221 後二週間
保育所での世話が始まり一週間。小人達の産休が終わるまでは後二週間。乳児だった小人の赤子達はあっという間に幼児へと成長した。
「嫌だ……もう嫌だ……! 保育所行きたくねえよォ……!」
「ガンさん泣いているのか!?」
「乳児は良いんだ……! 幼児きつい! 幼児きついよおおお……!」
「リョウさんまで……!?」
保育所でのお世話はベル以外交代制なので、今日は幼児好きなカイとメイがウッキウキで出かけて行った。ガンとリョウは今日はケンと一緒に畑の世話をしている。だが明日はまた保育所へ行かなくてはならない。それ故の泣き言であった。
「もう笑顔で歌って踊って体操したくねえんだ……! ケン! 助けてくれ……!」
「結構残酷なこと言って来るし、体力無尽蔵だし! 僕ら辛いんだよケンさぁん!」
「カイさんとメイさんはウッキウキで出かけて行ったがな……?」
「おまえも笑顔で歌ッて踊ってうさぎさんピョンピョンしてから言えや!」
ケンが目をカッ開いた。
「そんなガンさんは俺でも見たい!」
「煩せえブッ殺すぞ!」
「だがまあそんなに辛いなら、ガンさんとジラフさんを交代させるか? いや、だが小人語の通訳がな……?」
「僕は!? ねえ僕は!?」
「リョウさんはほら! 将来の為に学んでおかねばなるまい!?」
ガンとリョウが『頼むからああああああ』とケンに縋りついた。ケンがヨーシャシャしながら考え込む。
「ふぅむ。笑顔は必須だろうから兎も角、歌って踊って体操が辛いなら他の事をすれば良いのではないか? 他にも相手のしようはあろうに」
「他の事ッて何だ」
「絵本の読み聞かせだとか、リョウさんなら肩車や馬をしてやったり」
「絵本は……ケンさんの世界の言語僕まだ勉強中で読めないんだよね……」
「肩車と馬は良さそうだが、永久には無理だろ……」
どうやら文字的に不可能だったり、間が保たないという事らしい。ふむふむ頷いたり考えたりしつつ、ケンが首を傾げた。
「ベル嬢も歌って踊って体操をしているのか? 面白いのだが?」
「カーチャンは歌と絵本の読み聞かせは見た事あるけど、踊りと体操は見た事ねえな……?」
「そうだね。簡単な手の動きだけとかならしてるけど、ゴリラのポーズとかキツい動きは絶対やらないよね……」
「ベル嬢らしいな。まあ常駐だから無理をさせる訳にはいかんか……」
納得し、ケンが頷く。
「まあ、男小人の交代勤務で多少余裕は出て来ておるし……追加でジラフさんを派遣してやろう。体操やお遊戯はジラフさんかメイさんかカイさんを中心にやって貰い、ガンさんとリョウさんだけが出勤する日が無いようにして……」
「ウッウッ、ありがとうケンさん……!」
「ジラフが入るならおれは解放されてもいい筈なのに! けどありがとう……!」
涙ながらにガンとリョウが感謝している。
「そういえばロボ太郎を派遣するのは駄目なのか? アニメか子供番組でも見せておけばよかろう?」
「あ、それ最初に考えたんだけどさ。小さい頃からロボ太郎に夢中になり過ぎるといけないし、特に海上都市の子達が知ってしまうと毒だからって……」
「ははぁ、成る程な……! ではジラフさんだけで我慢しろ。どうせ後二週間だ」
「おう……」
「はいぃ……」
しおしおしながら二人が頷く。それから畑仕事を終えて昼食に戻り、同じく牧場の世話から戻ったジラフに早速話をした。
「アラッ、全然良いわヨッ! けどガンナーちゃんは兎も角、リョウちゃんは子供の相手得意そうなのにネェッ?」
「いや、多分自分の子っていうか……一人か二人位なら対応出来るんだけど、大勢を同時に相手したり、目の前で踊って歌うのが難しくてですね……」
「メイ殿との子が五つ子とかだったらどうする気なんじゃあ?」
「その場合は皆に手伝って貰うに決まってるでしょ!?」
今日のメニューはカレー曜日の残りカレーを使ったカレーパンと肉入りサラダ、コーンチャウダーだ。せっせとタツがコーンチャウダーに入ったセロリをガンの皿に移している。
「まあけど、多分大丈夫よ。そろそろ皆歩けるようになったでしょう? これからはお散歩も増えると思うから、リョウちゃんとガンナーちゃんはそっちをメインで担当したら良いわヨッ」
「そうか……!」
「おお、散歩か……!」
「成る程な。散歩場所なら幾らでもあるしな!」
光明が見えて、途端にガンとリョウの顔が明るくなる。歌って踊らなくて良いなら幾らでも散歩をしようと思った。
「所でちょっと前から気になってたんだけど、タツさんとガンさんのそれ何なの?」
「何が?」
「何がじゃあ?」
「いや、セロリ……セロリに限らないけど……」
せっせとタツが皿に移したセロリをガンが食べている。
「これはタツとの友情だ。感謝の気持ちをこうして表現している……!」
「うむ! これから儂の苦手なおかずは全部ガンナー殿が食べてくれるんじゃあ!」
「アラッ! 好き嫌いは良くないけど微笑ましいわネッ!」
「ガンさん!? タツさんといつの間にそんなに仲良く……!?」
「へえ~! そうなんだ!」
ケンだけが二人を三度見したが、ジラフとリョウは微笑ましい顔になった。
「経緯は面倒だから省くけど、タツがおれに魔法的な強化をしてくれてだな。今までゼロだった魔法抵抗とかが上がッてんだ。回復力も」
「そう言われてみたら、毎日の特訓後も回復が早いかしらネ……?」
「だろ?」
「魔法的に加護か祝福みたいなものをくれたって感じかな。良いねえ」
「くう……!」
ケンだけが悔しそうにしている。
「何だよ、おれが強くなるのは良い事だろうが」
「良い事だが! 俺は悔しい! ガンさんの特訓はジラフさんが担当だし! タツさんみたいに何か授ける事は出来んし! 俺は悔しい!」
「何言ッてんだこいつ」
「ヤギミルクはカイさんだけど、マッサージしてるじゃないケンさん……!」
「うはは! 嫉妬じゃ嫉妬~!」
ガンが変な顔をし、タツが囃して笑った。ジラフとリョウは『はいはいいつもの』という顔をしている。
「ガンナーちゃんが強くなる手伝いが出来ないのが悔しいのねケンちゃん……!?」
「それも少しあるが俺ももっと構われたい……!」
「正直過ぎじゃろ」
「今は保育所で忙しいんだから仕方ねえだろ」
「そうだよ、僕らの保育所行き決めたのケンさんじゃん」
「そうだが……!」
「大丈夫よ、今の忙しさが通り過ぎたらまた皆で女子寮建設に戻――……」
慰めらしきを口にしかけて、ジラフがハッと唇を押さえる。
「違うわネ。ガンナーちゃんと二人きりで何かしたいのねケンちゃん……?」
「そう……!」
「良いじゃねえか、おまえも毎日リョウと二人で修行してんだろ?」
「リョウさんとガンさんでは雲泥の差だが? 月とミジンコだが?」
「泥! スッポンどころかミジンコ呼ばわり!」
リョウの不服顔の横で、タツが『ははぁん』と顎を擦った。
「慣れない仕事でリョウ殿達がストレスを溜めておるように、ケン殿も最近の忙しさでガンナー殿が不足して、ストレスが溜まっておるという事じゃあ」
「成る程ねェ。とはいえ今は忙しい時期だし、保育所にアタシを投入するみたいな解決は出来ないわネェ……」
「ケンさんほんとガンさん好き過ぎだし面倒臭いな!? ガンさんもう忙しい時期終わったら1回デートしてあげなよ。それで解決でしょ?」
「おれもそう思――……は?」
面倒臭いに同意し掛けたガンがリョウを二度見した。ミジンコ呼ばわりの復讐ではないが、リョウが面倒そうな顔をしている。
「なんて?」
「だから、今はどうしてもストレスの緩和が出来ないじゃない? 終わったら二人きりでデートという救済を掲げる事で今を乗り切るんだよ」
「おお! リョウさん……! それは良き提案だぞ……!」
「アラッ、それならケンちゃんも我慢できるでしょうし解決ネッ!」
「リョウ殿冴えとるわい~!」
ガンが理解出来ない顔をしている間に、皆笑顔で『良かった良かった解決だ』と話している。盛大に首を傾げた。
「デートってよく分からんのだけど何?」
「まあ普通は男女だけど、日時を決めて会う事だよガンさん」
「いや、それは分かるよ。会って何すんの?」
「遊べば良いんじゃない?」
「遊ぶだけか。いつもと変わんねえな。そんなら別に良いよ」
ケンと日時を決めて遊ぶだけと理解して、ガンが普通に頷いた。
「良かったねえ、ケンさん。ガンさん初デートっぽいよ……!」
「うむ、うむ……!」
「僕も忙しいの終わったらメイさんとデートしようっと……!」
傍らでケンが物凄く嬉しそうにしているが、初デートを喜ぶその機微はガンには永遠に理解出来ない。
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次話は明日アップ予定です!




