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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第三部 ダンジョン編

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219 元気モリモリ体操

 慌ただしく労働に明け暮れた一週間が終わり、交代制で男小人達が勤務に戻って来た。寝る間も惜しんで赤子の世話をしていた女小人達も、保育所に赤子を預けてやっと休息を取れるようになり――ついに恐れていたリョウとカイとガンの“本番”が始まってしまった。


「ついにこの日が来てしまいましたか……」

「あれっ、ベルさんは?」

「おかしいな。カーチャン常駐してる筈なんだが……?」


 海上都市の市民区画の一番大きな保育所。動きやすい服装に可愛いアップリケの付いたエプロンをして男三人が覚悟を決めていた。同じく手伝い要員のメイは本日村の方で働いている。だがベルは保育所営業の間は此方に常駐している筈だ。


「何を言っているの? わたくしはさっきから此処に居るでしょう?」

「!?」

「!?」

「!?」


 ベルの声がして三人共ぎょっとする。慌てて見渡すと、おばちゃん保育士達と同様地味で動きやすい格好に淡いピンクのエプロン、盛らずに普通に髪を括っただけのベルがそこに居た。化粧も普段ほど派手ではない。まるで別人である。


「カーチャン……! 地味過ぎて気付けんかッた……!」

「うわっ、本当にベルさんだ! 普段との落差が凄すぎてェ……!」

「嗚呼、ベル……! そ、そういうシンプルな装いも新鮮ですね……!?」

「煩いわね! みすぼらしい落ちぶれ感が凄いと言いたいのでしょう! 幼子相手に着飾っていられるものですか! これは仕方ないのよ……ッ!」


 三人とも『そこまでは言ってない』という顔をしたが、言い訳になりそうなので殊勝にしておいた。ベルがふんと盛大に鼻を鳴らし指示を出し始める。


「もう此処の保育士には小人乳児の世話の仕方を教えてあるわ。協力して引き取りの時間まで面倒を見なさい! 個々の情報は此処! 少しでも様子がおかしいと思ったらすぐにわたくしを呼ぶこと! 良いわねッ!」

「はい……!」

「分かッた」

「頑張ります!」


 ベルが個々の情報が入ったファイルを示し、ずらり並んだ小さいベッドの合間で保育士のおばちゃん達が既に世話を始めている。初めて世話をする種族だというのにどう見ても手慣れていた。


「あと! わたくし達が頼る事で、元から此処に通っている人間の子達に不自由な思いをさせてはいけないわ。此処の保育士だけに頼らず、何ならあちらの手伝いもなさい! 良いわねッ!」

「お、おう……」

「頑張ります……!」

「幼児の相手なら得意です……!」


 そして全員で世話をし始めた。小人の乳児は掌に乗る位凄く小さい。ミルクは母乳ではなく山羊のミルクでも良いらしく、哺乳瓶ではなくスポイトで少しずつ与えるとよく飲んだ。室内では人間の赤子の『おぎゃあ』と小人の赤子の『モニャア』がハーモニーを奏でている。


「小さいのと、耳が尖っているのと、肌の色が違うだけで人間とそこまで変わりませんねえ。とても可愛いです」

「この位だと、泣いて寝てミルク飲んで排泄すんのが仕事だもんなァ」

「おっかなびっくりではあるけど、確かにこれは未来の為の予行演習になるな……」


 いきなり40人の赤子が増えたので嵐のような忙しさだが、これまでの練習の成果とおばちゃん保育士の手伝いもあって何とか世話が出来ている。それでも全員にミルクを飲ませ終わり、寝かしつけた頃にはへとへとだ。


「全員寝たわね。わたくしが様子を見ておくから、あなた達は人間の子供達の相手をしていらっしゃい」


 皆を起こさぬよう小声でベルが指示を出す。


「わあ、行ってきます……!」

「乳児じゃなくて幼児か……! おれ苦手ェ……!」

「うう、頑張ろうねガンさん……!」


 急に元気が出たカイを先頭に、男達は他の教室へと向かった。


「いいですか二人とも、羞恥を捨てるんです。子供は敏感ですからね、どうしようという此方の不安や羞恥は伝わってしまいます。全力で、全力で臨むんです!」

「それが出来りゃ苦労は無えんだよォ……!」

「全力って言われてもさ……! もっと具体的にコツを……!」

「笑顔と愛と安全と勢いです!」


 ごねる二人を引っ張り、幼児教室の前まで来た。この教室で昼食まで幼児たちを沢山遊ばせろという指令が出ているのである。


「ふむ、パヤパヤかガオーどちらかで行きますか。どちらが良いです?」

「どッちも嫌だけどガオーのがまだまし……」

「パヤパヤは僕の心に傷を残すので……」

「ではガオーで」


 カイが頷き、『こんこん!』と口で言いながら扉をノックした。それから扉を開き、両手を顔の横に上げたガオーのポーズで入室していく。


「ガオー! ズシンッ、ズシンッ、ズシンッ! ガオー!」


 ガニ股でズシンズシンと入ってゆき、足音も口で言っている。室内で遊んでいた幼児たちがハッと皆カイに注目する。

 

「ほら、リョウいけよ……パヤパヤよりましだろ……!?」

「ガンさんこそ……!」


 チキン二人がカイの後を追えず、肘で小突き合っている。ちなみにパヤパヤの方はパヤパヤ笑顔で歌って踊りながら入室するスタイルでもっと耐え難かった。その内に注目を引き付けたカイは子供たちを集めて挨拶を開始している。


「こーんにーちはー! カイせんせいです!」

「こーんにーちはー!」

「こぃにちあー!」

「声が小さいですね! もう一度やりましょう! こーんにーちはー!」


 元気の良い幼児たちの挨拶が聞こえる。完全に入るタイミングを逃した二人が頭を抱えてしゃがみこんだ。


「今日はせんせい、おともだちと一緒に遊びにきました! あれあれ、おともだちがいませんねえ?」

「……! クソッあいつ……!」

「カイさんめ……!」

「皆さん、呼んでみましょうか! 先生の真似をして下さいねえ!」


 非情なカイの采配で『リョウせんせー!』『ガンせんせー!』と幼い賑やかな声が聞こえる。先に覚悟を決めたリョウが、苦悶の顔でガンの腕を引く。


「行くよガンさん……!」

「嫌だ、嫌だァ……!」

「ほら、ガオーするよ……!」


 ガンが嫌がるので、もう背後から腕を掴んで重なった状態でガオーのポーズを取る。そのままぐいぐい押して教室へと入っていった。


「ガオー! こんにちは……!」

「ガ、ガオ……」

「なにあれ! へんなのー!」

「くっついてるー!」


 子供たちは残酷で素直なので、見て感じた通りの言葉がブッ刺さる。二人とも心に傷を負った。


「おやおや、ふたりとも緊張しているのかな? 元気がありませんね! じゃあ皆で元気モリモリ体操をして元気を分けてあげましょうか!」

「げんきもりもりたいそう! やるー!」

「いいよー!」

「!?」

「!?」

 

 二人が何かを言う間もかく、おばちゃん保育士がオルガンで元気な音楽を鳴らし始める。カイが物凄い笑顔で子供達と対面し、リズムに乗って揺れていた。


「げーんきげんき♪ みぎてをあげて♪ ひだりてあげて♪ ハイッ! モリモリのポーズ!」

「もりもり~!」

「もりもり~!」

「リョウせんせいとガンせいせいもやって下さいね~! ハイッ! モリモリ!」


 地獄を噛み締めていた所に、カイせんせいから声が掛かる。


「くそ……っ! やってやる……!」

「リョウ……!」


 リョウが全てを吹っ切ったように、笑顔を浮かべてモリモリのポーズをした。


「ああ、リョウせんせいイイですねえ! ガンせんせいはまだ元気が出ないかな!? じゃあ次はゴリラのポーズ行きますよ~!」

「はあいっ!」

「ゴーリラゴリラ♪ ひだりてまげて♪ みぎてもまげて♪ ウッホッホ!」

「うっほっほ~!」


「ウッホッホ! ほらガンせんせいもやらないと……!」

「リョウ裏切ったな……ッ!」


 いまや子供達が、リョウせんせいとカイせんせいが、ガンせんせいの元気が出るかどうかをじっと見守っている。地獄、地獄だ。此処が間違いなく地獄だと思った。


「……クソッ、くそォ…………!」


 口からは呪いのような呪詛が零れながら、無理矢理ぎこちないが笑顔を張り付けた。構える腕がぷるぷるする。だが、滅茶苦茶子供達が期待を込めた顔つきで見て来るので致し方なかった。


「ウッホッホ……!」


 ガンがウッホッホした途端、子供たちがキャアとはしゃいだ。カイせんせいが大変満足そうに頷く。そのまま続けてうさぎのポーズ、亀のポーズ、鳥さんのポーズ等々体操とお歌は続き――リョウとガンは目が死んでいたが、お昼まで賑やかに教室からは幼児たちの楽しげな声が響くのだった。

お読み頂きありがとうございます!

次話は明日アップ予定です!

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