218 タツの友情
「流石に寿命系は手出せんしなぁ。健康を授ける位なら――いやけど寿命が短いだけで十分健康ではあるかぁ~?」
「いやだから何の話……?」
「ガンナー殿寿命以外で何か欲しいものある~? 身長伸ばしてやろうか~?」
「身長伸ばせんの!? じゃなくて、おれに何かくれるッて事か?」
「そそ」
好々爺の笑みでタツが頷く。ガンがきょとんとする。
「え、なんで?」
「短命種族の中でも特に寿命の短い無欲で哀れなガンナー殿に施しを~?」
「おい言い方……!」
「ままま、恩返しや友情みたいなもんじゃよ。寿命を延ばしたり命そのものに何かしてやる事は出来んけど、何か欲しいものがあれば餞別にという所じゃな」
ふむ、とガンが首を捻る。
「餞別か……恩返しや友情ッてんならまあ……」
「儂はガンナー殿の事は割と好きじゃからな。小うるさいけどダンジョンでも世話になっとるし、ケン殿から守ってくれるし~! 小うるさいけども!」
「小うるさい強調してきやがる……!」
「儂が男にこんなにデレとるというのに~!」
まあ確かに男嫌いのタツが自分から『何かをしてやる』と言ってくるなんて珍しい事である。一応納得してガンも真剣に考え始めた。
「……寿命以外ッてんなら、おれもっと強くなりてえな」
「身長じゃなくて良さげ~?」
「うるせーばか! おれはチビじゃねえんだよ! おまえらがでかいだけだ!」
「強さ、強さか。それなら余地はありそうじゃの~」
チビじゃないをスルーされつつ、タツが鳩尾から手を離して一度立ち上がった。
「つか、有難えけどさ。寿命が短いッてだけで貰っちまって良いもんなのかな?」
「それは良いじゃろ。例えばベル殿やカイ殿みたいな長命種であれば、恩返しなどいつでも出来る。ガンナー殿には短い分、纏めて豪勢にと思えば~?」
「リョウとジラフ――メイは分かんねえけど、あいつらも短命種じゃん」
「巨人族か。見た感じ人間より少し長い位か~?」
何をするのかと見ていると、タツが顎を上向け喉の辺りを触っている。
「リョウ殿は短命種とはいえ100歳まで生きる顔をしとるよ。まだ先があるし、どう見ても大往生タイプじゃから。急いで今何かしてやらんでもよろしい」
「ジラフは?」
「ジラフ殿は何らかの魔術防御を掛けておるのじゃろな。そのせいでよく視えん。まあどうせ急いで以下同文」
「へえ……」
普段言わないだけで、タツは自分の知らない色んな事を感じ取っている。やや尊敬した面持ちで見上げていると、ずろりとタツが自身の喉から何かを取り出した。
「!?」
「じゃじゃーん! 如意宝珠~!」
間の抜けた声でタツが取り出した珠を掲げる。
「それ何?」
「無病息災、どんな願いも叶えるといわれる龍の玉じゃよ~!」
「よく分からんけどすげえ! 何で喉から出てきたんだ!?」
「儂が此処に仕舞っとるから~! ほれ、じっとしとくんじゃぞ」
「!?」
タツが珠をガンの鳩尾に押し込んだ。硬い感触は一切無く、熱い塊を押し込まれたような変な感覚だった。ぐいぐいと二度ほど押し込んで、手を離される。
「うむ、入った」
「……!?」
慌てて野良着の前を開いてみるが、跡形もない。触ってみてもいつもと同じだ。ただ体内に何か凄いものが入った感覚はあった。
「今は少し変な感じするかもじゃけど~! その内馴染む故~!」
「細かい説明無しで今おれなんか凄いことされなかッたか!?」
「そう! これは凄い事なんじゃよ! レアレアのレア~!」
「じゃなくて説明をくれ! 有難みがちッとも分からん……!」
何だか凄いらしいが説明が無いので、ただただ謎の玉を胸に押し込まれた人の気持ちになっている。
「じゃから、無病息災どんな願いも叶えると言われる龍の玉なんじゃて~」
「触れ込みはいいから! 実際の効果を……!」
「まず病気はせんじゃろ? 怪我の治りもこれまで以上に早い筈じゃよ。あと大抵の呪いは弾くし、今まで魔法抵抗ゼロだった所が儂位にはなっとる」
「ええ!?」
ガンが驚愕で目と口をカッ開く。
「ただ触れ込みとは違って、どんな願いも叶う訳ではない。目安としては儂の神通力の範囲内かの。寿命は延びんけど、ガンナー殿が清き心で強く願う事の補助には――……」
「うわあああタツゥ……!」
「なにごと~!?」
あまりの事にガンがタツへ飛びついた。男に抱擁されてもちっとも嬉しくないが、感激しきっているガンの様子は気分が良い。タツがふふんとした。
「タツゥ……これから嫌いなおかず全部おれが食ッてやる……!」
「まこと~!?」
「ケンの理不尽な暴力からもおれが守ッてやる……!」
「それが何より一番嬉しいいいい……!」
「おれが死ぬまでにはなッちまうけど、ダンジョンも付き合って最終層まで連れてッてやる……! 絶対だ……!」
「……は、うはは……っ!」
お返しの言葉で、本当に余程嬉しかったのだろうと知れた。大笑して、機嫌良さげにしがみつくガンの背をぽんぽん叩く。
「……それは助かるし、これからも頼りにしとるよ。その珠はガンナー殿が死ぬまで貸しておいてやる故、大事に使っておくれ」
「ウウ……まじで助かる。ありがとうな、タツ……!」
「なに、元じゃけど神の加護なぞこんなものよ。ケン殿の纏う祝福に比べたらささやかにも程があるし……本当は寿命を延ばせれば良かったんじゃけど……」
「いいや、これで十分だ。めちゃくちゃ嬉しい……!」
最後にぎゅっと強く抱擁してから離れた。こんなに凄い物を与えて貰って申し訳ない気持ちはありつつも、これがタツの友情だと思うととても嬉しい。
「うはは、そうも喜ばれると儂も気分が良いんじゃよ~!」
「まあ、牛小屋で加護を貰ッたって思うと若干臭え記憶になるけどな」
「タイミングは悪かったな~!?」
軽口を叩きつつ、ガンもタツもニコニコ顔で乳搾りに戻った。
「願いが叶う部分がいまいち分かんねえんだけど、過ごしてりゃ分かるか?」
「そうじゃな、簡単に言うと言霊が強くなる感じ~」
「言霊……ああ、言葉に力が宿るやつか。カーチャンに聞いた事ある」
「そそ」
びゅうびゅうと乳を搾りながらタツが頷く。
「如意宝珠の“如意”は“意のままに”という事じゃ。強い言霊は発した言葉通りの結果を引き寄せる力がある。悪用するとよろしくないが、ガンナー殿じゃからな」
「その願いの範囲が、おまえの神通力の範囲でッて事か」
「そそ、使い方によっては戦いにも使えるじゃろ~?」
「攻撃の入らないゴースト系に『おれの攻撃は当たる!』って願ったら当たるようになる、みたいな感じだよな? それッて。確かに使えるな」
その通りとタツが頷いている。その魔法は知っている魔法だった。凶兆戦の時に小人達のお陰で知った魔法、それに先日カーチャンと唱えた愛の魔法。それに類する魔法だと思う。
「じゃあおれ毎日、村の皆が幸せに暮らせますようにって唱えるよ」
「うはは、そりゃ良い! が、欲が無いのう~! 他に無いか〜?」
「あァ。おまえさッきおれに、寿命が短い癖に乳搾りなんかしてて良いのかって聞いたじゃん」
「うむ~」
「こうして村の皆と日常を幸せに過ごすのがさ、おれの一番やりたい事なんだよ」
ふんと得意げに鼻を鳴らして、ガンもびゅうびゅうと上手に乳を搾った。これも願いの力なのか、最初よりもずっと上手な気がする。タツがそれを横目で見て小さく笑った。
「…………そりゃ、中々満喫しとるのう」
「だろ?」
「うむ、よき人生じゃあ」
今度は終活とは言われなかった。二人とも満足そうに午前いっぱい作業を続け、昼になったらカレーを食べに行き――サラダにタツの嫌いなセロリが入っていたので、セロリは全部ガンが代わりに食べてやった。
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