212 お祝いの魔法
人間の赤ん坊に形は似ている。ただとても小さいし、オッチョオッチョの方の赤子はピンク色をしていて、ノックノックの方の赤子は緑色だ。掌に乗る位の小さな小さな赤ん坊が二人、夢と希望と花びらと葉っぱ、愛の魔法を敷き詰めた籠の中で『モヤァ!』と産声を上げた。
「おお……!」
『わ、わああ、わああああ……! パッタパッタ! 僕らの赤ちゃんだよ!』
『うっ、ぐす……! セッカセッカ……! 赤ちゃん生まれたよぉ……!』
すぐさま旦那二人が妻の元へ駆け寄り、籠を夫婦で抱き締めるように覗き込んでいる。四人とも喜びと感動で涙ぐみ――オッチョオッチョは涙ぐむどころか号泣だったが、皆心から幸せを噛み締めている。
『……ああ、見て。鼻の形があなたにそっくり』
『うん、耳の形はパッタパッタにそっくりだ。ありがとう、頑張ってくれてありがとう……!』
『ううっ、ぐす、嬉しい……嬉しいよぉ……! セッカセッカありがとぉ……!』
『っふふ、あなたったら赤ちゃんより泣いてるじゃないの……!』
ガンも安堵の息を吐き、幸せそうな二組の夫妻と赤ん坊を見て表情を緩めた。そこで不思議な事に気付く。最初は目の錯覚かと思ったが、彼らがきらきらと輝いて見えたのだ。彼らが発光しているという訳ではなく、幸せを喜ぶ空間がまるごと淡く光っているような気がした。
「――……」
怪訝に思って辺りを見渡す。メイとジラフの方でも出産が無事終わったらしく、寄り添い生命の誕生を喜ぶ小人夫妻に付き添っている。メイは感動で涙ぐみ、何度も産まれた時に掛けるお祝いの言葉を言っていた。ジラフも心底嬉しそうに声を掛けている。やはり其方の空間も、空間どころかお祝いの言葉すらきらきらと――音がそのまま小さな煌めきになって広がるのが見えた。
全然原理は分からなかったが、『あ、これ魔法だ』と思った。いつかベルに魔法の事を聞いた時、力こそパワーで言葉や精神力も魔法になるのだと言っていた。これはつまり“それ”だと思う。あまりにも強い嬉しい幸せな気持ちが見せている魔法だ。
『ね、ガンナーも見て! 緑色は男の子なんだ!』
『ええ、ぜひとも私達の赤ちゃんを見てちょうだい!』
『ぐすっ、うぐっ、ピンク色は女の子……!』
『ガンナー、上手に受け止めてくれてありがとう! 私達の子も見てちょうだい』
きらきらした幸せの魔法に目を丸くして見入っていると、小人達から声が掛かって慌てて向き直った。緑とピンクの赤ん坊と、幸せそうな両親達。『モヤァ、モニャア!』と元気な泣き声が聞こえる。相変わらず自分には、赤ん坊が可愛いか可愛く無いのかもよく分からないのだが、両親には世界一可愛く見えているんだろうと思う。
「お、おう……!」
目の前には見せるように掲げられたふたつの籠。生まれた新しい命。戸惑うように交互に見てから、息を吸い込み心を籠めて口を開いた。
「……おひさまよりぽかぽかと健やかな子になりますよう。おつきさまよりきらきらと美しい子になりますよう。おほしさまよりぴかぴかと豊かな子になりますよう」
お祝いの言葉を聞いて、小人の夫婦達が一層嬉しげに幸せそうにする。魔力が無い筈の自分の言葉も、何故かきらきらと煌めいて見えた。
「その、おめでとう……!」
『ありがとう!』
『ありがとう……!』
『ううっ、ありがとぉ……!』
『ありがとう!』
皆が発する煌めきが、自分にも流れ込んで来るような気がして不思議だった。その事を深く考える前に、また新たなベッドでピカーッと強い光が放たれる。まだまだ小人達は多く居て、出産ラッシュは続きそうだった。慌てて他の手伝いに駆け出しながら、ガンの顔には知らず笑顔が浮かんでいた。
* * *
――――結局全ての小人が出産を終えるまで、丸三日掛かった。手伝い組はほぼ不眠不休で頑張り、どの小人夫妻も無事に新たな命を授かる事が出来た。
「さ、流石に疲れたわね……っ!」
「疲れたけど、素晴らしい気持ちだぁ……! 疲れたけども……!」
「ケンちゃん達には悪いけど、アタシ達もちょっと休ませて貰わないとネッ……!」
「ああ……!」
小人達は予後の良い夫妻から順番に自宅へ戻り、今は赤子の世話に夢中だろう。残された四人はからっぽになった広間でぐったりとしている。
「もう、片付けは後日で良いわ……! 皆、御苦労様……! 戻って休んで良いわよ……!」
「へぇ……お言葉に甘えて……!」
「アタシはお風呂に入ってからにするワ……ッ!」
一足先に、メイとジラフがよろよろと帰っていく。
「……カーチャン、大丈夫か? 寝室まで運んでやろうか?」
「まあ、何て良い子なのガンナー! お願いするわ……!」
出産手伝い組も疲れていたが、ずっと洗礼と祝福を続けていたベルも働き通しだった。他と違って豪華なドレスで余計疲労も溜まっただろうと、仏心を出したのが運の尽きだ。
「分かッた。肩貸すんで良いか?」
「はァ? 疲れきったわたくしを歩かせる気?」
「…………」
どう見ても“おんぶ”には向かないドレスだったので、渋々“お姫様抱っこ”をしてやった。ベルが重い訳ではないが、疲れた身には中々堪える。
「うふ、よくってよ~! 息子にお姫様抱っこされるなんてカーチャンときめいちゃう! 寝室はあっち!」
「おう……」
『この女本当に疲れているのか?』という疑問が生じつつ言われた通りにカーチャンを寝室へと運んでいく。長い廊下はまだ良いにしても階段が中々きつい。落とさないように慎重に歩を進める事にした。
「……なあ、カーチャン」
「なあに?」
「魔法が見えたよ。皆ッつうか、全部きらきらしてた」
「ああ……あなたは妖精と縁があるし、彼らは魔力も強いから可視化して見えたのね。普段あなたが見えないだけで、魔法はあんな風に何処にでもあるのよ」
運ばれて上機嫌のカーチャンが頷いている。ベルには普段からああいう風に世界が見えているんだろう。成る程、とは思いつつも完全に納得は行かない。
「……何処にでも、は無えだろ」
「あなたの世界では無い所があったり、見えなかったりするかもしれないわね」
「おれの世界だと、機械が精子と卵子を選別してカプセルの中で培養されるのが殆どだ。だから今回みたいな感じでは絶対無えかな……」
「おおいやだ! 本当にあなたの世界ってお気の毒!」
ベルが呆れ返って肩を竦めるものだから、慌てて落とさないよう抱き直した。ガンの世界でも自然出産が皆無な訳ではないが、そもそも犯罪とされているので産んだ所で不幸を辿る。最終的に辿るとしても、見えないだけで生まれた瞬間には今日みたいな魔法があったのだろうかと考えてしまう。
「あなただけでも此方に来られて良かったわ。生まれた時に無くったって、後からでも魔法や祝福は与えられるのよ」
「…………成る程、確かに」
「なあに、魔法が欲しかったの? それともあげたかったの?」
「………………」
もうすぐ寝室、という所でカーチャンが悪戯顔でにんまり見てくる。どうして解るんだマジで怖え、とは思いつつ図星ではあったので溜息混じりに頷いた。
「後者だ。おれが望んだ訳じゃねえけど、おれには数え切れん位子供やらクローンやらが居るだろ。特に情がある訳じゃねえけど、今回の魔法と比べたらあまりにも落差があって――なんかこう、思い出したらちょッと哀れになっただけだよ……」
今更どうも出来ない事だし、と続けつつ寝室前でカーチャンを降ろそうとする。が、拒むようにがっつり首に腕を回された。
「なに……!?」
「言ったでしょう。後からでも魔法や祝福は与えられるって。世界を跨いで届くか分からないけれど、今から与えたって遅くは無いわ」
「……?」
「カーチャンも一緒に唱えてあげる――という事で、ここから戻るのも大変でしょうし今日は一緒に寝ましょうね坊や!」
カーチャンの笑顔も首に回った腕も強く、絶対に離れる気配は無い。ガンの方は言われた意味がまったく理解出来ないまま、ここ数日で一番の解せぬ顔で固まった。
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