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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第三部 ダンジョン編

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243 おしどり花

「リョウどん、今日はありがとう……! 片付けはおらがするから休んどってな!」

「どういたしまして! けど片付けは一緒にやるよ……!」

「いいからいいから……!」

「え、ええ……食器だけで良いからね……! 他は明日の朝二人でやろうね……!」

「へぇ!」


 手伝おうと思ったが押し切られてしまったので、リョウは食後にゆっくりする場所を整える事にした。テントの敷布を確認し、入り口を大きく広げる。これで夜眠りながら星が見えるのだ。後は魔法の明かりを灯して寝るまでは不自由無いようにする。


「はあ……」


 やる事が無くなってひとまず転がると、どっと心地よい疲れが押し寄せて来た。10時間ぶっ通しで肉を焼くのは中々体力を使う。けれどメイの嬉しそうな顔と食べっぷりが見られてよかったな、と一日を反芻した。


 後は例の件を何とかすればデートは成功といえるだろう。ポケットをまさぐると指先にびろうど張りのアクセサリーケースが触れる。上手く取り出せるように何度か手を出し入れする内、砂を踏む足音が聞こえた。


「リョウどん、今日は本当にお疲れ様。天国みてえに美味かったです」

「あ、メイさんもお疲れ様! 焼くの沢山手伝って貰っちゃって……! 片付けもありがとう……!」

「そんな事、何もだぁ! 楽しかったぁ……!」


 メイが片付けを終え、テントの中へと入って来る。リョウが慌てて起き上がり、並んで座った。満腹で幸せそうにメイの顔が緩んでいる。いつものデートなら、食事の後は眠くなるまで他愛の無い話をしたりイチャついたりするのだが今日は違った。


「あのね、メイさん……」

「へぇ?」


 意を決したようにリョウが姿勢を正して向き直る。何事かとメイも慌てて姿勢を正した。


「どうした? 腹でも痛えのか……!?」

「腹は大丈夫ですありがとう! いや、その……前にペアアクセサリーを贈るって言ってたじゃない……?」

「う、うん……」


 メイとタツが神の代行者となった事で、証としてペンダントを授かった。それは今でもメイの胸元にあるが、証とはいえタツとおそろいでリョウとしては若干面白くない。だがそこで嫉妬するのではなく、新たにペアアクセサリーを贈って自分もおそろいを作れば解決――という話だった。リョウが『考えておきます』と言った事をメイも覚えている。


「それがこの度完成致しまして……」

「……!」


 メイがやっと姿勢を正した理由を悟り、目をカッ開いて表情までもを引き締める。互いに戦の出陣前みたいな表情になった。


「でね、でね、贈る前に言っておきたいんですがぁ!」

「へぇ、何でしょう……!」

「知らなかったし今回は本当に偶然なんだけれど、僕としてはいずれと思っているので! メイさんさえ良ければ今そのように受け取って貰っても構いません……っ!」

「……!?」


 よく分からない前置きと共に、勢いよくリョウのポケットからアクセサリーケースが出てきて両手で差し出される。『何がだろう!?』という戸惑いを隠せないまま、そうっとメイがケースを受け取った。


「あ、開けても……? リョウどん……?」

「はい、どうぞ……!」

「…………」


 そうっと、そうっとケースを開けてみる。中を見た瞬間、理解した瞬間、メイの顔が耳まで一気にボッと赤く染まった。


「リョ、リョ、リョウどん……っ!」

「前置きの通りです……っ!」


 花の形にピンク色の宝石をあしらったチャームのイヤリングとブレスレット。『花』で『ピンク』で『アクセサリー』で、昼の話題が脳内で盛大にだぶる。そして、リョウの前置きの言葉も重なる。


「うあぁ……リョウどん……!」

「早い! 思った以上に泣くのが早い!」

「リョウどぉん……!」

 

 見る間にメイの顔がくしゃりとなって、大粒の涙が溢れだした。


「嬉じい……! おらぁ嬉じいでずぅ……!」

「激しい! 思った以上に泣きっぷりが激しい!」

「うあぁあ……嬉じぃぃ……!」


 思った以上の号泣だった為、慌てて涙を拭うもの――が無かったので、慌ててリョウがシャツを脱ぎ、ぐしゃっと丸めて涙を拭いてやった。


「ごめんね、ちょっとあの、汗臭かったらごめんね……!」

「リョウどんの匂いがじまずぅ……!」

「するだろうねぇ……!?」


 盛大に泣き出しながら、涙を拭いて貰いながら、潤んでぼやけた視界にリョウの胸でも揺れるピンクの宝石が見えた。お揃いだ。


「うあぁん……! じがも! おぞろいぃ……! おらぁ、なんでじあわぜなんだろぉ……!」

「ペアアクセだからね……! 僕のは花じゃなくて四つ葉なんだけれども……!」

「リョウどん……! ずぎぃ……! だいずぎだぁ……!」

「……!」


 鼻水まで出して子供みたいに号泣するメイの顔はお世辞にも綺麗とは言えない。声だって嗚咽で詰まって濁っている。けれどリョウには世界で一番可愛く愛おしいもののように見えて、聞こえてしまって。あまりにも幸せで思わず笑いだしてしまった。


「っふ、あは、あはは……! 好きだよ! 僕も大好きだよメイさん!」

「ぶわぁん……! リョウどぉん……!」


 ぎゅっと抱き締めると、メイも強く腕を回して抱きついて来る。腕の中にある熱が、埋まる顔から零れる吐息が、肩を濡らす涙が、鮮やかに記憶に焼き付いた。メイの興奮が収まるまで暫くずっとそうしていて――漸く落ち着いた頃に、メイがぽつりと話し出す。


「リョウどん……リョウどんは、おらの憧れや夢を、全部叶えてくれるな。……おらは、おらは……それが本当に嬉しくて、幸せです……」

「……叶えられてるなら、良かった。これでも、メイさんを喜ばせたくて、幸せにしたくて、必死なんだよ」


 互いに顔を上げて目が合うと、どちらともなく笑った。それからやっと抱擁を解いて、贈って貰ったアクセサリーを身に着けてゆく。腕輪はリョウに留めて貰い、イヤリングは片方ずつ丁寧に自身で留めていった。


「……おら、小さい頃から“花嫁さん”になるのが憧れだったんだぁ。いつか、素敵なひとから“おしどり花”を贈って貰って、編んで貰った花冠を被ってお式さするの。教会で結婚式を見る度に、憧れとった」

「うん」

「だども、そういう歳になる前に村を出ちまったし――出た先じゃ巨人は珍しくって、女とは見て貰えん。結婚どころか恋すら出来んで……諦めとったんだ」

「うん……」


 両耳にイヤリングを着けて、改めてメイが微笑みリョウを見る。沢山泣いたから目元は赤くなっているが、本当に幸せそうな穏やかで優しい笑みだった。


「けど今は、全部リョウどんが叶えてくれる。――“受け取って”も、良いだろか?」

「……!」


 それはつまり、婚約のアクセサリーとして受け取りたいという事だ。リョウが息を呑み、それから深く頷いた。


「勿論。けど、ちゃんと言わせてよ」


 手を伸ばし、しっかりとメイの手を取る。


「メイさん。次に来る新入りさんの事とかもあるし、結婚式はまだ先になってしまうと思うけど――恋人じゃなくて僕の婚約者になって下さい。婚約者として、そのアクセサリーを着けていて下さい。あなたは僕のものだと、証明させて下さい」

「――……へぇ、へぇ……! 喜んで……!」


 またメイが淡く涙ぐんで、けれど泣き出しはせずに大きく頷いた。


「……ありがとう。すっごく嬉しい……!」

「へへ、おらもだ……!」


 二人して思い切りの笑顔を浮かべて、それから顔を寄せあい口付けた。そのまま深く抱き合い――愛を確かめ合って夜は更けていく。そのまま朝を迎え、クルーザーの迎えが来て戻る二人は、来た時よりも更に幸せそうに手を繋いでいたという。

お読み頂きありがとうございます!

次話は明日アップ予定です!

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