244 サンキャッチャー
恋人達がデートに出かけて行った当日、ケンはガンを捕まえていた。
「ガンさん今日はサンキャッチャーを作って遊ぶぞ!」
「サンキャッチャーってなんだ?」
「窓辺に飾るキラキラの何だか素敵なものだ!」
「へえ、飾りか」
物作りは好きなのであっさり食いつき、作業は食堂の大きなテーブルで行う事にした。暫し待てと言われて待っていると、ケンが箱を抱えて帰って来る。
「何だこれ、宝石か?」
「リョウさんとカイさんが採掘した不要の宝石も混ざっている。後は海上都市で分けて貰った硝子やビーズだな」
箱から取り出された細々したものが並べられる。種類ごとに分けられた、カットされて研磨された宝石や硝子、ビーズ等々。大きさや色も様々で目にも楽しい。ひとつ摘まみあげてみると、小さな穴が開いていた。
「小せえ穴が開いてるな。その糸を通すのか?」
「ああ、これは天蚕糸といって、幼虫の腺を酸で処理して作られた糸だ。丈夫で、釣り糸などに向いている」
「へえ~!」
「この銀の小さな部品は“つぶし玉”といって、糸を通した後にペンチで潰して留めるのに使う。これで石間のスペースを調節したりする」
てぐすに潰し玉、鋏やペンチなど道具を全て並べ終える。ふむふむと興味深げに聞いていたガンが、改めてケンを見た。
「詳しいな。作った事あんのか?」
「いいや、雑学や作り方は職人に聞いた。実物は元々知っている。虹色の光が細かく散ってな、何とも綺麗なのだ」
「そりゃ良いな」
「こういう“揃い”なら良かろう? 作って部屋に飾ろうぞ」
にこにこするケンに、ガンが変な顔をする。
「揃い……ああ、そうか。水着も揃いで喜んでたな」
「うむ! リョウさんとカイさんがペアアクセサリーを作っていたからな! 俺とて何かガンさんと揃いは欲しい!」
「分かった。良いよ」
揃いが欲しい気持ちはちっとも分からないが、特に変な物ではないし欲しいなら別に良いかと頷いた。だがひとつ気になる事がある。
「……良いけど、結構細かい作業だろこれ。おまえ出来んの? 向いてねえつッて、前から籠編みとかも放り出してたじゃねえか」
「わはは、俺は指が太いからな! 糸を通す所だけはガンさんにやって貰うかな!」
「しゃーねえなァ」
糸に通してしまいさえすれば、後はペンチで加工できるから指の太さは関係無くなる。それから早速二人で石を選び始めた。
「どういう形が良いんだ?」
「自由だと思うが、一番下に大きい玉を置いて他が小さい玉なのをよく見るかな」
「そうか」
こんな感じが多い、と適当にケンが宝石を並べてみせる。それで理解したようで、頷いてガンも考え始めた。
「なあ、自分が作ったやつを自分の部屋に飾るでいいのか?」
「何本作っても良いのでガンさん作を最低ひとつは俺にくれと思っている」
「分かった」
「何本か並べて飾っても良い感じだぞ。という事で俺作も飾るといい」
「分かった」
大変正直なケンに頷く。そういう事なら自分用とケンに遣る用で二本作る事にした。最初に一番下に据える奴を選ぼうと思い、沢山並んだ宝石や硝子を物色する。
「おまえのはこれにしよう」
ガンが直径5cm位の大きさのドロップ型の青いルースガラスを手に取る。何故かケンと見比べるように翳しているので、怪訝に首を傾げた。
「その心は?」
「おまえは目が青いから、同じにしようかと思って」
「きゅん……! 俺が俺を貰ってしまうとしてもその発想が嬉しいぞ……!」
ケンの目と同じような明るい青色のガラスがあったのでそれにする。他の部分はケンの金髪――金色は無かったので、代わりに黄色とやはり青色と、後はアクセントに透明のビーズを選んで並べてゆく。中々良いんじゃないかと思えた。
「俺もガンさん風のが作れたら良いのだが、ガンさん色は中々難しいな?」
「俺の目や髪の色だと光を通さないんじゃねえか?」
「髪は黒いし――目はよく見ると青いのだが、深い青だからなあ」
ふむ、と少し考えたケンがややあり思い付いたように透明のクリスタルボールやビーズを手に取り並べてゆく。殆ど無色の水晶で色自体はシンプルだが、途中でラピスラズリのアクセントが入っている。それを見て、ガンが首を傾げた。
「それはおれの白髪を表現して……?」
「違う違う……! これは石言葉で選んだのだ。水晶は『純粋』『無垢』『完全』で、ラピスラズリの方は透けないがアクセントでな。此方は目の色と近いし、石言葉は『成功の保証』『真実』『健康』『幸運』などである……!」
「へえ~! 石にも意味があんのか!」
白髪をディスっているのかと思ったが全然違った。知らない知識に目を丸くする。
「うむ……! それに水晶は浄化作用があって、ラピスラズリは願いの成就や邪気払いなどの効果があると言われている……!」
「どうしておまえそんな詳しいんだ」
「宝石系はな! 口説きに度々使っていたから詳しい!」
「成る程……」
大変納得して頷いた。
「だが今はガンさん一筋故、安心するが良いぞ」
「心配した事も無えんだが」
「おおそうだ、ついでにサンキャッチャーの意味も教えてやろう!」
その前の応酬はスルーして、ケンがサンキャッチャーの意味を説明し始める。
「風水学が元らしいのだが、サンキャッチャーは幸せを呼ぶと言われている」
「風水学って?」
「自然の気の流れを開運に用いようとした学問だな。これらが作り出す光や虹には陽のエネルギーが含まれているとされ、前向きになったりストレス軽減になったりするらしい。眉唾だが、部屋に置いて嫌なものではなかろう?」
「へえ~! 確かに、実際の効果は別として何か良いような気がするな」
頷きながら、ケンの方に糸を通してやる。通してから手渡すとペンチを手にちまちまと自力で頑張り始めた。ガンの方も、自分の分に糸を通して作業を始める。そんなに難しくは無かったので、二時間も経たずそれぞれ二本ずつ完成させる事が出来た。
結局同じデザインの物をふたつ作り、それをひとつ交換する事にした。その方が“お揃い”らしいからだ。出来上がると、早速部屋へ飾りに行く。
まずケンの個室へ向かい、窓辺にそれぞれ作った一本ずつを吊り下げた。ケンの個室はガンの部屋より少し物が多い位で、案外さっぱりとしている。
「おお……」
「どうだ、綺麗だろう」
外から入った光がサンキャッチャーに拡散されて、窓辺の床や壁に虹色の小さな光の欠片を落としている。揺れる沢山の小さな虹色は、思った以上に綺麗だった。
「こりゃ良いな。気に入ったぜ……!」
「わはは! だろうそうだろう!」
「おい、ケン」
「何だガンさん」
ガンがばしんとケンの背を叩く。その顔は満面だ。
「でかした。おれはこういうのなら、すげえ嬉しい。ありがとな」
「……ふん、俺も中々ガンさんを分かっているだろう」
ケンが何とも満足そうに、ほんの少しだけ面映ゆい顔で嬉しがった。
「こんな綺麗なら、村の色んな所に飾ってもいいなァ」
「そうだな。材料も時間もまだある。追加で作るか?」
「火事は大丈夫かな?」
「今ある材料なら大丈夫だ。レンズ状にならぬよう細かくカットされている」
「おお、じゃあ作るか」
次は隣のガンの個室へ移動した。残りの二本を飾ると、ケンの部屋と同じく美しい光が散らばった。昼寝の時などベッドに転がって眺めたら凄く気分が良いだろう。
「そうそう。作るのは構わぬのだがな、ガンさんよ」
「何だ」
出来栄えと飾り具合を確かめ、満足した後。戻ろうと歩き出す背にケンの声が掛かった。
「同じデザインは嫌だぞ」
「……」
「その心は?」
ケンが謎々を出すような顔で笑っていた。瞬き、首を捻って暫し考える。
「…………あれは、おまえの為に作った。だから、同じ物は作らねえ」
考えた後、口にしたらケンが『うむ』と頷いた。
「合ってるか?」
「ああ、100点中の120点だ」
「よし……!」
合っていた上に120点だったので、ぐっと拳を握って階段を下りていく。その背を眺め、ケンも何だか嬉しそうに後を追った。
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