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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第三部 ダンジョン編

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214 愛の魔法

 広くて4人は寝られそうな天蓋付きのベッドだ。遠慮して端の方に横たわると、物凄い力で中央まで引っ張り込まれた。


「なあ、くッ付いて寝ないと駄目なのか……!?」

「駄目よ。愛の魔法を使うのだから、まずあなたが愛を知らなくっちゃ」

「愛って――……むぎゅ、……!? ……!?」


 問い返す前に、頭を胸にぎゅっと抱き込まれた。柔らかい“豊満”に顔が埋まっている。数秒硬直し、その後逃れようとぐいぐい暴れるが物凄い剛腕で敵わない。30秒ほど格闘し、その後に諦めて脱力した。


「…………カイが……」

「母親が息子を抱きしめているだけでしょう? カイは変な風には取らないわ。寧ろケン様が『ずるい俺も抱き締めたいのに!』って羨ましがるでしょうね」

「あいつ何なんだよ。おれの事好き過ぎだろ……!?」

「うふふ、どの道言わなきゃバレないわ。ケン様にもカイにもね」


 見えないがベルが悪ぅい顔をしている気配がした。


「さあガンナー、これが“母の胸”よ。どう?」

「どうッて言われても、比較対象が無えからな……。母親どころか、そもそも他の女の胸も知らんし……」

「呆れた。知ろうと思えば幾らでも知れたでしょうから、思わなかったのね。比較はしなくて良いし、肉と皮で考えなくて良いわよ。今の感覚的にどう?」

「……んん」


 問われて、ガンが困ったように唸る。


「……柔らかい、あったけえ……ふわふわしてる……いい匂いがする。あと……」


 感覚的と言われて思い付くまま感じた事を口にする。他に無いかと考えて、気付いた。とくんとくんと音が聴こえる。


「心臓の音がする。……この音は、好きだな。落ち着く……あと、呼吸で胸が上下して、ゆらゆらするのが……気持ち良い……ような……?」

「うふふ、安心して眠くなる感じ?」

「あァ、それかな……? それだと思う……」

「よくできました。間違いなくあなたはわたくしの子よ」

 

 ベルの満足そうな声。抱き込んだ腕は解かぬまま、ガンの背をあやすようにぽんぽんと優しく叩いた。無人島で同じ事されたカイはギンギンに目が冴え興奮して眠れなくなったが、ガンはもう既にとろんと眠たいような気持ちになっている。これが違いで証明だった。ベル自身も覚える感情が異なるのを再確認している。


「さあ、わたくしの可愛い子。魔法を掛けましょうね」

「……どうやって?」

「この安心とぬくもりが、わたくしが母としてあなたにあげたい愛情。あなたは自分の子供と複製に何を与えたいの? 小人達に与えたお祝いを思い出して御覧なさい」

「ああ……」


 言われて思い返す。

 

『おひさまよりぽかぽかと健やかな子になりますよう』

『おつきさまよりきらきらと美しい子になりますよう』

『おほしさまよりぴかぴかと豊かな子になりますよう』


 健やかに、美しく、豊かに。ああこれは『そういう風に育ちますよう』という願いの魔法なのだな、と反芻して理解する。では自分は、自分の子供とクローンに何を願いたいのだろう。改めて考えると難しく、少し悩むように黙った。悩んで考える間にも背を叩く手は優しくて、とろとろ眠くなってくる。


 あちらの世界にこんな優しいものは無いから、願った所でだろう。素質と成長次第で多少辿る道は変わるのかもしれないが、どうせ最後はもれなく戦場に出されて使い潰されて死んでいっている筈だ。いや、一人だけ例外が居た。自分に恋した権力者の娘が、自分の子を産んで幸せに育てると言っていた。


 結局その子を見る事は無かったが、その子供だけはこうして母の胸に抱かれたのかもしれない。確かめる術は無いが、だと良いなと思った。他の子供とクローン達は、得られないのならその存在すら知らない方がマシだと思った。


「……もし不幸な環境なら、自分が不幸なのだと気付きませんように」

「ええ、他には?」

「……もし辛くて耐えられないなら、早く終わりがきますように」

「あなたらしいわ。他には?」


 小人のお祝いとは全然違う、後ろ向きで殺伐とした言葉しか出てこないがそれでも必死に考えた。ベルは否定も賛成もせず、ゆったりと先を促してくれる。


「……おれみたいに……、…………」


 自分は今幸せだ。過去の自分が不幸だった事も今なら理解できる。そして子供とクローン全員は、自分のようにはなれないだろう。だが、どうしたら一番不幸にならず、不幸を感じずに済むだろうか――と自分が考えている事に気付いた。


「…………愛と幸せが、見つかりますように」

「ええ」

「おれより幸せに、長生きできますように……かな……」

「そうね、よく出来ました」


 背を叩く感触はそのまま、つむじにベルの唇が触れた。くすぐったくて小さく身を捩る。笑う呼気が聴こえて――見えないけれど、今カーチャンを見たらこれまでで一番綺麗に見えるんじゃないかという気がした。


「あなたには見えないでしょうけど、今ちゃんとあなたの言葉は魔法になって成立したわ。いつか届くと良いわね」

「うん……」


 ベルにだけは、淡くきらきらとした“愛の魔法”が世界に溶け込んでいくのが見えた。いつか届くかもしれないし届かないかもしれない。だがこの瞬間確かに“存在”したのを見届ける。


「さあ、後はカーチャンが唱えてあげる。あなたはお眠りなさい」

「このまま寝るのかよ……?」

「そうよ、たまにはあなたも甘えなくっちゃね」

「…………」


 何を言っても無駄かと諦める気配があって、ガンが大人しく体の力を抜いて眠ろうとする。ベルがにんまりして、変わらず背を叩きながらあやすように子守歌のように引き継ぎ唱え始めた。


『――大事な坊や、可愛い坊や。沢山の愛と幸せに包まれますよう』


 ベルの言葉がきらきらと魔法になって、安らぎとぬくもりを与えるようにガンに降り注ぐ。元々の疲れと眠気もあったのだろう、すぐにすやすやと寝息が聞こえた。


『可愛い坊や、大切な坊や。大事な約束を果たせますよう』

『大切な坊や、わたくしの坊や。出来れば長く生きますよう』

『坊やの大切な欠片たちに、いつか想いを届けられますよう』


 其処まで唱え、ベルも目を閉じる。


「――いつかあなたの欠片がこの世界に来ることが出来たら、同じように抱き締めてあげるし、あなたの魔法も届けてあげるわね」


 もう一度可愛い坊やに口付けて、それからベルも眠りに落ちていく。二人がすっかり眠ってしまうまで、ずっとベッドの上にはきらきらと魔法が降り注いでいた。



 * * *



 翌朝、強く扉を叩く音で目が覚める。

 

「ベル嬢、居るか! ベル嬢!」

「ベル、朝早くにすみません……!」

「――……ふぁ、……なあに?」


 ベルが身を起こし、欠伸を噛み殺してベッドを降りる。ガンは余程疲れていたのか寝心地が良かったのか、まだぐっすりと眠っていた。聞こえた声からしてどうせケンとカイなので、ネグリジェの上に一枚羽織るだけで扉を開けた。


「おはよう二人とも。何かあったの?」

「昨晩ジラフさんとメイさんは戻って来たのだが、ガンさんが戻って来ていないのだ……!」

「屋敷で寝ているのかと思って少し探したのですが見つからず、行方不明なので所在をご存知ないですか……と……!」

「ああ……!」


 ベルがぱちくりとして口元を押さえる。


「此処に居るわよ」

「!?」

「!?」

「昨日は疲れていたから、わたくし寝室まで運んで貰ったの。ガンナーも疲れていたでしょう? だからそのまま此処で寝て貰ったのよ」


 ベルがどうぞと扉を開けるが、二人を中に入れる前に『お静かに』のポーズをする。そっと中に入ると爆睡しているガンが見えたので、二人もこくこく頷いた。


「本当だ。ガンナーは私に誤解される何だと嫌がったでしょうに……」

「オホホ! 無理矢理閉じ込めてやったわよ!」

「羨ましい……! 俺もガンさんと寝たいのに……!」

「今からなら寝てもよくってよ。見なさいあの赤ん坊のような寝顔……!」

「わあ可愛い……!」

 

 起こさないようコソコソと小声で話し、皆で寝顔を覗き込んだ。カイは誤解するどころか見通したように理解していたし、寝顔を見てほっこりしている。ケンも予想通り羨ましがって、カーチャンの許可を得たのでのしのし寝台に上がっていった。


「カイ、お風呂に入りたいの。小人達が居ないから、着替えを手伝って頂ける?」

「ええ、勿論です」

「後は任せろ……!」


 ケンが親指を立て、ベルをカイがエスコートして去っていく。此処まで誤解されないのも哀れな程に、ガンの心配は無用だったし信用され過ぎていた。

 

「ガンさんめ! カーチャン効果か安心しきって寝ておるわ……!」


 ケンがきもみ満載ルンルンでガンの隣に涅槃のポーズで横たわり、寝顔を眺めながら目覚めを待った。暫くして目覚めた時――カーチャンではなくケンが隣に寝ているのに気付いて出た悲鳴は、魔女の屋敷全体に響き渡ったという。

お読み頂きありがとうございます!

次話は明日アップ予定です!

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