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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第三部 ダンジョン編

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217 乳搾り

「今日はカレー曜日なのでお昼は夏野菜カレーです! お楽しみに!」

「ウオオオオ!」

「ヤッター!」


 リョウの宣言で、今日は朝から皆テンション高く仕事に出かけた。昨日収穫した畑の鋤き込みがあるため、ケンとメイとジラフ、力仕事や野良仕事が得意な面々は其方に回されている。ガンとリョウとタツ、残りの面子は家畜の世話に回され、カイは両方を行き来して監督するらしい。ベルは勿論汚れ仕事などしないので今日も小人の往診だ。


「牧場久しぶりに来たけど、何か種類増えてんな?」

「ふふふ、各地を巡って良い種を探して、牧場も拡張したんですよ!」

「カイさん頑張ってたもんねえ! 偉い!」

「何度見てものどかじゃの~!」


 初期は山羊と羊と鶏しか居らず、後は養蜂所がある位だったが、久しぶりに訪れると牛や豚やあひるが増えて敷地も随分と広がっていた。これは小人の手が無ければ辛いというのも頷ける規模だ。


「リョウと私で餌やりを回りますから、タツとガンナーは乳搾りをお願いしますね」

「おお、分かッた」

「よかろ~!」


 早速手分けして別々で動き始めた。元々労働を嫌い水出し位しかしてこなかったタツだが、何故だか最近は機嫌良さそうに働いている。


「タツ何かやる気あんじゃん。最近カイに引きずり回されてるからか?」

「乳搾りだけは性に合うんじゃよ~」

「乳なら家畜のでも嬉しいッて事……!?」

「うはは! 否定はせんけど~!」


 きちんと消毒し、小さい椅子とバケツを持って厩舎へ入る。山羊の乳搾りは習った事があったが、牛は初なのでひとまずタツから教わる事にした。


「まあ大きさは違うがそこまでやり方は変わらん。こういう感じ~」

「ふむふむ」

「量も子牛の飲み具合や乳の出具合で変わるからの。ガンナー殿はあの辺りの牛が何も考えず搾れるのでよろしい」

「……おお、個体差まで把握して」


 言われた通りにやり易い牛の方に行って作業を始めるが、どうにもタツが勤勉過ぎる気がする。良い事なのだが、これまで散々ごねられてきた身としては不思議で仕方がなかった。


「儂がいつになく勤勉じゃと思っとるな……!?」

「ああ、思ッてるよ……!」

「戦いも力仕事も、面倒な汚れ仕事も相変わらず御免じゃわい。じゃけど、こういう生命を世話する仕事は存外性に合っとるみたいで~。最初は毛嫌いしとったけど、カイ殿に引きずり回される内に多少は~という感じ!」

 

 確かにタツの乳搾りは手慣れていて、びゅうびゅう勢いよく乳が出ている。最近は家畜の世話をしていたというのは本当なのだろう。

 

「あァ……一応元神だからか……? 生命を慈しむ的な……?」

「一応は余計じゃあ……! あと厩舎の掃除とか面倒な所は人任せにしとる」

「こいつ楽しい所だけやッてやがる……! 乳搾り以外は何が出来るんだよ!」

「畑の水遣りと、羊だのを放牧した時の誘導かの~」

「水遣りは兎も角、他は牧羊犬代わりじゃねえか」

 

 まあそれでも以前よりは役に立っているという事なのだろう。


「それに儂、最近は死の土地も再生して働いとる! 褒めて良いんじゃよ~!」

「あァ、偉い偉い。前よりは偉い」

「もっと情熱的に褒めて欲し~!」

「まあおまえもちょっとずつ、おれらの暮らしに慣れてきたッて事だなァ」


 情熱的はスルーして乳搾りを続けた。タツは口を尖らせたものの、それ以上求める事はせず次の牛へと移っていく。


「これでも皆に合わせて頑張っとる。儂は寿命が長いから、時間の使い方も贅沢なんじゃ。まあ短命種が生き急ぐのは分からんでも無いけど~! 寿命短いし!」

「何だこいつ腹立つな! そうだよ、こっちゃ悠長にしてらんねえんだよ……!」

「ガンナー殿は特に短そうじゃけど、こんな所で乳を搾っとって良いのか?」

「!?」


 ガタッと大きな音を立ててガンの動きが止まった。タツの方は『そういえばちょっとだけ気になってた事を思い出した、ついでだし聞いとこ~』の顔をしている。


「おまえも分かるのか……?」

「そりゃ元神じゃし。ある程度は見えるわい」

「そうかァ……」

「何じゃあ、寿命なぞ個人差だと思ってわざわざ言わんかったけど。短命を自覚しとって、皆には内緒にしとるのか?」


 実にきまり悪そうにガンが頷く。タツが瞬き、一度首を巡らせてからまた乳搾りを再開する。


「ケンとベルと小人は知ッてる。それ以外は……」

「ほぉん、じゃあ儂は誰にも言わんどく〜」

「ありがとう……時期を見て自分で言いてえからさ」

「うむ、終活は本人の良いようにするべきじゃ」

「終活言うなよ……! まだちょっとはあんだろ……!」


 言い方が微妙なので大仰に顔を顰めた。タツが不思議そうに首を傾げる。


「残りがどの位かは分かっとるのか?」

「ベルには元々短命だッつわれてる。自分の体感だとあと数年だ」

「儂にもそう見えとるよ。もっと細かく知りたいかの?」

「分かんの?」

「調べればおよそ〜」


 此方の手はすっかり止まってしまった。牛の息遣いと、タツが乳を搾る音だけが厩舎には響いている。


「…………知りたい」

「よかろう」


 タツも手を止め、立ち上がると手を拭きながらガンの方へ近付く。立たなくて良いと促すと、その傍らにしゃがみこんだ。


「痛かったりは無いと思うけど、嫌だったら言うんじゃよ」

「お、おう……」


 タツの掌が鳩尾あたりに触れる。すぐにくすぐったいような鳥肌が立つような不思議な感覚が襲った。恐らくだが魔力か何かで魂? を見ているのだと思う。


「何だか色々されとるのう。罅の修復に――……これはカピモット神の力じゃな」

「あァ、ええと……凶兆戦で命の器? にでけえ罅が入ッて、それをマモ神がひとまず埋めてくれて……そんで、凶兆戦の褒美に何か貰えるッていうから……」

「神の力で器を保護するカバーを掛けたか」

「そう、それ……」


 この“カバー”に関しては、これまで誰にも言った事が無い。ベルだけは祝福を授かった直後に視て、仕様を理解したようだが細かい言及は無かった。


「不壊の祝福じゃな。内側の器が完全に砕けるまでは、どれだけ罅が入ろうと形を保つ、という感じか。強化でもなく――いや強化は出来んのかこれェ。まあこれなら死ぬ直前まで動けるし、寝たきりにはならんかあ……」

「すげえ、まじで視えてんな……」

 

 カバーの細かな仕組みまで言い当てている。今後ケンとの戦いで罅が入るのは前提で、死の直前まで動けるようにと思って頼んだ仕様だ。


「それで寿命の方なんじゃけど。無茶をしなければ、まあ後4~5年かの。ダンジョンでガンナー殿が無茶は出来んと言った意味が分かった。レベルを上げると器が傷むんじゃな」

「あ、4~5年もあんのか。無茶は、うん。そうだよ」

「も、て……! しかでは……!?」

「体感であと2~3年と思ッてたからさァ……!」

 

 体感より多かったので、ガンが嬉しそうな顔をした。タツは全然理解出来ない顔をする。タツの時間感覚では1~2年違った所でただの誤差だからだ。


「ハァ! あまりに無欲! 確かに哀れ! ベル殿が世話を焼く気持ちが分からんでもない~! どうしたもんかの~!」

「なにが!?」

「ちいと待っとれ! 今考える……!」


 タツが唸り始めた。今度はガンが全然理解出来ない顔になる。


「カピモット神でどうも出来んもんは儂にも出来んし、とはいえガンナー殿には結構世話になっとるからの……冥途の土産に何かしてやりたい所じゃけど……」

「おまえさッきから終活だの冥途の土産だの……!」


 言葉選びは大変よろしくないが、何やら自分の為に考えてくれているようなので、渋々ながら待つ事にした。

お読み頂きありがとうございます!

次話は明日アップ予定です!

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