第10話 皇帝降臨
ウィンドファルコン内の応接室で柊らは10年前に起こったUMA大襲撃の裏で起こっていた異星での活動の一つARTLシステムについての話を聞いていた。
次々と明らかになっていく驚愕の事実に柊の頭は追いつかなかった。
しかしそんなことを知る由もない崎村ことレゾン・ゲーテルは緊張した様子を見せながらも話を進めていった。
「その後、大統領令であの組織には大規模な捜査が入った、奴らのやってた活動はレゾン、お前の言った通りだったよ、そして関係者には処罰が下り、ALTERシステムの研究内容は全て破棄されたと私は聞いていたのだが」
「レオン兄さん、ピルヴィと名前を変えても奴らの行動は変わっていませんでした。こっちは部下を連れ去られたんです。」
崎村は先の東京湾での戦闘の事を話に持ち出した。
「あの組織の活動を全て廃止する事は結局出来なかったが、まだ関係者の生き残りが活動を続けていたという事か」
「!?、そんな、あの組織の危険性を知っていながら見逃してたんですか!」
レオンの知っていたのに見逃していたとも取れる台詞に崎村は激昂する。
「事情と言うのは時に何よりも優先されるのさ」
レオンの言葉に崎村は沈黙するしかなかった。
崎村少佐ら兄弟の会話に柊は入れずにいた。
しかしそんな隣では一人動きを見せた人物がいた。
「崎村……お前この話は本当なのか?」
その人物とはズバリジョセフ中佐のことであった。
「あぁ……」
「本当なんだよな……本当にお前は敵じゃねーんだな……」
「そうだ……」
崎村はそう言い小さく頷く。
すると……
「ドン!」
するとジョセフは涙を流しながらその場に立ち尽くした。
ぽたぽたと汗のように涙を流し小声でよかったっとただ繰り返しながら顔を下に向けていた。
だが次の崎村の言葉は衝撃的なものであった。
「だが俺はもうナディエージダ戻らないゾ……」
「!?」
「おい……な、なに言ってやがんだ?」
「今の話通りならお前はスパイでもなんでもねえはずだ」
「むしろ俺らの味方という味方も出来るはずだ!」
「そんな奴を俺たち(ナディエージダ)が裁くと思うか?」
「裁きは受けることになるだろう!」
「な、なんだと?」
「俺はお前たちとは違う星の住人だ……」
「そんな俺を味方などと誰が思うんだ?」
「お前がさっき俺のことをどう思ったんだ?」
「!?……」
ジョセフは崎村に対してなにも反論することは出来なかった。
だが崎村は話を続ける。
「だが……ありがとう……」
「例え地球人で信じてくれるのがお前だけであったとしても俺はとても嬉しく思うだろう……」
「信じてくれてありがとう……」
「崎村……」
「馬鹿言ってんじゃねーぞ……」
「俺のパートナーはやっぱりおめえじゃねーと調子があがらねえんだ」
「だから俺は例えお前が何星人だろうとホーム(ナディエージダ)に連れてかえっからな!」
「!?」
「なーに……心配すんな!上のお堅ーいじいさんたちの一人とはちょいと縁があってな」
「そいつに頼みゃーなんとかなっだろ!」
「だからお前はなにも気にせず戻ってこい!」
先ほどまでその場に立ち尽くしていたジョセフはいつの間にかいつも通りの元気を取り戻し崎村を励ますまでになっていた。
そんなジョセフの励ましに対し崎村は少し口元を緩めた。
そんな二人の様子を見守る柊も笑顔を見せていたがどこか素直には笑えずにいた……
崎村とジョセフとの和解も終わり一見落着となるかと思いきやその時だった!
「緊急事態発生!」
「繰り返します!緊急事態発生!」
突如モニター内が真っ赤に切り替わり警告音が艦内に鳴り響く。
「なんだ?なにがあった?」
レノンはすぐに応答した。
すると……
「レノン様……大変なことになりました……」
「とりあえずこちらのセイレーンからの映像をそちらに送ります」
外に出ていたレギーネからの報告だった。
映し出されたモニターの画面上では飛鈴のフェニックス、翼雷のゼロが容赦なく海賊の小型挺を仕留めていた。
「うむ、見事な共同戦線じゃないか」
レノンは形勢が逆転した事で安心したのか最初の頃の余裕な姿勢を取り戻した。
一方、ジョセフはモニターの戦況を難しい顔で眺めていたが、ふとある変化に気づく。
「ありゃあ何だ?」
一同が目を向けると、海賊の本船の真上に円形の光の輪が出現していた。
「ゲートだと?まさか海賊がUMAを!?」
レノンは驚きの声を上げる。
黒光りする円形のゲートから出てきた物、それは
「プテラノドン?」
柊は思わず知っている翼竜の名前を口にした。あまりにもそのUMAが恐竜図鑑で見た事のあるそれとそっくりだったからだ。
正体不明のUMAは背ビレの様な部分を発光させるとそこから熱線を放出し始めた。
熱線を回避し損ねたセイレーンの翼がバターの様に切られる。
「これは……ビーム兵器か?」
「まずい、早く全機をあのUMAから遠ざけるんだ!あれは……」
崎村がレノンに忠告するが、逃げる間もなくUMAの主砲がウィンドファルコンの胴体に直撃する。
バランスを制御できなくなった輸送機は斜めから海上に落ちていく。
衝撃で部屋全体が大きく揺れる。
柊はとっさに伏せの体勢を取った。
「……ッ!」
衝撃が収まったので目を開けると
部屋の有り様はさっきまでとはまるで別世界の様だった。モニターの画面は割れ、家具が散乱し、壁と扉はひしゃげた様になっていた。出口の扉には大きな穴が空いている。
「おい、柊、大丈夫か?はやくここを脱出するぞ」
「ジョセフ中佐!」
ジョセフに助けられながら柊はなんとか立ち上がった。
「翼雷達の機体が普通に出撃できたって事はスターダンサーもおそらく何もされていないはずだ、とにかくお前だけでも格納庫に行くんだ。」
「私だけですか?、ジョセフ中佐と崎村少佐は?」
「崎村なら向こうであいつの治療をしているよ」
ジョセフが言う方向に目を向けると
崎村がレノンの足の止血をしている所だった。レノンの方は目を瞑って何か呻いている。
「俺もあいつを運ぶのを手伝う予定だ、おそらくこういう時の脱出挺がどこかにあるはずだからな」
ジョセフはもう一度柊に顔を向けるとこう言った。
「モニターが壊れて外の様子も分からないが、あのUMAはこれまでのUMAとは次元が違う。外ではお前の助けを必要としているはずだ」
「ジョセフ中佐と崎村少佐はあのUMAについて何か知ってるんですか?」
「あれは恐らくエンペラーザウルスだろうな」
「エンペラーザウルスだと?レベル5のUMAを……海賊ごときが手なずけているなどあり得ない」
意識を取り戻したのかレノンが吐き捨てる様に言った。
「レノン様ご無事ですか!?」
二人の警備兵が駆け寄って来る。
一人が柊達に銃を向けようとするがレノンがそれを止めた。
「客人に銃を向けるな」
警備兵が銃を下ろす。
「兄上、あのUMAがエンペラーザウルスだとするともっと戦力が必要だ、そちらは今出せる戦力は無いみたいだが、こっちには俺達が乗ってきた戦闘機が3機ある。俺達を外に出してくれ」
崎村がレノンに交渉する。
レノンは崎村、ジョセフそして柊の方を見る。
「こうなってしまっては仕方ない、アルター、彼らを格納庫まで連れて行ってくれ」
「分かりました。」
柊達は警備兵の一人と一緒に壊れた出口に向かって駆け出して行った。
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道中はレノンの警備兵の誘導もあり、他の兵士に止められる事もなく、なんとか格納庫にまでたどり着く事が出来た。
柊はスターダンサーに乗り込むと急いでシステムチェックを行う。ジョセフの言ってた通り、幸い燃料を抜かれたりと言う事も無いようであった。
「よし、これならいける」
エンジンを立ち上げる。
柊は一気に機体を急加速させると外に飛び出した。
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・海上……
「みんなっ、無事かっ!? 助けに来たぞ!?」
出撃した柊は、間もなく戦闘中の仲間たちと合流し、力強い声で彼らに呼び掛けた。
「「柊中尉っ、良かった……これで百人力です」」
「瑠湖、やっと来てくれたのね。でもこれどうしよう……」
「柊中尉、こんなUMA初めてですよ……これ僕らで対抗できるんですか?」
先に出ていたパイロットたちは、戦闘中でも彼女の動向を気にしていたので
ようやく姿を現したことに安堵したが。いま置かれている状況は正直とても厳しいものだった。
ウィンドファルコンを襲撃した海賊たちを一蹴して楽勝ムードのはずが
敵方の戦闘機がゲートを開いて呼び出した、たった一体のUMAがその流れを変えてしまった。
体長は精々8~9mくらい、以前に戦った宇宙ダイオウイカやラスイートよりも遥かに小さく
あの強化版ヴァルラウンよりも少し下回るくらいで、これを見た楊や翼雷はレベル3以下のUMAだと思ったくらいだ。
そんな特に大型でもない存在が超強力なビーム砲を放ち、防御に特化したウィンドファルコンを
ただ一撃で撃墜し海上に叩き落したのだ。
(なんだこれは……こんなの相手にどうしろって言うんだ……)
船外に出る前に崎村たちに聞かされていたが、数10m先に居るその生き物を実際に目にして唖然とした。
全身から発する威圧感に加えて、これまでのUMAには見られなかった知性の高さをも感じさせる。
しかもその知性は狩りをゲームの様に楽しみ、獲物を痛ぶりながら捕える性質のもので
出会った相手にとっては全然好ましいものではなさそうだ。
これこそが、柊たちが初めて遭遇するレベル5のUMA・エンペラーザウルスである。
見た目は黒白の体に、四本の羽とヒレあとは鋭い牙とトゲがついた翼竜というところか。
勢いよく出てみたものの、どう戦えば良いか全く戦法が思いつかなかった。
宇宙ダイオウイカ戦のような全機で取り囲むヒット&アウェイも、上空では動きの鈍い宇宙ダイオウイカだから
通じた戦法であり、空中を巧みに動けるだろうこの相手には効果なさそうだ。
しかもレギーネら一時的に共闘する別の隊とどう協力して行くかという問題もある。
そう考えている最中その本人が真っ先に口を開いた。
「あのエンペラーザウルスが単独行動とは不可解です。通常なら群れで活動するUMAなのに」
「ええと……レギーネ少尉だったかな貴方の考えを聞きたい。あれを倒す手段って何かないのか?」
「無茶なことを言わないでください!! この戦力だけで対抗できると思うのですかっ!?」
柊ら地球のパイロットよりも多く宇宙間を行き来し、これら高レベルのUMAを見慣れているレギーネは
極めて現実的かつ厳しい提案をするしかなかった。
「一刻も早くこの場を離れることが望ましいのですが。まだ何名か船内に残っているので
全員が無事脱出できるまで頑張って持ち堪えてください」
この言葉に柊は勿論、普段は感情に乏しい翼雷も含めた全員が思わず
「「「「「ええええっーーーーーーーーー!?」」」」」」
と心底から驚愕の叫び声を上げてしまった。
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・海賊船……
ウィンドファルコンに攻撃を仕掛け、一時は通信手段を断って激墜手前で追い込んだのは
現在柊らと交戦中の海賊集団”KAN”。いまや彼らも窮地に追い込まれていた。
黒く塗られた本船の中央に設置された席に陣取る、厳つい体格をした軍服風の衣装に黒マントの黒ずくめな男。
その顔には苦悩の表情を浮かべていた。彼こそがこの海賊団の首領、ジェネラル・コウケイである。
「こんな筈ではなかったのだがなぁ…………」
もともと地球に侵入したのは、ここでUMAを狩りその肉などの部位を手に入れて 他所に売ったり、自陣の食料や生活用品などに加工するための資源調達が目的で、ウィンドファルコンの発見は思いもよらなかった。
通信を傍受してみたところ、あのバルベア国大統領・太宰弘ら要人たちの声が聞こえてきた。
内容を解析すると、地球出身の太宰が故郷に置いてきた娘を迎え入れるというもので。
断言こそしていないが、このままバルベアに連れ帰るつもりであることがコウケイには察せられた。
ここで彼はある企みを思いつく。
(どうやら太宰があの艦に乗り込み自ら娘を迎えるらしい…… よしっ、ならばそれを捕え人質にして
バルベアに身代金なり領土の割譲でも要求してみるか!?)
コウケイもあの輸送艦が諜報用であり戦闘用ではないことを知っている。
その用途を考えれば、自分の考えはあり得ることだと確信を持ち、これは絶好の機会だと思っていた。
しかし結果は見ての通り散々たるものだ。
ウィンドファルコンには充分な戦力はなく余裕で捕えることができると高を括っていたら
見たことのない高性能の戦闘機が次々現れ、たちまち劣勢に追い込まれていく。
反撃のために開いたゲートからレベル4の大型UMAでも出てきてこの場を引っかき回してくれれば
と思っていたら、エンペラーザウルスという想定外のとんでもない存在が現れてしまった。
「お頭……どうするんですかコレ……」
愚痴りながら問いかけるのは、実質的に本船の指揮を執る海賊団の参謀格アル・ジーニエンスであった。
こちらは大柄なコウケイをもずっと上回る、巨漢を通り越した大巨人だ。でも意外なことに役目は頭脳担当である。
当然、首領の思い付きの行動を諫めて止めようとしたのだが。長く続く地味な資源調達の活動に飽きたコウケイの
一山当てたい衝動を抑えることが出来ず、結局押し切られてこの事大を招いてしまった。
(今に限ったことではないが、この人の気まぐれには本当に悩まされるな……しかしどうにか乗り切らないとヤバいのは
こちらだから何か考えんと……よしっエンペラーザウルスのあの習性を利用すれば何とかなるか?)
いま距離を置いてにらみ合う、両陣営のちょうど真ん中の位置で、エンペラーザウルスは我が物顔で羽ばたいており
しばらくの間、いかにこのUMAを相手側に押し付け難を逃れるかという攻防が始まるのだった。
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・ウィンドファルコン……
柊を見送った後の機内に残る者はそう多くはない。
崎村とジョセフの治療を受けたレノンの足の怪我は幸い軽いもので、いまは自力で歩けるまでに回復している。
まずは機関室に連絡を取り、機体の具合を問い回復の可能性を探ったが。ダメージが甚大で再び上昇させるのは
不可能であり、かろうじて海上に浮いているものの、いつ沈んでもおかしくない状態だと報告が入った。
機長であるレノンが下した決断はこの場からの撤退で、自ら管制室に向かうと全乗組員に
脱出挺への避難を指示した。そして太宰らに作戦の失敗を伝えると同時に救援の要請を行うと
警備兵の案内で格納庫に向かう二人と合流した。その表情は残念そうでありながら、どこかサバサバしたものだった。
「たかが海賊風情と侮っていたら、こんなことになったよ……もう笑うしかないな」
「さっきから気になってたが、あれは一体何者なんだ?」
「あの武骨で悪趣味な黒い船体には見覚えがあるよ、ここ2~3年くらい前から勢力を拡大している
ジェネラル・コウケイ一味のだな。スピルウィアーの近くの衛星を拠点に活動しているが詳細は一切不明だ」
「我ら諜報組織”ルーセント”でも、脱走した元軍人ではと見当を付けてバルベア軍の全データベースを
当って徹底的に調査してみたが該当する者は出なかったよ。もしかすると他国の人間かもしれないな」
「本当に謎の人物なんだな……」
「ああっ、他の武装集団の様な略奪や虐殺は行わずむしろ壊滅させたり、危険なUMAを退治したりということが
度々あるので一部には義賊と見る向きもあるが。あれは偶然が重なった結果的なものだと私は見ているよ」
レノンの話を聞いたジョセフと崎村のコウケイへの印象は、少なくとも悪逆非道ではなく
ある程度話が出来る人物かもしれないと、僅かながら期待が持てるようになった。
「そうだ、そろそろ俺らも助けにいかないと危ないぞ。あいつら、エンペラーザウルスとの戦い方なんかまだ知らんだろう」
「ああ、かつて遭遇したことがある俺たちが。先輩としてお手本をみせてやらないとな!」
やがて格納庫に到着したジョセフと崎村は自機に乗り込む準備を始め、レノンはアルターという警備兵と共に
それに立ち会っている。
「じゃあ私にできるのはここまでだな。あとは自分たちでなんとかしてくれ」
「ああ、協力感謝するよ。あんたはイヤミな奴だと思ってたけど、家族への愛情や国への想いが心からの物という
ことは良く分かったよ。最初に会ったとき殴ってすまなかった」
「どういたしまして。これからも不肖の弟のことをよろしく頼みますよ!」
「不肖はないだろ不肖は……まあでも、今は久々に会えて良かったと思ってるよ。レオン兄さんにもよろしく伝えてくれ」
「ああそうだレゾン、餞別というわけじゃないが言う事がある。もし私たちと連絡を取りたいときや
スピルウィアーのことが知りたければ、東京にいるトム・ラーケンという記者を頼るといい」
「彼もかつてルーセントの一員だった。訳ありで我々から離れてしまったが、誠実な為人で信用できる人物だ」
「トム・ラーケン? 俺の様な亡命者が他に居たのか……覚えておくよ」
「それともう一つ、いつか俺が地球に来ることがあれば。あの美人な奥さんに会わせてくれ!」
「おいっ、待てっ兄貴、そこまで知ってるのかよ!? ほんと油断ならん人だな……」
「さてと、私はこれから乗組員たちをまとめて脱出の準備をするよ。二人とも幸運を祈る……」
こうしてレノンは船内に残る乗員の救出のため格納庫から出てしまった。
それを見送るジョセフは、笑いをこらえながら崎村にこう語りかけた。
「なあ崎村、お前の兄上はどこまでも面白い人だったな……」
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・バルベア官邸……
ウィンドファルコンの撃墜の知らせを受けた太宰らは流石に動揺していた。
レノンからの通信で詳細を把握し、柊をこちらに呼ぶ計画が破綻したことを理解すると
普段からは想像できない激昂した様子で、その原因となった存在を罵倒している。
「ええい、たびたび邪魔が入ると思ったらそいつらの仕業だったのかっ
許せんっ、宇宙海賊もエンペラーザウルスもまとめて血祭りにしてやれ!?」
「かっ……閣下、落ち着いてください。機内の皆が無事なのは確認されているのですから……」
秘書のマリーナが懸命に太宰を宥めているが、彼の興奮は収まりそうもない。
それを目の当たりにしながらレオンとマルスは今後の対応策を話し合った。
「こうなれば是非もないだろう、”猟鳥”をあの場所に送り込むぞ」
「おいっマルス本気か? レベル5とはいえたった一頭のエンペラーザウルスを倒すのに
あの部隊を使うのか、間違いなく『我らを舐めるなっ』と突き上げをくらうぞ」
猟鳥とはバルベアの航空部隊のなかでも精鋭中の精鋭である『ヴィルト』のことだ。
「ああ確かにな……特に隊長のシュバルツ・アードラーの耳に入ればそうなるだろうな
だがレオン、今そんなことを気にしてる場合か。お前の弟たちも危機にさらされているのだぞ」
そんな中、部屋のドアをノックする音が響いた。
マリーナの「入りなさい」との呼びかけと共に入室したのは、今しがた話したばかりの猟鳥部隊の一員だ。
180cm近い長身に腰まで伸びた銀髪。怜悧な美貌には余裕の笑みが浮かんでいる。
「ヴィクトリア・ヴァイスただいま参上いたしました。その任務、わたくしにお任せください」
この言葉に対し。男たちの唖然とした表情と、金髪秘書のニッコリした笑みという対照的な反応が返ってきた。
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・海上……
レギーネの言うことに従い柊らはエンペラーサウルスの撃破ではなく引きつけ役としてそれぞれに動いていた。
しかしその行動とは裏腹にどのパイロットたちも心の中では隙を窺っていた。
少しでも隙が出来れば殺す……
周囲にはそんな彼らの殺気で溢れかえっていた。
「レベル5……だがあれは恐らくまだエンペラーザウルスの中でも小さい部類のはずだ……」
「だからやれるはずだ……」
「あいつの動きが止まった瞬間ありったけの弾丸をぶち込んでやる!」
柊たちはエンペラーザウルスの周りをビュンビュンと旋回してゆく。
だがそんな互いに様子を窺っていく時間はそう長くは続かなかった。
「ピューン……ドーーーン!」
「なんだなんだ?」
1機のセイレーンがいる方角へ何ものかが砲撃を仕掛けたようだった。
しかしその爆撃はセイレーンには傷一つつけずに見当違いな場所で爆破された。
「あの方角からの砲撃ってことはあの海賊共か!?」
「というか今のは砲撃だったのか?」
パイロットたちはその砲撃の異変にすぐ気づいた。
「しかしこちらへの砲撃にしては規模と爆風が小さすぎる」
「いやないと言っても等しいくらいだ」
「一体あいつらなんのつもりで?」
海賊たちのあまりにも不自然な攻撃に柊たちは頭を抱えた。
だがしかしそんなことを考えるのも束の間にそれは起こった。
「柊中尉……」
「どうした早奈英?」
「あ、あの……エンペラーザウルスでしたっけ?」
「いなくなっちゃったんですけど……」
「「「!!?」」」
一瞬目を離した隙にエンペラーザウルスを見失ってしまったのである。
だが次に起こった出来事も一瞬の隙に起こった出来事である。
「シュッッッ」
「ドン!」
「ザバーン!」
「「「え?」」」
誰もが言葉を失ってしまった。
「な、何が起きたんですか……?」
パイロットたちの目に移った光景はこうであった。
1機の機体が急に海に沈んだ。
ただこれだけのことであった。
確かに一般人からすればこれだけでもかなりの衝撃的な光景であるわけなのだが柊たちパイロットはこのような光景は嫌と言うほど見せられてきた。
その為ただの機体の墜落なら彼らはここまで驚くことはほとんどないだろう。
では何が彼らをここまで驚かせたのか……
その大きな要因として速さがあった。
通常の墜落なら大体1,2秒ほどで海へと機体は墜落するのであったが今回の墜落に掛かった時間は0.5秒。
通常ではあり得ない速度での墜落であった。
「一体何があったんでしょうか?」
「ねえ皆これってもしかしてだけどエンペラーザウルスの仕業ではないよね?」
「飛鈴何言ってんのよ……あいつの姿は見えなかったんだよ……」
「あとまだ墜落と決まったわけでは……」
「ほらさもしかしたら私たちの見間違えでただ海が荒れていたとか……」
皆その不思議かつ異常な現象に怯え脳の動きを停止させていた。
だがそんな彼らの脳が再度活動し始めるまでの時間は意外にもすぐであった。
「ピッピッピッピッ」
「通信?誰からだ?」
柊たちは少し離れた場所から通信が入ったことに気づいた。
「はいこちら柊です」
その通信に真っ先に応答したのは柊であった。
「柊か!」
「こちら崎村だ」
「エンペラーザウルスの姿が見えないようだが今やつはどこにいるんだ?」
「それが我々にもわからないんです」
「海賊から謎の砲撃を受けたあと急に姿を消してしまって……」
「謎の砲撃だと……」
「!!?」
「全員その場から離れロ!」
砲撃のことを話した瞬間崎村の態度が急変した。
そしてそれを合図にしたかの先ほど謎の水しぶきが発生した場所が光り出す。
それは人によっては神の放つ光にも見えるほど神々しくそして暖かいものであった。
しかしその光は徐々に範囲を広げていきそれと同時に熱気が発生する。
その光景を見てパイロットたちは皆これが神が放つ光ではないことを知った。
そして一斉にその場から離れた。
「なんだ?なんだ?」
「眩しい……」
光は限界まで広がると一瞬にして消えてしまった……
だが次の瞬間!
「ドガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!」
この世の終わりを音で表したような大きな爆発音が辺りに5秒ほど続いた。
パイロットたちの目の前には大きな光の柱がそびえ立っていた。
あまりの神秘的な光景と絶望的な爆発音……
その二つが合わさり周囲は混沌としていた。
光の柱は音が消えたあとも数秒間残像として残り続けていた。
そして柱が消えたと同時にそこには先ほどまで姿が見えなかったエンペラーザウルスの姿があった。
若干残った辺りの眩い光に包まれたUMAの存在はまさに皇帝そのものである。
「あんなのに適うわけがない……」
「あれがレベル5……」
「もう終わりだ……」
「ギャアアアアアアーーース!!!」
エンペラーザウルスの甲高い鳴き声が周囲に鳴り響くと海や空から数体のUMAたちが姿を表した。
絶望が渦巻く中柊たちとエンペラーザウルスの命を懸けた勝負が今始まろうとしていた。




