230 準備も中々大変だ
職人小人への相談は、通訳としてガンに付いて来て貰った。メイとベルに気付かれないよう、日中の仕事の合間を縫ってのコソコソとした訪問である。
「――という事なんで、カーチャンにも内緒で作ッて欲しいんだ。頼めるか?」
「お願いします!」
「お願いします……!」
「モイ! モイモイモイ~!」
「それは主人も絶対に喜ぶでしょう、任せて下さい! と言っている」
宝飾の得意な職人小人が数人、持ち込んだ原石にライトを当てたりルーペで凝視したり、最初は恋人達を応援してやろうという和気藹々したムードだったのだが――気付けば鬼気迫る面持ちで激しく相談を始めている。
「あの、何か雰囲気おかしくない……?」
「最初もっと和やかでしたよね……?」
「なんか、おまえらが持ち込んだ石がやばいみたいだぜ」
「ええ……!」
「ケンのお墨付きなのに……!」
動揺していると、代表らしき小人が此方に来て真剣な顔でモイモイ語った。
「此処までの素晴らしい石は、私達も取り扱うのは初めてです。希少なブルーダイヤにピンクダイヤ、状態も色も最高品質です。綿密に計画を立て、カットも研磨も最新の注意を払わねばなりません――だそうだ」
「あ、そっちのやばいね! 良かった!」
「手は震えますがそっちの意味なら良かったです……!」
その後も通訳越しに相談を重ね、大事なデザインの話になった。デザインといっても男どもは詳しくないので見本がある場所へ案内してもらう。其処は宝飾の展示室のような感じで、これまでに職人小人達が作った作品が飾られているのだという。
「うっわすごい、お店屋さんみたい……!」
「此処はベルのアクセサリー置き場ですか?」
「モイモイモッ! モイ~!」
「カーチャンの置き場は別で、此処は色んなデザインを集めたサンプルルームだってさ。新規で作る時にベルが来て『こういう感じで』ッて指定貰って作るらしい」
「成る程なあ……!」
納得して参考にさせて貰い始めた訳だが、男どもにはさっぱり良し悪しが分からない。ので、再び小人に聞いてみた。
「……カーチャンはでかくてド派手な奴を好むらしいぜ。確かにいつもでけえ宝石つけてんな」
「言われてみたらそうですね。でしたらベルの分はなるべく大きくカットして貰って、私は余りの小さい部分で何とか……!」
「そうか、着ける人によって好みも変わるよな……! メイさんはベルさんみたいに派手なのは向かないかな……」
プレゼントするアクセサリー選びとはかくも難しいか、と三人とも頭を抱えてしまった。自分が良かれと思っても、相手の趣味がある。難しい。
「どうしよう……こういうのはケンさんに聞いた方が良いのかな……!? けどケンさんが選んだデザインをメイさんに贈るの何かヤだな……!」
「そうですね……! 既に採掘でケンにはお世話になっていますから、デザインまで頼ってはケン尽くしになってしまいます……!」
「あ、ジラフに聞くのはどうだ? カーチャンともメイとも仲良いし、好みも知ッてんだろ。乙女心? も分かるだろうし……」
「それだ……!」
そして急遽こっそりと、彼女へのプレゼントを買う為にアドバイザーとして女友達を呼ぶみたいな気持ちでジラフが召喚された。
「ンマッ! サプライズプレゼントでペアアクセサリー! 素敵じゃないのッッ! だからデートを引き延ばしてたのネッ! 勿論協力するわヨッ!」
「うわああ安心感が凄いジラフさんありがとう……!」
「感謝しますジラフ……!」
頼もしい味方を得て、急に『この勝負勝ったな』という安心感が湧いて来た。
「まずメイちゃんはベルちゃんみたいな感じに憧れはあるけれど、自分には似合わない事を知っているわ。後は可愛い物が好き。これまで殆ど宝石は身に着けて来なかったでしょうから、初心者向けで毎日付けられるようなシンプルかつ可愛らしいデザインが良いと思うわッ!」
「どうしようジラフさんに後光が見えて来た……!」
「凄い、一気に絞られましたね……っ!」
ジラフの分析を聞いて、職人小人がモイモイと頷きオーダーに合うようなアクセサリーを集めてくれる。途端にリョウが張り付くようにして吟味し始めた。
「その中でリョウちゃんが最もメイちゃんに似合うと思う、着けて欲しい物を選んだら良いんじゃないかしらッ!」
「そうします! ありがとう……!」
「次はカイちゃんネッ!」
「はい、よろしくお願いします……!」
今度はジラフがカイへと向き直る。
「ベルちゃんはもう、高級でカラットが大きい程喜ぶ女よ! 自分でも沢山持っているでしょうけど、大粒のブルーダイヤとなると入手困難な筈……!」
「モイ、モイモイモイモイ~!」
「ブルーダイヤ自体は所持していますが、最大で5カラットまでです! と言っている……」
「成る程成る程! ちなみに今回の原石はどの位にカットする予定なの?」
一度カイへと向き直ったが、先にリサーチが必要な為に小人へと向き合い直した。
「モモモ……モイ~! モイッモイモイイイモッ!」
「今回は原石も大きく最高品質です! カットの計画はまだですが、恐らく20カラットクラスが1つ、10カラットが2つは取れると思います! と言っている……!」
「ンマーッ! とんでもない原石を手に入れてきたわネッ……!」
価値を知るジラフが卒倒しそうになった。現代でいえば一粒何十億で取引されるレベルである。
「それなら一番大きいのを婚約指輪に回して、次に大きいのを今回のペアのベルちゃん用にしたら良いわね。結婚指輪は日常的に着けるから、小さめの石にするでしょうし。カイちゃんは自分の石が小さくても気にしないでしょう?」
「ええ、ベルが喜ぶ方がずっと嬉しいです……!」
「イヤリングだと石を割る事になっちゃうから、指輪かネックレスが良いんじゃないかしら。婚約指輪を考えるとネックレスかしらネ? ベルちゃん胸元自慢だし!」
カイがこくこくと頷いて、職人小人がリョウと同じようにベルが好みそうな大粒宝石ネックレスの見本を沢山用意してくれた。早速カイも齧りつき、ジラフが一仕事終えた顔で笑顔になる。
「ふう! どうやらお役に立てたようだわネッ!」
「ジラフはすげえなあ……!」
「ウフッ! 女子の気持ちが分かるのはこういう時強いわネッ!」
ガンに褒めて貰いつつ、にこにこと真剣に吟味する二人を見守った。ややあり、これぞと思うデザインを選んだ二人が戻って来る。
「僕、これにしたんだけど……どうかな?」
「アラッ、イヤリングとブレスレットのセット!? 素敵じゃな~い!?」
「そう。婚約用には僕も一番大きいのを取っておくつもりなんだけど、他はメイさんてあんまり大粒の宝石は似合わないし、ならその分セットにしてあげようかと……」
リョウが選んできたのは、可愛らしい花の形にダイヤをあしらったイヤリングとネックレスのセットだ。確かにメイの芋っぽさを考えると、どかんと大粒の宝石をひとつ着けるより、こういうささやかだが可愛らしい物が似合う気がした。
「で、僕はクローバー型にして貰ってネックレスにしようかと。お花型の花びらをひとつ抜くとクローバーになるらしいんだよね」
「確かにリョウが花のアクセサリーって微妙だもんな」
「でしょう……!」
「良いと思います! 素敵ですよリョウ……!」
皆の賛同が得られたので、リョウはこのプランで行く事にした。
「で、私の方なんですが……宝石が大きいのでシンプルめにしました」
「ふむふむ。宝石が目立って良いわネッ」
カイが選んできたのは、丸いブリリアントカットの青い宝石を主役に、周囲を小さな無色ダイヤが飾ったオーソドックスながら華やかな物だ。
「私の方はこの周りの無色ダイヤは無しでもっとシンプルです。後はベルの方の石を大きくして、私のは小さめで、と……」
「良いじゃないの! チェーンを変えれば豪華にも出来るしッ!」
「うんうん、ベルさんに凄く似合いそうだよ……!」
「良し悪し何も分からんけど良いと思う……!」
此方も皆の賛同が得られたので、カイのプランも決まった。
計画立てから完成まで一月ほど掛かるという事で、職人小人達にお願いしますと頭を下げて魔女の屋敷を出る。
「一月か……早いような掛かるような……」
「デートの引き延ばしにはきついですかね……」
「アラッ! お出かけだけがデートじゃないでしょう! “本番”までは近所やおうちでデートすればいいのヨッ!」
「あああ、そうか……! イチャつき禁止な訳じゃないもんね……!」
そうか! と二人が安堵する横でガンが首を傾げた。
「その、お出かけデート? ってやつ、おまえら何処行くんだ?」
「折角なら素敵な絶景でサプライズしたいわよネェッ!」
「あ、あああああ……! そうだった……!」
「まだ決めてません……! 場所も探さないと……!」
プレゼントが決まった所で、再び二人は頭を抱えた。採掘が終わったと思ったら、次は絶景デートスポット探しなのである。
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