229 ピンクブルー
「これ……は……」
「何でしょう……凄く当たりの気がするのですが……」
一目で宝石の質が分かる程の技能は二人とも無い。だが、これまで見た事のない色合いの石で、とても強い魔力を感じた。
「俺の運を使っているのだから間違いあるまい! 掘り出してみよ!」
「う、うん……!」
「はい……!」
固まっていた二人が慌てて、けれど慎重にそれぞれ周りの岩や土を取り除いて鉱石を露にしていった。
「ピンク色だな……透き通ってて……ピンク色の宝石って何だろ?」
「透き通っているならモルガナイトかトルマリン辺りか?」
「私の方は青くて透き通った感じですね」
「透き通った青い宝石は数が多くて絞れんな。どれ」
リョウは全然詳しく無いし、カイも元王様とはいえ贅沢三昧をしてきた性質ではないので宝石には疎い。代わりにケンが見てやろうと手を伸ばした。
「と、とれた……! 結構大きいぞ……!」
「私もとれました。ケン、どうですかね?」
「ふむ……」
二人とも卵くらいのサイズの原石をケンに手渡す。明かりを近付け、ふたつの原石を色んな角度から眺めていたケンが徐々に驚きの色を浮かべた。
「おお、おお……! 俺の豪運を持ってすれば拳大位のダイヤは出ると思ったが、これは凄いぞ二人とも……!」
「まあ、子供の拳位のサイズはあるけど……何が凄いの?」
「ケンはこれが何の宝石か分かるんですか?」
「これはダイヤだ」
ケンが宝石に対して感嘆の息を吐くのは珍しい。じっくりとふたつの原石を確かめてから、二人の掌へと戻した。
「え、ダイヤって透明じゃないの? 水晶みたいな……」
「カラーダイヤだというのですか? え、嘘でしょう……?」
「ダイヤの原石は八面体をしているからすぐ分かる。見てみろ」
言われてみてみれば、確かに角に丸みを帯びた八面体をしている。確認した瞬間、カイが全身をブルッと震わせた。
「え、カイさんが震え始めたんだけど!? そんなに凄いの……!?」
「カッ、カラー……しかもブルー……ッッ!」
「“色付き”のダイヤは希少なのだ、リョウさん。この大きさも多くはあるまい。ざっと見た限り不純物もほぼ無いようだし、つまり物凄い価値の原石だ」
「え、え、えええええ……! どの位……!?」
カイがずっとガタガタ震えている。それでもどうしても価値の水準が分からなくて、リョウが挙動不審になり始めた。
「そうだなあ。リョウさんにも分かり易く言うと、この俺ですら大きいブルーダイヤは数個しか所持していなかった」
「嘘でしょ!? ケンさん千年間も世界一のお金持ちだったのに!?」
「値段ではなく、そもそも出土が少なくてな」
やっと伝わりリョウがへたり込んだ。
「す、す、すごい……! これを売ったらもう一生安泰なんじゃ……!」
「安泰どころかお釣りが出て一生豪遊出来ますよ……!」
「前の世界ならな! この世界ではただの綺麗な石だぞ! 確りしろ二人とも!」
「ハッ、そうだった!」
「そうでした!」
欲に目が眩みかけたが一瞬で現実に引き戻される。
「だがベル嬢は価値が分かるし、それはもう喜ぶだろう。メイさんが宝石に詳しいかは知らんが、メイさんの好きそうな色ではないか」
「う、うん……! メイさんピンク好きだしね! ちなみにピンクはどの位の価値なんでしょうか……!」
「ブルーが一番価値が高いとされているが、ピンクも希少だぞ! 似たり寄ったりと思っておけ!」
「ひい……!」
青じゃないしという安心感は打ち砕かれた。二人の狼狽っぷりがあまりに面白く、笑いながらケンが思い出したよう手を叩く。
「そうそう、このふたつは伴侶や恋人に贈るのに最適だぞ! 石言葉がな、ブルーは『永遠の幸せ』『絆を深める』だろう! ピンクは『完全無欠の愛』『永遠の愛』だ! 更には同じ原石から加工された宝石を恋人や夫婦が身に着ける事に意味がある!」
「あ、あ、双子の宝石……ですね、それは魔術的にも意味を持ちます……!」
「な、なんて素敵な石言葉なんだ……! 後ケンさんが詳し過ぎる……! これまで色んな女性に贈って愛を囁いて来たんだろうなぁ!?」
ケンが『そうだが?』という顔をする。口説きに使って来たからこそ記憶にあるのだ。そして今の二人にとっては有難い情報だった。
「ケ、ケンさん……! ケンさんのお陰だよ! 豪運ありがとうございます……!」
「本当にケンのお陰です……! もう今夜から足を向けて眠れません! ベッドの向き変えます!」
「わはは! 苦しゅうない! これからも村長を讃えよ!」
「村長! わああ村長~!」
「村長一生ついて行きますう~!」
連日の苦労が茶番だったかのよう、村長パワーであっさり良い原石が手に入った。後はこっそり職人小人に依頼してアクセサリーに仕上げて貰うだけである。
「何にするかは決めてあるのか?」
「えっと、職人小人さんに相談してから確定しようとは思ってるんだけど……ネックレスはもう神様から貰ったのがあるし、ぺ、ペアリングかなあって……」
「私も同じく……ただ指輪ですと、意味深になってしまう恐れが……?」
「プロポーズという事か?」
「ええ……」
リョウとカイが難しい顔をしている。ふむふむとケンが頷いた。
「ただ、僕はメイさんとは結婚を前提にお付き合いしてるから、まあ早いか遅いかではあるんだけど……まだ付き合って間もないし、後料理とか野良仕事だと指輪邪魔になるかなあ……という思いもあり……悩ましいんです」
「私も……結婚はガンナーは気にしないと言っていましたが、ベルの方が気にするのではないかと……? 全力で可愛がっていますし……」
「成る程、成る程」
訳知り顔でケンが深く頷いた。
「では此度はペアのイヤリングやブレスレットにして、残りは後々に取っておけばどうだ? 幸い原石は大きいし、不純物も少ない。カットで小さくはなるだろうが、何粒かは宝石として用意出来るだろう」
「そ、そうか! その手があったか!」
「それは良いアイデアです! ケン!」
二人が諸手を挙げて賛成したので、ケンも満足そうに頷いた。
「そうさな、今回のペアアクセに婚約指輪と結婚指輪か。多分足りるだろう。まあ足りねばまた採掘に――」
「え、婚約指輪ってなに!?」
「む?」
「嗚呼、リョウの世界では無い風習ですかね?」
婚約指輪という聞き慣れない響きにリョウが首を傾げる。
「婚約指輪は、プロポーズの際に贈る指輪だ。女性が着ける物で『結婚の約束をした』という証になっておる。俺に言わせると他の男避けだな」
「へえ、そういう感じか……! 僕の世界だとプロポーズは婚約ブローチで、男女ともにするんだよね。結婚の時は指輪なんだけど」
「この辺りは世界の違いが出てますねえ」
「わあ、これメイさんの世界の文化を調べておかないとだぞ……!」
今気付けて良かった、とリョウが胸を撫でおろす。いざプロポーズ! となって文化の違いでメイが全然ぴんと来なかったら立ち直れない。
「確かにそうだな。ジラフさんに女子会でのリサーチを頼んではどうだ?」
「嗚呼、それは自然で良いですね。また折を見て頼んでおきましょう……!」
「また男子会もするか!?」
「ケンさんがプロレス技を掛けて来ないならいいよ……!」
「本当にそれですよ……!」
男子会の再開催に怯えつつ、三人は装飾用の宝石をもう少し掘った後で帰路へ着いた。
翌日には皆の目を盗んで職人小人の元へ原石を持ち込み――原石は結局やはり職人小人が仰天する程希少で凄いものだった。暫くはデザインや諸々の相談で人目を盗んで通う事になるだろう。
結局まだ暫くコソコソは続くが、リョウとカイはケンに深く感謝しこれまで集めた使わない原石を『ははー』と献上するのであった。
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