22話 「Limited War: Preparation」
――伯爵領、『デ・コール』。
高い城壁に囲まれたその町の、とある館。
その執務室から、苛立ちに満ちた怒号が響き渡った。
「……出頭!?」
声の主は、コール伯爵。
商いによって一代で財を成し、財によって権力を手に入れたその者の目の前の机には、ライディア王家の印が押された書状。
――貴殿にまつわる事柄につき、王都ラールにて問いたい事あり。
文面はぼかされていたが、有無を言わさない圧力が、そこに込められていた。
要件は十中八九、「あの件」だろう。
王都に潜ませた密偵からの報告からも、恐らく間違いはない。
「只の噂として流してくれると思ったのだがな……」
クーデター。
この国の王座を、自分が狙っている――そんな噂が流れている事は、彼自身も知っていた。
――最初は、己の財力、権力を守るための「武力」だった。
だが、己の手の中に収めたそれらを見て、欲が出始めたのだ。
――或いは、己が王になってしまうのも一興かと。
その望みを固める前に、書状が届くのは予想外だったが。
(「……あの機兵さえ、手に入っていればな」)
ふと、脳裏を掠めるのは、失敗した一手。
見た事もない機兵を操る、余所者の一団。
あの力があれば、攻めるにしろ守るにしろ、もっと主導権を己の手に握れたはずだったのだが。
――商人の力を借りて送り込んだ工作員からの連絡は、未だ無し。
何かしらの理由で失敗したのだろう。
「……閣下」
扉が音もなく開く。
入ってきたのは、彼が信頼する執事。
「馬車の用意は、整っております。……ですが、その前に」
「どうした」
「王の御前に――閣下に関する『書付』が、届いております」
伯爵の眉が、僅かに、動いた。
「どういった内容だ?」
「はっ。……この一年で買い入れた小麦と塩の量。鉄と炭の入荷記録。石工と鍛冶に落ちた金の額。……そして、傭兵の雇い入れの、名簿にございます」
「……」
「いずれも、単体であれば、ただの商いの記録。……なれど、並べられれば」
男は、言葉を選ぶように。
「――反逆の意ありとも。そう読めまする」
沈黙が、部屋を満たした。
伯爵は、目を閉じる。
王の前に、既に『答え』が置かれているのなら。そこへ出向く事は、申し開きではない。
――ただの、出頭である。己の罪を、王の前にさらけ出す為の。
「……誰が届けた」
「そこまでは。……ただ、届けられたのは、商いの記録にございます」
「……商人か」
伯爵の脳裏に、ひとつの、脂ぎった笑顔が浮かんだ。
首都ラールの行商人。この館とも長く付き合いのある、あの小太りの男。
余所者の一団に工作員を送り込むために利用した、あの男だ。
「……フォンスだな」
我が家に出入りし、我が執事の使いを幾度も引き受け、そして――先の企てにも、一枚噛んでいた男。
誰よりも、こちらの帳簿に近い場所に立っていた男。
「――誰か! ラールへ使いを出せ。フォンス・ヴォーを、呼び寄せよ!」
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使いが戻ったのは、翌日の夜であった。
「……何だと?」
「は……フォンス・ヴォーは、既に。……数日前より、行方知れずにございます」
跪いた男が、額の汗を拭う。
「店は閉め切られ、蔵は空。奉公人には暇が出されておりました。……近隣の話では、夜のうちに荷を纏めて出て行った、と」
「……逃げた、か」
ぎり、と。伯爵の奥歯が、鳴った。
――探させるか。
いや。あの手の男は、逃げると決めれば、逃げ切る術を心得ている。国の外まで足を延ばされれば、もはや追う手立てはない。
そして、何より。
出頭の期限が迫っている。そこまでに何ら反応を返さなければ――王からの咎めは避けられない。
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その夜。伯爵は、一人、地図の前に立っていた。
(「……王を、消すか」)
解として最初に浮かんだのは、それだった。
王都には、既に幾人かの目を置いてある。その中には、刃を握れる者もいる。
王さえ倒れれば、全ての混乱の中で、書状もあの書付も、全て宙に浮く。
だが。
燭台の火に照らされた地図の上を、彼の指が、王城へと滑り――そして、止まった。
(「……難しいな」)
王城の防備は、堅い。衛兵、近衛、そして王都警備隊。加えて、王の側には探知力に優れた強大な魔術師も控えている。
――そして、失敗した時が、最悪だ。
暗殺を企てたという事実は、噂を『真実』へと変える。その瞬間、王の側には、こちらを討つ大義名分が生まれるのだ。
先に動かれれば、もはや難しい。例え兵力上では一戦の余地あれど、国全体と一領地では、補給などの地力が違うのである。
――時間を掛ければ掛ける程、不利になる。
(「……ならば」)
先手を以て、王が全国に散らばる兵力を集められる前に。
王都を。この国の要所を突けばいい。
「……先に、動く」
その夜。
噂は、真実となった。
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――空中戦艦『ベオウルフ』、格納庫。
引力ビームによって静かに引き上げられた白銀の機兵が、所定の位置へと収まる。
コックピットから降りてきたアレクシアの表情は、街へ降りる時のそれとは、明らかに違っていた。
「タクマ。動きがあった」
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ベオウルフ・会議室。
並べられたのは6つの席。
――だが、6つ目は、空いている。
医務室の治療カプセルの中で、眠り続けている男の席だ。
「……街の騒ぎは相当の物じゃ」
アレクシアが、そう切り出す。
「昨夜、コール伯爵が――兵を挙げた話でのう」
「……!」
千瀬の肩が、跳ねた。
「デ・コールの北にあった、王国の正規防衛軍。その砦が――一夜で、落ちたそうじゃ」
「一夜で?」
「うむ。……数が、違いすぎたのじゃろう。砦の守りは、精々が三百。対して伯爵の兵は、その、何倍もおったと聞く」
淡々と、彼女は続ける。報告に感情は入れるべきではない。皇を隣で見て来た彼女は、それをよく理解していた。
「王都には、既に早馬が入っておる。……街の者たちは、まだ半信半疑じゃがな。『貴族が王に弓を引いた』など、この30年は、ほぼなかった事じゃからな」
「……そっか」
タクマは、静かに、目を伏せた。
――砦の守りは、精々が三百。
その言葉の意味を、彼は、正しく理解していた。
(「……僕たちが、動かしたんだ」)
噂を流し、王に伯爵を危険視させ、追い詰める。
その先で、伯爵が逆上して反逆すれば、大義名分が立つ――そう考えたのは、他ならぬ自分だ。
そして、その通りになった。
――結果として、顔も名も知らぬ三百の兵が、一夜で消えた。
「……タクマ」
アレクシアの声が、ほんの少しだけ、柔らかくなる。
「その顔は、よい。……ただし、抱え込むでない。それは、お主一人の責ではない。決めたのは、この卓に着いた、全員じゃ」
「……うん」
――責任は、皆のもの。
オーエンが、あの夜、掠れる声で残していった言葉が、今更のように、胸に落ちてくる。
「……うん。分かってる。……ちゃんと、最後までやるよ」
「――で、だ」
空気を切ったのは、ACだった。椅子を後ろに傾け、気だるげに腕を組んだまま。
「上手く行きすぎてる、なんて思ってんならやめとけよ、リーダー。……噂ってのはな、流す先さえ間違えなきゃ、後は勝手に走るもんだ」
「……そういうもの?」
「そういうもんだ」
――一瞬。
ACの視線が、窓の外へと、流れた。
流れる雲の、その遥か下。首都ラールの方角へと。
「あーもう、それより!」
声を上げたのは、千瀬。指を、ぴっとACに突きつける。
「あんたのその『出歩き禁止令』、いつまで続くわけ? 備蓄はまだ保つけど、いつまでって訳にはいかないよ? またあの不味い栄養剤暮らしに戻りたいわけ?」
「……そりゃ面倒だが、こればっかりは譲れねぇぜ」
ACは、面倒くさそうに頭を掻いた。
――伯爵の件が動き出す前から、彼は一つの禁令を敷いていた。
街へ降りるのは、ACとアレクシアの二人のみ。食糧・日用品の買い込みも、情報収集も、全てその二人が交代で担う。
「…事が起これば、街は荒れる。強盗、殺人、戦になれば、乗じるヤツァどこにでも湧くもんだ」
それも自分の決断故か、と僅かにタクマは目を伏せるが、アレクシアの目線が向けられ、顔を上げる。
「あたしだって、狩人だよ? 気配くらい――」
「機体から降りたお前さんが、路地裏で五人に囲まれてどうする」
その一言に、千瀬が、言葉を詰まらせる。
「機体に乗ってりゃ、お前さんは最強の狙撃手だ。だがな、生身の話は別だ。……そこは俺と、そこの姫さんの領分だろうが」
「まぁ、そうじゃな」
アレクシアが、あっさりと頷いた。
「妾もACも、丸腰で往来に放り出されたところで、そうそう死にはせぬ。……そういう生き方をしてきた、というだけの話じゃがの」
「……はぁい」
不承不承といった様子で、千瀬が唇を尖らせる。
「……あの、それでしたら」
控えめに手を挙げたのは、サラだった。
「買い出しの目録は、私と千瀬さんで作りますわ。日持ちのするもの、切らしてはいけないもの……優先の順を付けておきますので」
「そりゃ助かる。頼むぜ、嬢ちゃん」
「……サラ。オーエンは?」
「はい。……容体は、変わらず安定しています」
サラは、腕のデバイスに目を落としながら、静かに答えた。
「ですが……治療の進みは、あえて、緩やかにしてありますの。急げば急ぐほど、後遺症の芽を残しますから」
「……あと、どれくらい?」
「もう少し、です。……申し訳ありません、はっきりとは、まだ」
「ううん。ありがとう」
――焦らない。
それは、あの夜、タクマが自分で決めた事だ。
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「それより、タクマ」
アレクシアが、話を戻す。
「街の様子を見るに――王は、動く。それも、早い」
「うん。……多分、義勇ギルドにも、依頼が来るよね」
タクマは、円卓の上で指を組んだ。
「反逆者の討伐。……正規軍だけじゃ足りないと判断すれば、王は必ず、力のある者を金で買う。この国で、それが一番早く集まる場所は」
「義勇ギルド、じゃな」
「うん。……そして、それを受注するには」
――ギルドの契約は、代表者の名と、その拇印で成る。
「僕が、行かなきゃならない」
「――だろうな」
ACが、身を乗り出した。その目付きは、既に、荒事の男のそれになっている。
「なら、条件がある。俺と姫さん、二人で付く」
「二人とも……?」
「ああ。俺らは自分の身を守るには、一人で十分だが……お前さんを街で発生するかもしれない危険から守るってなりゃ、話は別だ」
――正論だった。
だが、タクマの表情は、晴れない。
(「……二人とも、艦を空けるって事だ」)
脳裏に蘇るのは、あの日の光景。
首から流れ出た、大量の血。艦内に響いた、警報の音。
――『ベオウルフ』は、決して安全な場所ではない。
体積を縮小する魔術という、こちらの想定の外側から。あの一撃は、届いたのだ。
「……ごめん。それは、少し、怖い」
タクマは、正直に言った。
「二人が抜けたら、艦に残るのは千瀬ちゃんとサラと……眠ったままのオーエンだ。もしまた、同じ手で誰かを入れられたら」
「……あー」
ACが、頭を掻く。同じ光景を、彼も思い出したのだろう。
「――だったらさ」
声を上げたのは、千瀬だった。
「艦の高度、思いっきり上げちゃえばいいんじゃない?」
「高度?」
「うん。今の高度って、いつでも降りられるように、結構低く取ってるでしょ。……あれ、限界まで上げたらどうなると思う?」
千瀬は、指を一本、天井へと向けた。
「あたし、山で暮らしてたから分かるけどさ。……高い所ってね、寒いんだよ。それに、息もできない」
「……あっ」
「魔術で体を小さくしようが、何をしようが。梯子も無しに、雲より上まで届く手なんて、そうそう無いって。……上がってこられるなら、機体を使うしかない。機体なら――あたしが撃ち落とす」
――狩人の視点。
入られてから追い回すのではなく、獲物の通る道を、先に潰す発想。
「……ふむ。ならば、妾からも一つ」
アレクシアが、続ける。
「発つ前日に――艦内を、隅から隅まで、妾が『視る』」
「視る?」
「機体に乗ったまま、光の術を拡大させる。隠蔽の術は、光には勝てぬ。区画をひとつずつ潰していけば、丸一日は掛かろうが……見落としはせぬ」
「……そっか」
――穴を、二つとも塞ぐ。
入られてから対処するのではなく。入られる前に確かめ、そもそも入れない場所へと、家ごと動かす。
「……分かった。それでいこう」
タクマは、顔を上げた。
「アレクシアの捜索が終わったら、艦を上げる。ACとアレクシアは、僕に付いてギルドへ。千瀬ちゃんは艦の防空、サラはオーエンを頼む」
「はいはい、任せて」
「はい、必ず」
――全員が、頷いた。
(「……オーエン」)
タクマは、心の中で、頼もしかったあの背中に語りかける。
(「一人じゃ、君の思考にはどうしても届かない。でも、五人なら――」)
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――二日後。首都ラール、義勇ギルド。
「……うわ」
扉をくぐった瞬間、タクマの口から、思わず声が漏れた。
いつもは閑散としている受付前の広間が、人で埋まっている。
武具を提げた男たち。革鎧の傭兵崩れ。ローブを纏った術士。そして、機兵使いと思しき、目付きの鋭い連中。
その全員が、壁に貼り出された、一枚の羊皮紙を見上げていた。
――王命。反逆者コール伯爵の討伐に加わるべき、義勇の徒を募る。
――報酬は、金貨にして、下記の通り。
「何十年も遊んで暮らせる額じゃな」
アレクシアが、感心とも呆れともつかぬ声を出す。
「これは、王が本気で焦っておる証じゃ。金に糸目は付けぬ、という意思表示じゃな」
「……こんなに、集まるんだね」
「当然じゃ。危険な依頼ほど、報酬は高い。……そして、これは『負ける気のない側』の依頼じゃからの。王国が伯爵に敗れると思うておる者は、この中に、一人もおるまい」
「……よぉ。ウルフパックのお出ましか」
人混みの中から、大柄な影が、片手を挙げた。
赤茶けた短髪に、朗らかな笑み。チーム『ブレイザー』のリーダー、ボルト・バルト。
「あんたらが来ねぇわけ、ねぇと思ってたぜ」
「ボルトさん。……そちらも?」
「おうよ。ま、うちは警備隊の仕事で、この手の話には慣れてるからな」
そう言って、ボルトは、僅かに声を落とした。
「……だが、正直な話。相手が貴族の私兵ってのは、初めてだ。甲獣や盗賊とはわけが違う。連中には、指揮官がいて、隊列がある」
「……うん」
「あんたらは、強ぇ。それは、俺が身をもって知ってる」
その言葉に、嫌味の響きは、微塵もなかった。
「だからよ。……生き残ってくれよ。お互いにな」
差し出された手を、タクマは、しっかりと握り返した。
「――静粛に!」
その時。
広間の奥、一段高くなった壇上から、鋭い声が飛んだ。
立っていたのは、白と紺の礼装に身を包んだ、痩身の男。胸には、王家の紋章。
――王の、使者である。
ざわめきが、潮が引くように、収まっていく。
「集まった諸君の忠勇に、まずは王に代わり、礼を述べる」
使者は、広間をゆっくりと見渡した。
「依頼の内容は、掲示の通り。反逆者コール伯爵、及びその私兵の討伐である。……だが」
――だが。
その一語に、空気が、僅かに張り詰めた。
「参陣を望む者は、あまりに多い」
使者は、手にした巻物を、ぱさりと開いた。
「王国は、諸君の名も、腕前も、知らぬ。……知らぬまま、戦場に並べる事はできぬ。何が出来るのかも分からぬまま、貴公らを指揮する事は出来ぬ」
「……?」
「よって」
使者の声が、広間の隅々にまで、響き渡る。
「――大会を、催す」
一瞬の、沈黙。
そして、爆発するようなざわめきが、広間を満たした。
「静粛に! ……大会は、参陣を望む各ギルドの武を、直に競わせるものである」
どよめきを押し切るように、使者は続ける。
「その結果を以て、王国は二つの事を定める。ひとつ――得意分野に応じた、戦における、各方面への配置。ひとつ――報酬の、分配の比である」
「――ふざけるな! この非常時に、遊興か!」
誰かが、叫んだ。
だが、使者は、眉ひとつ動かさない。
「非常時であるからこそ、だ」
その声は、冷たいほどに、静かだった。
「デ・コールから、この王都ラールまで。兵糧を曳き、隊列を組んだ軍が進めば、如何に急いだところで相応の日数を要する。……伯爵とて、落とした砦を捨て置いて進む事はできぬ。後背を断たれるからだ」
であれば、金品の誘惑を以て義勇ギルドを使わずとも、王国兵だけでこれを粉砕する選択肢もあろうが――国全体に散らばった兵を集めるのも、同じような時間が掛かるのだろう。
他国がこれに乗じる可能性も捨てきれない以上、全員を集める事も出来ない、という事か。
「決戦までの猶予は、ある。ならば、その猶予を、備えに使う。それだけの話である」
使者の目が、広間を射た。
「腕の程も知らぬ者を、最前線に置いたとする。その者が崩れれば、隣が崩れ、隊列は割れ、後ろの兵が無駄に死ぬ。……戦場において、誤った配置とは、味方を殺す事と同義だ」
「……」
「そして、いま一つ」
彼は、指を二本、立てた。
「戦の後、報酬の取り分を巡って争わぬ者は居らぬ。……ならば、それを先に、決めておく。血を流す、前にな」
誰も、言葉を返せなかった。
「大会の詳細は、追って掲示する。……参陣を望む者は、受付にて、ギルド名と代表者の名を記されよ」
言うだけ言って、使者は、静かに壇を降りていった。
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ざわめきの残る広間の中で。
「……なるほどのう」
真っ先に口を開いたのは、アレクシアだった。その口元には、感心したような、それでいてどこか冷めた笑みが浮かんでいる。
「筋は、通っておる。通っておるが……あれは、それだけではないな」
「どういう事?」
「この機に、役に立つ者たちも選定しておこう、という事なのじゃろう。報酬に釣られるような者ならば、王家に仕える事もできよう、とな」
「……つまり」
「大会は、選別であり、査定であり――そして、値踏みじゃ」
――力を、測られている。
自分たちも、その一人として。
「へっ。……上等じゃねぇか」
ACが、口の端を吊り上げた。三白眼に、獰猛な光が宿る。
「回りくどいのは好かねぇが、話は単純だ。……一番になりゃいい。そうすりゃ、一番いい場所と、一番いい取り分を、向こうから寄越してくるって事だろ」
「一番いい場所、ね」
「ああ。……伯爵の、鼻先だ」
――タクマは、掲示された羊皮紙を、じっと見上げていた。
脳裏を過ぎるのは、一夜で消えた、三百。
顔も名も知らぬ者たちを、自分たちの策が、結果として死地へ押し出した。
その事実からは、もう、逃げられない。
――ならば。
(「……せめて、これ以上は。増やさない」)
力があるのなら。それを正しく振るえる場所を、自分の手で、取りに行く。
誰かに配られるのを、待つのではなく。
「……受付、行こう」
タクマは、二人を振り返った。
その顔から、いつものなぁなぁとした笑みは、消えている。
「勝つよ。……全部」
「――そう来なくちゃな」
――こうして。
『ウルフパック』の名は、王の大会の名簿へと、記される事となった。
戦の前の、戦が。
静かに、始まろうとしていた。




