガンナーちゃん苦すぎるの嫌いよね?」
「あ、うん」
「じゃあ粗びきにしてあっさりさせましょうネ~」
「ふむ、挽き方で味も変わるのか」
「豆の種類でも、焙煎の仕方でも、挽き方でも淹れ方でも変わるわよ。お茶と同じく奥深いんだから!」
話しながら、てきぱきとジラフが作業を進めている。布のフィルターをお湯で温め絞り、そこに引いたコーヒー粉を投入。口の細いポットで粉全体が湿るように細くお湯を回し入れ、30秒ほど待ってから再び。今度は中心にそっとお湯を注いでいた。見ているだけで何やら細々したコツがあるのが分かる。
「お湯の温度に抽出時間、フィルターの表裏でも味わいが変わりまあす!」
「良い香りだ。これは確かに趣味に値する」
ケンが感心したように頷く。普段飲んでいるコーヒーと豆が違うからか、淹れ方が違うからか。何だか特別に良い匂いのように感じられた。眺めている内に少しずつガラスのピッチャーの中に黒い液体が溜まっていく。時間によってお湯の注ぎ方も違うようだった。
「さ、どうぞ。お砂糖とミルクが欲しい時は言って頂戴」
「おお……」
「わあ、頂きます!」
ややあり、マグカップに注がれたコーヒーが二人の前に出される。ケンは勢いよく、ガンはおずおずとカップを手に取りまずは香りを楽しんだ。
「いつもより良い匂いがする」
「リョウさんよりジラフさんの方が淹れ方が上手いのだろうな」
「リョウちゃんの場合は、お茶程コーヒーに詳しくないんだと思うわ。世界にもよるけど、コーヒー文化の発達は様々。市井で日常的に飲まれていないなら、存在は知っていても他より追及はしていないと思うのヨ」
ジラフも着席し、マグカップを手に取る。ケンとガンは香りの次に一口味わってみる。途端に二人とも目を瞠った。
「え、なんだこれ……うま……っ」
「これは……素晴らしいぞ、ジラフさん! 王宮で出て来る味だ……!」
「いつも飲んでるやつと全然違うな……これなら砂糖とミルク無くても飲める」
「ウフフ~! 今回は軽くてすっきりした味わいになるよう淹れましたからネッ」
二人の反応に、ジラフが嬉しそうに笑う。
「ふぅむ……確かにこうして飲むと“こだわり”だな。普段のリョウさんのコーヒーも美味いのだが、普通の味というか、70点だ。これは特別に美味く100点である」
「キャア! 舌の肥えたケンちゃんに褒められると嬉しいわネッ!」
「ジラフはどうしてこんなコーヒー淹れるのが上手いんだ?」
感動した面持ちでガンがコーヒーを味わっている。これなら毎朝でも良いと思える位に美味しい。ケンの方も『このレベルは久しぶりだ』という顔で飲んでいる。
「アタシの職業が関係してるかもしれないわねェ。逆にアタシは、リョウちゃんやカイちゃん程上手にお茶は淹れられないのヨ~」
「傭兵とコーヒー関係あんのか?」
「ウフフ、じゃあお菓子の代わりにその話をしてあげましょうか!」
予定外のお客だった為、今日は茶菓子が無い。興味深そうに二人が食いついてきたので、ジラフが笑顔で話し始めた。
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